NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':123 


 コップを手に、ジュースの注水器を操作する。
 カヲルはその横にある、持ち込み禁止と書かれている貼り紙を見た。
 このジュースが外のものとどう違うのか、実に判断に迷う所であったが、まあ、ただなのだから文句も無い。
 カヲルはそれで納得した。
 他にスナックも購入して、個室に戻ろうと振り返る。
「あっ!」
 とんっと胸に女の子がぶつかった。
「あ、ごめんなさい」
「こちらこそ」
 と、にこやかに言ってから引きつった。
「薫ちゃん……」
「え?、うそっ、カヲル君!?」
 引きつったカヲルの肩を、ポンと気安く誰かが叩いた。
「顔にまずいって書いてありますよ?」
「和子ちゃん……」
 さらに表情を強ばらせる。
「どうして、ここに?」
 和子は露骨に顔をしかめた。
「その質問は不味くないですか?」
「え?」
「だって、ほら」
 和子は薫を顎で差した。
 薫はカヲルの腕に組み付いて、むぅっと不満に頬を膨らませていた。
「カヲル君!」
「なんだい?」
「今日、合格発表だったんッスよ」
 あ……、とカヲルは青ざめた。
「それは……、おめでとう、なのかい?」
 苦笑する。
「だからそうやって訊ねるのが不味いんですって」
「そうなのかい?」
 恐る恐る和子に訊ねる。
「そう言う所、女心が分かってませんねぇ」
 楽しそうに言う。
「これで春からは後輩なんですよね、ううぅん、もう!、朝は一緒に待ち合わせしてぇ、ラブラブで学校まで一緒に、うふ☆、なぁんてね?」
和ちゃん、それ誰の真似?」
 薫はかなり本気で不服そうだったが、その内容は否定しなかった。
 否定しないどころか、さらに赤くなってカヲルに身を寄せる。
 カヲルは危機感を感じて顔を引きつらせた。
「と、とにかく離れてくれないかい?、僕も今日は連れが居るから」
「連れ?」
 こういう時、不意に顔を出すのが、お約束というものだろう。
「カヲルぅ、何やってんの?」
 振り返ろうとしたカヲルの首からは、油の切れた歯車の様な音が鳴っていた。
「ミヤ」
「へぇえええええええ?」
 剣呑な感じに半目であった。
「ひっととデート中に、そう言うことしてるんだ、ふぅん?」
 キッと薫の目がきつくなる。
「デートって?」
「ミヤ……」
「なに?」
「デートじゃなくて、勉強会じゃなかったのかい?」
 ふんと厭らしく笑うミヤ。
「そういうのはね、口実って言うの」
 むっとする薫である、自分も同じネタを使っていただけになおさらだ。
「カヲル君、誰?」
 困り顔で、適当で妥当な言葉を探す。
「幼馴染……、と言えばいいかな?」
 あら、っと不服そうに、ミヤは驚いた顔をした。
「もっとはっきり言ってくれてもいいんだけどなぁ?」
『ミヤ……』
 カヲルは思わず『裏声』を使用した。
『どういうつもりなんだい?』
 かなり非難めいた物言いだったのだが、ミヤからの返答は笑っていた。
『だって、なんだか面白そうなんだもん』
 絶句するカヲルである。
 当人にしてみれば、面白いでは済まない問題なのだ。
「むぅ!」
 案の定、薫はその『アイコンタクト』を敏感に察知して、よりぐっとカヲルに抱きついた。
「ねぇ、カヲル君」
「なんだい?」
「ちょっと一緒に来て欲しいの、みんなに紹介したいから!」
 素早くミヤは、カヲルの手からジュースのコップとお菓子を奪い、持ち上げた。
「カヲルぅ……、まさか放っていかないでしょうね?」
 むっとする。
「彼女面するのやめてくれません?」
 ふんっと笑った。
「貴方こそ、なにくっついてるわけ?」
 あら?、っと意外そうな顔をした。
「知らないですかぁ?、カヲル君って、こうするの好きなんですよぉ」
 と言って、胸をぐいっと押し付けた。
「こうして歩いてると、カヲル君って肘で押して遊ぶんですよね、知ってました?」
 勝ち誇った薫に頭を痛める。
「人を色魔のように言わないで欲しいね……」
「腕組んで歩いてりゃ肘くらい当たると思うんですけどねぇ」
 どうやら白熱した二人には、外野の声は聞こえなかったようである。
 戦いは今だ加熱している途中なのだ。
「ま、貴方の胸じゃあねぇ」
 っと薫は大胆にも嘲った。
「言ったわねぇ?」
 ミヤの顔に憤怒が浮かぶ。
「それだけは、言ってはいけなかったのに」
 カヲルは恥ずかしさから、顔を手で覆って逃げ出せないものかと考えていた。


「よっ!」
 その不精髭の男は、校門のすぐ横に乗り付けた車の中から手を振っていた。
「乗ってかないか?」
 溜め息一つ。
「相手が違うんじゃない?、加持君」
「こいつは手厳しい」
 リツコは窓枠に手をかけて覗き込んだ。
 中に当然あるべき人の姿が無い。
「ミサトはどうしたの?」
「逃げられた」
 肩をすくめる。
「恥ずかしいとさ」
 リツコは苦笑した。
「いい加減、大人しく捕まればいいでしょうに」
 ドアを開けて滑り込む。
「どうせなら、飲みに行かない?」
「おいおい」
 苦笑する。
「ミサトに叱られるのは嫌なんだけどな」
 と言いつつもギアを入れる。
 頭の中では、何処の店に行くか思案中だ。
 リツコも分かっていながらからかった。
「加持君が変な気を起さない限り、大丈夫でしょ」
「へいへい」
 加持は車を出しながら問いかけた。
「何かあったのか?」
 うざったく髪を掻き上げ、唇に細いタバコを咥え込む。
「ちょっとね……、今帰るとうるさいのよ」
「誰が?」
「母さんがよ……、電話にファックス、メールもよ、毎晩毎晩、いつまで男っ気無しで居るつもりだって」
「見合いの写真でも届くのか?」
「当たりよ……、それもダース単位でね」
 さすがに呆れた顔つきになった。
「おいおい……」
「これがまた、中身も母さんの趣味丸出しなのよね、若いのからお年寄りまで、髭の似合いそうな人ばっかりで」
「髭ねぇ……」
「髭よ」
 と言った時、何処か遠くでくしゃみをさせられた男が居た。


「あら、風邪ですか?」
「あ?、ああ……」
 かもしれん、までは言えなかった。
「北海道ですからね」
 その目は『生意気な』と言っている。
 ゲンドウは黙って目の前の食事に取り掛かった。
 蟹鍋だ。
 実際には、顔を上げるのが恐くて逃げてしまっただけだったのだが。
 人数が多くなったので、今日は釧路市の店まで出張っていた。
「あら、これ美味しい」
「ええ、本当に」
 正面の席で、にこやかに言葉を交わしたのはサヨコとユイの二人であった。
「本気で言ってるんですかね?」
「ああ……、少なくとも、ユイはな」
「そういうことって、出来るんですか?」
「出来る、ユイに限って言えば、悪いのはわたしで、彼女ではないからな」
 ガンッと言う音の直後、ゲンドウは脛を抑えて悶絶した。
「やっぱり奥さんのことは分かってらっしゃるんですねぇ」
 失笑をこぼしながら、少女はにこやかに蟹をゲンドウの皿へと取り分けた。
「どうぞ」
「ああ、すまんな……」
 涙目のまま、赤い髪の子に顔を上げる。
 はっと殺気を感じてしまった。
 急ぎ妻に顔を向ける、だがそこには何事もなく談笑している二人が居るだけだった。
 ゲンドウは心労から胸を押さえた。
 目はこちらを見ていなくても、第三の目が責めていた。
「どうかなさったんですか?」
「いや、なんでもない」
 言いつつも、ゲンドウは恨めしげに浩一を見やった。
「君も、いつまでもその恰好で居ることはあるまい」
「え?、でもこの方が面白い事になりそうだし」
 そんな内緒話を、やはりユイは仮面のような微笑でもって批難している。
 ところで、だ。
 ここに不幸な巻き添えを食った少女が居た。
(どうして、あたしここに居るの?)
 その疑問の答えはすぐ側にあってかなり遠い。
「食わんのか?」
「あ、いいえ、頂いてます……」
「そうか」
 加奈子はゲンドウの気遣いに、せっせと箸を進めることにした、進めることにはしたのだが……
 ぴりぴりとした空気を奥さんらしき人から感じてしまった、一瞬毒で舌先が痺れたかと思った程だった、あくまで、それはゲンドウに向けられたものの余波でしかなかったのだが。
「加奈子さん」
「はい!」
 ユイは緊張から震え上がっている加奈子に、ニッコリと笑った。
「遠慮しないで、しっかりと食べてね?」
「はい」
「大抵のことは、お腹がいっぱいになれば下らないと思えるものだから、もう死のうとしちゃ駄目よ?」
(そうじゃないんですけど……)
 しくしくと箸を齧る。
「そんなに美味しい?」
 ユイは泣く程なのかと、彼女の食べていたものに手を出した。
 そのやり取りにもまた浩一は爆笑を堪え、ゲンドウは……
「わたしは、胃に穴が開きそうだがな」
 と小さく呟き、またしてもテーブルの下で、脛をしたたかに蹴られる事になってしまったのだった。



続く







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Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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