NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':124 


「稀に、こう思うことは無いかい?、人生には往々にして選択を迫られる時がある、その時にはたわいの無い事だったとしても、後になって、ああ、と気付くって事さ」
「いいから!」
 御託を並べて逃れようとするカヲルを、アスカはこつんと叩いて止めた。
 シンジの隣に座らされているのは、結局巻き込まれたからにすぎない。
「どうして、僕まで?」
「あんたは参考よ、模範解答」
「なんだい、それは?」
 アスカははい!、っとレイに振った。
「それじゃあ行きまぁす、第一問」
 とんっと、スケッチブックをめくるレイ。
「想像して下さい、さあ、今日はデートです、手には映画の情報誌、さあ、どれを見ますか?」
「どれって……」
 考え込むシンジ、ミズホがちっちっちっちっちっと時を刻んでいる。
「はい、シンちゃん!」
「えっ……」
 シンジは恐る恐る口にした。
「相手に……、聞く、かな?」
 がっくぅっとレイは項垂れた。
「そうよね、シンちゃんならそうでしょうね」
「はい、カヲルは?」
「そうだねぇ」
 楽しげに答える。
「恋愛物……、とオーソドックスに答えそうだけど、ここはどうにでも楽しめるスリル、サスペンス、あるいはモンスターものだろうね」
「理由は?」
 まるで教師のようである。
「そうだねぇ……、恐がるも良し、抱きつくも良し、真剣にのめり込むのも、楽しむのも、隣の相手の反応を窺うのも、色々出来るからさ、恐くて見ていられないなら、それを理由にしがみついて、至福の時を過ごすのもいいだろうけど、純粋に映画を鑑賞すれば、その後は話題に困らなくなる、ま、長くは保たないだろうけど、それでも雰囲気は良く出来るからね、相手の子が、どういうデートを望んでいるのか、その雰囲気を探れるだけでも意味は大きいんじゃないのかい?」
 アスカは、ふぅっと溜め息を吐いて、気怠げに拍手した。
「あんたがホモで良かったわ」
「なんだい、それは?」
「あたし嫌よ?、あんたの彼女に嫉妬されて刃物で刺されるなんて」
「え?、アスカってカヲルと何かあるの?」
「あるわけないでしょ!」
 レイに唾を吐きかける。
「でもね、嫉妬に狂った子ってのは、一緒に住んでるってだけでどうとでも言うのよ!」
 くっくと笑ったのはカヲルだった。
「君が言うと、実に重みがあるねぇ」
「なによ!」
「シンジ君が誰かと歩いてただけで、頭に帯を巻いて蝋燭を立てる口なんじゃないのかい?」
「あ、似合いそー」
「レイ!」
「ほら、立ってる!」
 ぐっと詰まる。
「くっ、つ、次、行って!」
「はぁい」
 レイは笑いを噛み殺しながら、二問目を出題した。
「カヲルが良い前振りしてくれたけど、第二問」
 嫌な予感がする。
「本屋で立ち読みをしていて、たまたま女の子に出会いました」
 あっとアスカが口を挟んだ。
「マナって事にしておいて」
「え?、どうして……」
「いいから!」
「う、うん……」
 押し切られるシンジである。
「ええっとね……、シンちゃんは、マナに腕を組まれて、遊びに行こうと引きずられました」
 妙に話しが具体的になってしまった。
「あっ、そこでアスカに見つかりました、ずんずん来ます、こっちに来ます、笑ってます」
「恐いですぅ!」
「でもマナは離してくれません、笑ってます、ますますシンちゃんに甘えます、さぁ!、シンちゃんはどうしますか!」
「良く出来ました」
 ごんっ!
「っつう……」
 レイは涙目で悶えた、身をくねらせて痙攣している。
(ダンシングフラワーって、あったよな)
 とシンジが思ったのは秘密だ。
「うう……、ちょっと臨場感出しただけなのにぃ」
「余計な脚色はいらないのっ、ほらシンジ!」
「え?」
「さっさと答える!」
「え?、あ、うん……、そうだね」
 じゃあ、っとシンジ。
「取り敢えず……、アスカが来るのを、待ってる、かな」
「はぁ?」
「それだけ?」
「だって……、逃げたら恐いじゃないか」
 溜め息交じりの回答に、レイは素直に納得した。
「出題が悪かったかなぁ?」
「なんでよ!」
「だってぇ……、アスカじゃあ、ねぇ?」
「ですぅ」
 うんうんとカヲルも頷いた。
「これがミズホなら、きっと泣き出したミズホのために霧島さんを振り払うんじゃないのかい?」
「なんであたしなら違うのよ!」
「だってさ……」
 ぼそっとシンジ。
「どうせ叩かれるんだし」
「当たり前じゃない!」
「だからぁ、それがいけないんだしぃ」
「そうですぅ」
「まあ、全力で逃げた所で、捕まって袋叩き、待っていても、一発叩かれた揚げ句に首根っこ掴んで振り回される……、ここは霧島さんと噛み合わせて、その間に逃げるのが正解なんじゃないのかい?」
「かな?」
「ですぅ」
 うんうんと頷く三人に、シンジは同調しかけて危うくやめた。
「あ、ん、た、た、ちぃ!」
 雷が落ちた。
 シンジは雷雲が過ぎ去るまで目を閉じていた。
「……終わった?」
 そっと開くと、レイとミズホが抱き合い転がっていて、カヲルの髪は爆発し、目にはあおたんが出来ていた。






「ってことがあってね」
 カヲルは青く腫れている右目をさすった、その前ではミヤと薫が腹を抱えて笑いを堪えている。
「どうしてもシンジ君に女の子の心理とか、機微ってものを分かって欲しいらしいよ」
 翌日、文句を言ってやろうと一同に呼びされたカヲルである。
「そう簡単にいきますかねぇ」
 喫茶店なのだが、カヲルの隣には和子が座っていた。
 普通文句の出る所だが、どうにも女扱いされていないようだった。
「まあ、今更どうにもならないさ」
「ですよねぇ?」
 カヲルはそんな和子に、肩をすくめた。
 目尻に浮かんだ涙を拭いながら、ミヤが口を挟んだ。
「シンジにそんなのが分かるんなら、一緒に暮らしてなんていられないんじゃない?」
 薫の問いかける目に、ミヤは答えた。
「だって、三人居て、三人ともシンジが好きで、シンジが誰が一人に決めたり、三人と上手く付き合おうってしてたら、そんなの辛くて堪らないじゃない」
 ストローを口に含んで吸い上げる。
「好きな人が、あっちの子にも優しいのって、自分は特別じゃないんだなぁって、冷めたりしない?、想ってる間は、いいんだけど……」
「何かあったんですか?」
 和子は率直に訊ねた。
「この間ちょっとねぇ……」
 照れて頭を掻く。
「大学生紹介してもらっちゃったんだけど、その人が良い人で、面倒見がいいのよね」
「で、特別じゃなくて、扱い慣れてるってことなんだなぁって」
「なるほどねぇ」
 ふうんとカヲル。
「ミヤも色々と付き合ってるんだねぇ」
「そう言うカヲルはどうなのよ?」
 意地悪く見る。
「僕かい?」
「結構もてるんでしょ?」
「そうなんですよねぇ」
 失笑する和子。
「薫の部屋なんて、カヲルさんのアイテムグッズで埋まってるんですから」
「和ちゃん!」
「はいはい……、今更恥ずかしがんなくてもいいでしょ」
「もう!」
 ぷいっとそっぽを向く。
「まあ、アスカちゃんも言ってたけどね」
 カヲルは微笑を浮かべた。
「僕の答えなんて理想論だよ、きっとこうすればいいんじゃないのかって、想像してるだけさ、実際にはその場の雰囲気だってあるんだからね?、でもシンジ君の言葉は経験則だよ、それだけに重みが違うさ」
「シンジは、みんなの事を分かってるって事?」
「そうだよ?、シンジ君は三人に対して、その時どうすればいいか、良くも悪くも分かってるって事さ」
「じゃあ、その……、昨日やってたことって言うのは?」
 カヲルは薄く笑って言った。
「愚かってことさ」
 実に身も蓋もない意見であった。



続く







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Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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