ズボラなマナの寝間着は、薄いアンダーシャツとパンツの組み合わせ、ただそれだけである。
 モスグリーンのシャツには胸の突起がはっきりと浮かんでいた、マットレスの上に直に寝て、掛け布団を抱き締めている。
 白い下着は味もそっけもない、小学生が履くような代物だ、誰も見てないと思って横着しているのか、元々の嗜好なのか。
 茶色の毛はぴんぴんに跳ねている、彼女が言っていた通り、あまり良い環境で育てられなかったからだろう。
 シャンプー、コンディショナー、リンス、それにドライヤーを経過しなければ癖毛も直らない。
 時にはそれでも直らなくて、電子レンジで温めたタオルを頭に巻いているくらいだ。
 なら寝る時に気をつければいいのに、と言うのがマユミの意見である。
 マユミは長いからだろう、そうそう癖がつく事は無い、絡む事はあるようだが。
「う……」
 カーテンの隙間から差し込む朝日に、マナは顔をしかめて薄目を開けた。
 光が何かに遮られた瞬間、脳の何処かでスイッチが入った。
 手が自然と枕の下の銃を探した、寝相の悪いマナだ、枕が何処か分からないと言う間抜けな真似を0.5秒程晒してしまった。
 それでも指先がグリップに触れたら、後は実にスムーズだった。
 何千回とくり返した訓練通りの動きで狙いを定めた。
 銃口を窓に向けて引き金を引く、口径の割りに音が小さいのは特注だからだ、反動も少なくなっている、火薬が市販品とは違うのだろう。
 窓に三つの穴が穿たれる、それを見てマナは舌打ちした、防弾である事を忘れていたのだ、弾は貫通せず、相手を驚かせるにとどまってしまった。
 布団をまくり捨てて駆け寄る、敵は慌ててベランダの下へ逃げようとしていた、ロープを滑り下りる音が聞こえる。
 窓を開け、マナは下方へ向けてさらに撃った、相手が誰かは確認しなかった。
 ベランダの枠を蹴ってロープを揺らし、相手は避けた、クリーム色の都市迷彩服は、マナには嫌と言うほど見覚えのあるものだった。
「ムサシ!」
 とうとう降下を諦めたようで、真下の違法駐車車両に向かって襲撃者は飛び下りた。
 バンッと音が響いて屋根がへこんだ、そのままボンネットへ転がり、路面に下りて掛け逃げていく。
 その足元を弾が追いかけた。
「ちっ、足が速くなってる!」
 以前のデータを当てにした予測射撃だったのだろうが……
「マナさん……」
 隣のベランダで花に水をやっていたマユミは、一連の出来事をただ呆然と眺め、唖然と口を開いたのだった。






「ケイタ、何処行ってたんだよ?」
 ムサシは寝起きの顔をお湯で引き締めていた。
「あ、うん……、ちょっとマラソン」
「真面目だよなぁ、お前」
 呆れるムサシにケイタは心で手を合わせておいた。
 それは謝るというよりも、合掌している仕草であった。


「まったくもう!」
 ブスッくれているマナに苦笑する。
「朝から?」
「そうなの!、人の部屋に忍び込もうとするんだから、信じられる?」
 言葉に詰まったシンジを訝しむ。
「どしたの?、……あっ、シンジもやったことあるとか?」
 シンジは慌てた。
「ないよ!、そんなの」
「そう?、じゃあなに?」
 シンジはちらとレイを見た。
「あ〜〜〜、そう言う事ね」
 マナの含み笑いにレイは拗ねた。
「そんなの昔のことでしょう」
「今はしてないわけ?」
「だってシンちゃん、カヲルと同じ部屋だし」
「え!?」
 マナは驚いた。
「同じ部屋!?」
「うん、そうだけど」
 まじまじとマナは見た。
「良く無事で」
「みんなそう言うよ」
 軽く受け流す。
「でもカヲル君も大変みたいだからね」
「ああ、あの一年の子?」
「うん、もう一年以上付き合ってるんじゃないかな?」
 さらっとした言葉にレイが驚いた。
「え!?、ナカザキさんってカヲルと付き合ってたの?」
「違ったっけ?」
「違う違う、ナカザキさんアタックしてるだけで、まだ付き合ってないって」
「でも良く家に遊びに行ってるみたいだったよ?、デートもしてるし」
 ショックを受けるレイ。
「あいつ……、本気だったんだ」
「って言うか」
 マナがボケる。
「ホモじゃなかったんだ……」
「ホモって」
「両刀だったんだ、ショックぅ」
「どういう基準なんだよ」
「え〜?、結構売れてるよ?」
「何が?」
「シンジと渚君のツーショット写真」
「え゛……」
「相田君の裏ページで注文できるし」
 嫌な顔をするシンジとレイの二人であった。


 一方、アスカ達のクラスでは、マナに追いかけ回されたムサシが疲労困憊していた。
「お、俺が何したって言うんだよ」
 それなりに人当たりがいいからか、すでに友達が出来ていた。
「でもムサシの言ってたのって、霧島さんだったんだな」
「有名なのか?」
「そりゃあなぁ?」
 女の子が答えた。
「碇君と一緒に居るとこ、良く見かけるよ?」
「碇かぁ」
 ちらりとアスカとミズホのセットに視線が向けられる。
「あいつってモテるからなぁ」
「そうなのか?」
「うちのランキング上位の女の子って、まず間違いなく碇と知り合いだぜ?」
「でも碇君ってあんまり喜んでないよねぇ?」
「そうそう、なぁんか付きまとわれてるって感じぃ」
 ムサシは恐る恐る訊ねた。
「マナも……、なのかな?」
 うっと緊張が駆け抜ける。
「そっか……」
 ムサシは溜め息を吐いた。
「負けてらんねぇ……」
 机の上で拳を握り締める。
 そんなやり取りは、そう遠い席ではないアスカ達にも聞こえていた。
「アスカさぁん」
 ミズホの不安げな声に、ぎこちなく笑みを浮かべる。
「だぁいじょうぶよ、シンジが負けるはず無いから」
「そうではなくてぇ」
 この場に居るもう一人の子に振った。
「アスカ……、顔、恐くなってるわ」
「え?」
 ヒカリの言葉に、顔面の筋肉を揉みほぐしに掛かるアスカであった。



続く







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