「カヲル君は連れて行かれてしまった……、ケンスケは和子ちゃんと、マナは復活したムサシ君を今度こそ息の根止めるってスリッパを持っていっちゃったんだ、ゴキブリじゃないのに」
 分けの分からないシンジである、鉄柵に持たれて、裏庭を見下ろしている。
「みんな……、みんな居なくなってしまった、アスカ……、レイ、ミズホ、僕は、僕はどうしたらいいんだ……、とか言っててもしょうがないよな」
 どうやらかなり暇になってしまったらしい、そう言えば、と考える。
「放課後に学校に居るのって、久しぶりじゃないか」
 ぶらついてみるか、と思った拍子に、何かが引っ掛かった。
「あれ?」
 柵から身を乗り出して、下を覗く。
「ミズホ?」
 何やらジャージ姿で、懸命にバケツを運んでいた。


「ミズホ」
「シンジ様」
 パッと表情をほころばせる、その頬には泥が付いていた。
「何やってるの?」
「花壇を……」
 スコップを手にしゃがみ込み、球根を掘り起こしている。
「たまに土を掘り起こしてあげないといけないんですぅ」
「そうなんだ」
 シンジは何となく隣にしゃがみ込んだ。
 雑草を抜く手を眺めると、ミミズが居た。
「ミズホって、こういうの好きだよね」
「一生懸命お水を上げると、奇麗なお華が咲くんですぅ、まるで応えてくれたみたいで、嬉しくてぇ」
「ふぅん」
 何気に言う。
「一生懸命面倒見るよね、嫌にならない?」
「時々……」
 テヘッと舌を出し、ミミズをスコップですくって隅へよけた。
「でもでもぉ、お花さんが笑ってくれると、わたしも元気になれますからぁ」
 シンジは膝の上に頬杖を突くと、本当に嬉し楽しそうなミズホの横顔に見とれた。
 ぷくっとした頬は、ついついつついて遊びそうになってしまう、あんまり根を詰めているものだから、赤く紅潮していた、だが、辛そうではない、辛いのもきっと楽しいのだろう。
 そう思ったから、シンジはついこぼしていた。
「……ミズホってさ」
「はい?」
「良い奥さんになれるかもね」
「え?」
「面倒見いいし、育てるの一生懸命だし」
「は、い……、あの……」
 もじもじと土を弄り返す。
「あ……」
 赤くなったミズホに気が付く。
「あ、その……、ごめん」
「はいぃ……」
 二人で赤くなったまま俯く、それでも触れた肩は離さずに、もたれ合うようにしてお互いの体を支えるのだった。


 さて、いつもであればそんな乳繰り合いを邪魔する二人であったが、今日は別行動を取っていた。
「ヒカリもやるわね」
 レイと二人で、校門から出ると、アスカは門柱にもたれていた人物に気が付いた。
「あら」
「あっ」
 ども、っと会釈したのはミヤだ。
「なにやってんの?」
「待ち合わせ」
 アスカは該当する中から、適当な人物を選び出した。
「ムサシ君?」
「え?、違います、マナの方」
 言ってミヤはレイに相手をしてもらおうとした、そちらの方が気安いからだった。
「今日は二人だけ?」
「うん、ほんとは三人目が居たんだけど」
 ピンと来る。
「男?」
「シンちゃんのこと?」
「じゃなくてぇ、その子、男の子とどっか行っちゃったんじゃない?」
 レイは目を丸くした。
「分かるの?」
「友達が急に薄情になるのって、他に理由がないもん」
 アスカは呆れた顔で訊ねた。
「何かあったの?、あんた」
「え?、べ、別に何も無いですよ、うん」
「怪しい……」
「アスカ」
 レイの叱責に肩をすくめる。
「ま、あんたの友達関係なんてあたしには関係無いけど」
 つれない事を言っておいて、何故だか誘った。
「あんたも、しょっちゅう来るくらいなら転入すればいいでしょうに」
「え?、でも……、あたし中学出てないから」
 ふと、アスカは気が付いた。
「ねぇ……、レイ?」
「なに?」
「あんた小学校出てる?」
 複雑な顔をするレイだ。
「出てない……」
「よね?、じゃあ、中学の転校ってどうしたの?」
 正しくは、どうやったの、だ。
「お父様が……」
 ますます首を傾げる。
「シンジのパパって、そんなに偉いの?」
「え?、さあ、どうなんだろ……」
「まあ人一人転校させるのに、護魔化せるくらいの権力はあるって事よね?」
 レイは言葉を濁した。
「ある……、と思うけど」
「じゃあ、あんたを転入させる事だって、出来るんじゃないの?」
「あたし?」
 とミヤ。
「それは……、どうかなぁ?」
「まあ、あんたにその気が無いなら、この話はここまでだけどねぇ」
 さっぱりとした顔で笑う。
「あたしとしても、これ以上ややこしいのが増えないで欲しいし」
「ややこしいって」
「あんたもシンジ狙ってなかった?」
「あ、今は違う違う」
 パタパタと手を振る。
「今は、ね」
 ギロリと見る。
「あ〜あ、嫌なこと思い出しちゃった」
「なに?」
「あんたと同じ名前の子がねぇ、シンジにキスした事があったのよねぇ」
 ぎくりとする。
「そ、そう……」
「いつの間にかいなくなったんだけどぉ、ねぇ、あれって……」
「あ、そ、そう言えば」
 あからさまに護魔化しに掛かる。
「キスって言えば、アスカさん」
「なによ?」
「もう……、してるんでしょ?、シンジ君と」
 アスカは赤くなった。
「な、なによ、変な事聞くんじゃないわよ」
「あ、してるんだ、やっぱり」
 うんうんと頷く。
「そりゃ高校生だもんねぇ」
 何故か胸を抑えてアスカは喘ぐ。
「あれ?、どうしたの?」
「なんでもないわよ!」
「今時持病のシャク?」
「……あんた知ってて言ってんじゃないでしょうねぇ?」
「は?」
 本当に分からないようである。
「なになに?、何かあるの?」
「何でもないっつってんでしょうが!」
 その割りには息切れが酷い。
 レイが苦笑しつつ助け船を出した。
「ミヤは大学に入るんだっけ?」
「え?、うん、そうよ」
「何処の大学?」
「多分私立のどこか」
 ぽりぽりと頭を掻く。
「こう言うと何だけど、お金には困ってないし、勉強したいわけじゃなくてキャンパスライフっての?、遊びたいだけだから」
「呑気ねぇ」
 呆れるアスカに振る。
「アスカさんは?」
「あたし?」
「もう二年だし、進路決めてるんでしょ?」
「あたしは……」
 アスカはポリポリと頬を掻いた。
「多分大学ね、はっきり決めてるわけじゃないけど」
「それって、シンジ君が行くから?」
「あん?」
 アスカはキョトンとした。
「関係無いわよ、そんなの」
「そうなの?」
「だってシンジ……」
「大学って、行けるかなぁ?」
 レイも中々酷い事を言う。
「そんなに酷いの?」
「酷い酷い」
「けど」
 プッと吹き出す。
「シンちゃんが働いてるとこって、想像できない」
「そう言うあんたはどうなのよ、レイ」
「あたし?、一応バイト先は確保してあるけど」
「バイト?」
「タタキさんとこ、ネット専門のアイドルページ開くから働かないかって、人前に出ないで済むし、だから衣装代とか営業費用とか浮いて安上がりなんだって」
「それって予算が無いだけって言わない?」
「うん、だからバイト扱いなの、まあ繋ぎかな?」
「何の繋ぎよ」
「それはもちろん」
「いいわ……、聞きたくないから」
「え〜〜〜?」
 残念そうにするレイである。
「いぢわる」
「はいはい、なに?」
 アスカはミヤが聞きたそうにしているのに気が付いた。
「あの……、タタキさんって、誰?」
「ああ、テレビ局のプロデューサーだかなんだかしてる人よ」
「えーーー!?、レイって、そんなとこにコネあるの?」
「コネって……」
「あんた知らないの?、この子、テレビとか番組持ってたのよ?、地方ローカルだけど」
「すっごーい!」
 目をキラキラと輝かせて言う。
「ねぇ!、芸能人に会った?、ゲイノージン!」
「芸能人?」
「うんうん!」
 レイは、んっとっと思い出した。
「あすかちゃん」
「へ?」
「知らない?、あすか・ラングレーって言うの」
「ああ、あの惣流さんそっくりの?」
「パパの隠し子かと思ったわ」
「ほんと、二人とも顔見合わせてたもんね?」
 あっはっはっと笑いながら、笑えない、と考えている二人である。
 何しろその手の信用が置けない事にかけては折り紙つきの父親だ。
「っと、来たみたいね」
「シンちゃーん!」
 レイにつられて、ミヤも声を掛けようとして……、固まった。
「カヲル……、にムサシ君も」
「そこら中に手を出してるから、こういう時に困るのよ」
 と隠れて笑ったのは、尖った尻尾を生やしたマナであった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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