「ちょ、ちょっと何よ!」
「アスカズルい!」
「そうですぅ」
 お風呂場に追い詰められたアスカは、本気の二人に溜め息を吐いた。
「あのねぇ、幼稚園の頃の話を持ち出されたって、こっちが困るわよ」
 ジト目のレイだ。
「全然困ってないじゃない」
「うっ」
「なんだか頬が緩んでらっしゃいますぅ」
「ううっ」
「あ〜〜〜、もうどうしてぇ!、どうしてこんなにアドバンテージがあるの!?」
「そんなの仕方ないでしょうが」
「納得行きませぇん」
 涙ぐむミズホだ。
「わたしよりアスカさんの方が積み重ねて来た歴史に重みがあるなんて」
 どうやらカヲルの話に不満が爆発しているようだ。
「こうなれば、やはり今からでも」
「「ダメッ!」」
「レイさんまでぇ〜」
 しくしくと。
「だって、アスカさんが、アスカさんがぁ」
「それでもダメ!、まったくもう、どうしてシンちゃんもアスカの部屋なんかに」
「……あんた達が酔っ払ってくたばってたからじゃないの?」
「じゃあアスカはどうして部屋に居たの?」
「さあ?、あんた達と雑魚寝なんて堪んないと思って引き上げたんじゃないの?」
「ひっどーい!」
「ですぅ!」
「ま、それは冗談だけど」
 アスカは真剣に思案した。
「あたし、自分で脱いだの?、それとも……」
 もし脱がされたのだとすれば、誰にだ?
「やっぱりシンジが?」
「シンちゃんはアスカなんて剥いたりしないもん」
「ですぅ」
「どういう意味よ!、そりゃあ?、あんたみたいに胸が足りないんじゃ、脱がさないと面白くもなんとも無いでしょうけど?」
「ひっどーい!、アスカ酷い!」
「ふん!、先に言ったのはあんたでしょうが」
「良いもん、シンちゃんに揉んでもらうもん!」
「うう……、わたしの立場は」
「レイより大きいんだから良いでしょうが」
「わたしもレイさんみたいに小さい方が良かったですぅ」
「それ嫌味?、ねぇ?」
「ふきゃ!、触らないでくださぁい!」
「あたしが揉んであげるって言ってるの!」
「お断わりですぅ!」
「い〜じゃない、大きい方がシンジも喜ぶんだから」
「え?、そうなんですかぁ?」
「そうそう」
「そうですか、では」
 むんっと胸を張るミズホだ。
「よろしくお願いいたしますぅ」
 その嫌味ったらしい行為を前に、敗北感に打ちのめされるレイであった。






 駅の近くにある喫茶店の窓際に、マナとミヤの顔があった、それにもう一人。
「なんで俺が」
「付き合ってあげてるんだから、奢るの当たり前でしょ?」
 とムサシには冷たいマナだった。
「付き合ってくれるってんなら、普通に付き合ってくれよ……」
「じゃあここで愛の告白してみる?」
「ここでって……」
「ミヤちゃんの、見てる前で」
 ムサシは引きつりながら首を回した。
 手で作った橋の上に顎を落として、ミヤはニッコリと微笑んでいる。
「どうぞ?、ご自由に」
 がっくりと項垂れ、ムサシは引き下がった。
「情けないんだから」
 とマナ。
「でも情けないって言えば、アスカもか」
「え?」
「アスカってば、おたついちゃって」
 紅茶に口をつける。
「でも、普通慌てない?」
「そう?、相手がシンジなら、取り敢えずいいじゃない」
 ミヤは首を傾げた。
「マナって、そう言うとこ割り切ってるのね」
「なに?」
「だってシンジの事、好きじゃないの?」
 マナはキョトンとして肯定した。
「好きだけど?」
「だったら」
 ああ、と言いたい事を悟る。
「ミヤちゃんの言いたい事も分かるけど」
 苦笑する。
「でもね?、経験なんて結局流れの内でしょう?、どんな風にする事になるかなんて、もっと分からないじゃない、相手が誰でも、好きならキスだって、その先にだって進むだろうし、でもね?、もしかしたら別れるかもしれない、次に付き合った人が本当に一生を共にする相手かもしれないのよ?、だったら保険を掛けて先には進まないようにしておくの?、そんなの別れるの前提で付き合ってたのかって、今好きな人に嫌われるだけじゃない」
 目を丸くしているミヤに、さらに続ける。
「アスカの好きなのがシンジで、シンジもアスカが好きなんだから、それはそれで良いと思うけど?、問題無いし、贅沢なのよ、アスカって」
 マナは唇を尖らせた。
「あたしだってシンジは好きだけど、一生どうのこうのって言うと思い浮かばないもの、そんな先の話し、だったらどうなるか、どうしたいのか分かってないって事でしょう?、ならその間に他の人を好きになってるかもしれないし、ね?」
「けど好きな人が他の人と結ばれたなんて聞かされたら……、ショックだけどなぁ」
 ミヤに吹きこぼす。
「でも、ミヤちゃんも彼氏欲しいって言ってなかった?」
「う……」
「その彼氏だって遊びかも知んないのよ?、でもサせてくんないなら別れるって言われたら?、本当に好きなら問題無いわけだけど、自分はそうでも、相手は違うかもしれないじゃない?、けど、シンジなら、ね」
「酔っ払った上のことでも、ちゃんと責任取ってくれるか」
 ミヤも苦笑した。
「甘いから、シンジ君」
「そうでしょ?、それに覚えてない?、シンジ、謝ってたけど焦ってなかったでしょ?」
「うん、落ち着いてた」
「でしょ?、シンジって、もっと慌てるタイプだと思ってたんだけど、案外、アスカならまあいいやって、思ってたのかも」
 勝手な想像を口にする。
「昔っから一緒に居るから、何するのも一緒にやってきたから、こんなのも一緒にって、なんとなく思ってたのかも」
「って、それこの間貸して上げた本の」
「バレた?」
 ちろっと舌を出すマナだ。
「ほんとはねぇ、ちょっと嫉妬してるの」
 マナは本音をさらけ出した。
「でも彼女でもないし、シンジってそういう対象に見てくれてないから、喚くのも変だしね、ほんとにアスカと何かあったって事になってたら……、あたしも、こんなに落ち着いてなかったかも」
 両手でカップを挟んで、紅茶からのほのかな温もりを味わう。
「マナちゃん……」
「だからってねぇ、こぉんなの相手にして、シンジにおめでとうなんて言われたら余計ショックじゃない?」
 とムサシを目で差す。
「それでね?、シンジと付き合う事になった時に、初めてじゃないんだ、なんて言われたら、だったら初めての子を探せって逆切れしちゃうかも、だから、まあ、今は、ね……」
「迷ってるの?」
 うんと頷いた。
「やっぱり、ちょっと動揺してるのかも」
「シンジ君が、それでも良いって態度を取ってたから?」
「妬けるなぁ……」
 ほうっと吐息をついたマナに、ムサシは妬けるのはこっちだと愚痴っていた。


「こう、かい?」
「うん、そう……」
 戻って来た三人は、アスカのベッドで重なり合っているシンジとカヲルに顎を落とした。
「な、な、な!」
 怒声を張り上げる。
「なにやってんのよ!」
「へ?」
「そうよシンちゃん!、いくら未遂だったからって」
「言って下されば、わたくしが」
 尻尾頭を二人が殴る。
「そうじゃなくて!、人の布団で何やってんのよ、信じらんない!」
 シンジは慌てて身を起こした。
「ちょっと待ってよ!」
「もう終わりなのかい?」
 熱っぽい吐息、シナを作るカヲル。
「せっかく君のために頑張ろうと思ったのに」
「あんたねぇ!」
「アスカ!」
「なによ……」
「誤解なんだってば!、僕はただ、夕べどうしたのか、思い出そうと思ってカヲル君に」
「手伝ってもらったってわけ?」
「そうだよ」
「だからってねぇ!」
「あたしが居るのに」
「そうですぅ!」
「だぁ!、当人のあたしが居、居る、でしょうが!」
 真っ赤になりつつも怒鳴る、しかし迫力は皆無だった、ついでに人の部屋でやるなと言う話を忘れている。
「で、な、何か、思い出したわけ?」
 気まずさからアスカは訊ねた。
「うん……、やっぱり分かんないや」
 シンジは後頭部を掻いた。
「横向きになったアスカの首元に、顔を埋めて寝てたんだよね、顔でアスカの髪、踏んでたし」
 と言って頬をさすった。
「腕は抱きつくみたいに脇の下に差し込んで……、でも下に回ってたって事は、アスカが寝返りを打ったのかな?」
「知らないわよ!」
 気恥ずかしさから怒鳴る。
「そんなことどうだって良いでしょ!、肝心なのは、あんたにむ、む、胸!、直接触ったって事よ!」
「うっ……、そうなんだけど、さ」
「そうよ!、責任とんなさいよ」
「責任って……」
「あ〜〜〜、それで責任取ってもらえるなら、あたしの方が先ぃ」
「なんですって!?」
「だってぇ、シンちゃんとは一緒にお風呂入った事があるもん」
「わたしも、シンジ様には、色々と」
「なっ、なっ、な!」
 恥じらう二人に、ぷつんと切れる。
「シンジぃ!」
「そんなんじゃないってばぁ!」
「問答無用!、あんたバカァ!?」
 派手な激震が鳴り響く。
「けど、アスカちゃんだって、僕にキスしようって言った事が無かったかい?」
 唐突にこぼしたカヲルの台詞は、まさに爆弾そのものだった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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