あまり人通りの無い裏通り……、遠回りを選択した二人である。
 レイは冷静になって、自分の質問に照れ困っていた。
 無言のままのシンジも恐い。
 裏通りと言っても小さな喫茶店や保育園などもある、路地めいてはいたが、細くは無い。
 シンジはようやくと言った感じで、レイに答えた。
「ごめん……」
「え?」
「やっぱり、そういうのって、した方がいいのかな?」
 レイはぶんぶんとかぶりを振った。
「変な事聞いちゃって、ごめんなさい」
「いいんだけど、さ」
 シンジは苦笑した。
「この間も聞いたよね?、じゃあ、二人っきりになったら、そう言うことした方がいいのかなって」
 その時、レイとアスカは否定している。
「あれは……」
「分かってる、やっぱり嫌だよね?」
「嫌って言っても、シンちゃんとしたくないって言ってるんじゃないの、あの」
 シンジは笑って釈明を止めさせた。
「分かってるよ、僕だって、レイやアスカが、僕の知らない所で誰かと一緒に居たら、それだけで嫌だもん」
 レイは赤くなると、その微笑に「あぅ」と小さく呻いて顔を伏せた。
 白い肌が、首筋まで真っ赤に染まる。
「考えないように、してたんだよね」
 シンジはぽつりとこぼした。
「いつからそうしてたのか、分かんないけど、この頃考えてたんだ、最初はレイとアスカだった、両方にキスなんかして、ズルいって自分でも思ってた、次はミズホでしょ?、だからマナに好きだって言ってもらった時には、もう逃げるようになってたんだよね」
「マナも?」
「マナのはちょっと違うんだろうけど……、とにかくさ、ズルい自分が嫌だとか、そんなのじゃなくて、面倒になってたんだと思う、レイや、アスカや、ミズホの気持ちを考えて、ちゃんと答えを出して、それからだよな、とかさ、どうしてこんなに悩まなくちゃならないんだろうって思うと、いっそのこと、何もしないままの方が楽なんじゃないかって」
「そんな……」
「もちろん、最初からそんな風に考えてたわけじゃないよ、あの頃の僕って、そうだったんじゃないかなって、思っただけだから」
 シンジ自身、言葉を上手く選べていないようだった。
「一緒に居る、楽しい、嬉しい、苦労とか、悩んでまで、それを壊して、何が手に入るんだろうね?」
 レイは悩んだ。
「好き……」
「そうだよね、多分、好きだから、どうしても一緒に居たいんだと思う、ずっと一緒に居たいんだと思うよ?、けどさ、僕にはそれが分からないみたいなんだよね……」
 顔を上げると、シンジは前を見たまま、額に皺を寄せていた。
「シンちゃん……」
「うん……、レイでも……、アスカでもいいんだけどさ、好きだって、告白して、その後のことを想像していくでしょ?、でも、違わないんだ」
「違いって?」
「レイでも、アスカでも、ミズホでもそうだよ、三人とも性格なんかの違いはあるけど、今みたいに一緒に暮らして、笑って……、誰と一緒に居ても、大体似たような先しか想像できないんだ、思い浮かばないんだよ、ねぇ?、どうしてなんだろ……」
 それはレイには想像できない悩みだ。
 レイ、アスカ、ミズホにしてもだ、対象はシンジ一人である。
 対してシンジは、三人分の選択肢が存在している、なのにどれを選んだとしても結果に大差が見られない、なら。
 三人の誰、と言う問いかけに対して、誰でも同じと言う事になってしまうのではないのだろうか?
「もちろん、そんなはずないって分かってるんだ、けど……」
 その思考から抜け出すための指針が得られない。
「ごめん、訳分かんないよね?」
「ううん、そんなことない」
 慰め気味のレイに苦笑を見せる。
「好きになるのに理由は無いとか言うけどさ、これじゃあ、ただのいい加減な奴じゃないかって……、一度考え出したら止まらないんだよね、こういうの」
 シンジはそう言って、レイに顔を見られないよう横向いた。






 部屋の隅でお尻を向けて、ひーひーと笑いを堪えているのは和子であった。
「が、学校休むから何かと思ったら」
 布団の中から、顔半分だけ恨めしげに出して、薫は言った。
「だって……」
「あんたって、ほんっとに免疫無いもんね」
 椅子に座っているカヲルに訊ねる。
「どう思いますぅ?」
「まあ、仕方ないと言えるね」
「どうして?」
 肩をすくめる。
「人には誰でも、そう言った記憶があるものさ、例えば子供の頃に、お父さんやお母さんとお風呂に入った想い出があるはずだよ?」
 思い出す所があったからか、和子は頷いた。
「なるほど」
「薫にはそう言った想い出が薄いからね」
 入退院をくり返していた事を言っているのだろう。
「おぼろげにも想像できなかった物をいきなり見せつけられれば、ショックも受けるさ」
「つってもこうなってたわけじゃないでしょ?」
 っと、腕を直角に曲げて力こぶをパンッと叩いた。
 下品である、カヲルは引きつり気味に答えた。
「まあ、朝の生理現象程度にはね」
「小っさかったとか?」
「さあ?、あんまり比べたことは無いからね、同じくらいだと思うよ?」
 どうでもいいが、女の子の部屋で男女が交わす話題では無い。
 やはり薫は、湯気を噴いて茹だっていた。
「あ、こいつカヲル君の想像してる」
「和ちゃん!」
「似たようなもんなんっだって」
 だってぇ、だってぇ、だってぇと木霊し、揚げ句記憶が結像してカヲルの素っ裸を連想させた。
「あ、轟沈した」
「余りからかって、鼻血を噴かれると大変な事になるんじゃないのかい?」
「その時は着替えさせてあげりゃ良いじゃないですか」
「僕がかい?」
「なんだか慣れてそうだし」
「慣れてない、とは言わないけどね、流石に着替えを手伝ったことは無いよ」
「脱がせたことはあるんですか?」
「ないよ、……僕も『この』風体だからね、男女一緒に検診を受けていた、まあ、そんなところかな?」
 へぇ?、と目を剥く。
「そんな風には見えないですね、だって、カヲル君って元気そうだし」
「ま、色々とね」
 カヲルは適当に護魔化した。
「それより今は、薫のことだよ、この調子じゃあシンジ君の顔を見ただけでも倒れかねないね」
「変な所で純情だったり」
「だってぇ……」
 と蚊の鳴くような声がした。


 さて、薫同様にショックを受けていると言う点では、ミズホが奇妙なループに陥っていた。
(シンジ様の、シンジ様の、シンジ様の)
 流石にちょっとショックだったらしい。
(でもでもでもでもでもぉ)
 慌てたり、ぽうっとしたり、恥じらったりと、結局、珍しくシンジと全くの別行動を取っていた、登校もだ。
 単に顔を会わせるのが恥ずかしいからである、落ち着きが増すと共に、妙な想像が膨らんでもいた。
(でもってぇ)
 ある意味、一番健全に、不健全な事を考えているかもしれない。
 実際の所、時間に比例して、妄想はその形状を具体的に固定している傾向があった、これは危ない。
 現実との境目があやふやになって来るからである。
「あ、ミズホ」
「シンジ様!」
 自宅側にて、ふらふらと歩いていたミズホは、振り返るなりこう言った。
「新しい畳って、気持ち良いですぅ!」
「「はぁ!?」」
 シンジとレイの二人には、今ひとつ良く分からなかったらしい。






「まあ、昔から畳の目を数えている間にとか、天井の、なんて事は言うけどね、ミズホも中々、古い事を知ってるね」
「うきゅ〜……」
 廊下に正座させられていたりする。
「それを知ってるカヲルもカヲルだと思うけど」
「物知りなのは悪い事じゃないだろう?」
「余計な事を知ってるって点じゃ、同じじゃないの?」
「使うべき時に用いれば問題無いさ、それに僕なら、そんな我慢はさせないよ、シンジ君?」
 ごんっと異音。
「うきゅ〜……」
「僕もなのかい?」
 やれやれと正座二号だ。
「どうせなら、正と座の間に妻の字が欲しい所だねぇ」
「そうですねぇ」
 茶が欲しいような二人は無視する。
「そう言えば、アスカは?」
 スパンッと襖が開かれた。
「だぁ!、うるさいのよ!」
「う?」
 きょとんとしたミズホにぷちんと切れた。
「こっちゃあ山ほど宿題貰って苛ついてんだから、ちったぁ静かにしろってのよ!」
 ちなみに授業中ぼうっとしていたからだ、怒られたのである。
 座ったまま目を丸くして腰を抜かしたミズホの尻尾髪は、まさに尻尾のごとく膨らんでいる。
「まったく!」
 アスカはジロッと一同を見渡してから、引っ込んだ。
「……静かにしてよう」
「うん」
 シンジに同意するレイだった。


「まったくぅ」
 アスカは机に着くと頬杖をついた。
 目前の端末に表示されている問題に、答えは与えられていない。
 アスカの悩みは次の段階に入っていた。
 ぼうっとしながら考える。
(よくまあ、これでシンジにやらせようなんて、考えられたもんね……)
 この間の、ドームでのことを思い返していた。
(シンジにならやらせても良くって、自分なら迷う?、そんなの卑怯じゃない)
 だったら、どうする?
(レイに聞いてみる?、ダメね、この間のこともあるし、絶対反対されるわ)
 では、誰が居るのか?
 同じように力に精通していて、あるいはそのような特異な存在に渡りが付けられ、そして積極的な人物と言えば。
 アスカははたと顔を上げた。
「パパ?」






「どうしたね」
 冬月の問いかけに、アレクは腹の上に手を組み、背もたれを軋ませた。
 珍しくこの男が沈考している。
(アスカが……、そう動くのか)
 フル回転とはこのことだろう、天使とシンジ達、そしてその他のファクターに、アスカが加わる。
(不確定要素が増え過ぎる、か)
 もう一方では甲斐のことがあるのだ。
(修正可能な範囲を越えることは間違い無いな)
 口元に笑みが浮かぶ、それを見て冬月は……
(また悪巧みを思い付いたな)
 と嘆息した。



続く







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Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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