「まずい!」
 自分達にとっては画面の中の出来事であるが、彼女にしてみれば実体験である。
 冬月は緊急停止のレバーに手をかけた。
「まだですよ」
「しかし」
「まだです」
 アレクはアスカの映っている画面を注視したまま、足を組み替え、力を抜いた。
「あの子のためです」
 非常警告が響き渡る、赤色燈が付けられた。
『ただいまシステムに重大な負荷が掛かりました、リミッターの許容量を越えています、プレイヤーに精神汚染を確認』
「君は自分の娘を殺す気かね!」
「そうならないように、こうして見守っているんですよ」
 ニヤリと笑う、その顔に張り付いた笑いの形に、冬月は誰かを思い出し、込み上げて来たものに寒気を覚えて、震えを感じ、後ずさった。


Neon Genesis
EvangelionGenesisQ'132

「紅の喪章」


 シュミレーション上の人物データを仮想的に成長させるだけでも、そこには多大な計算式が存在する事になる。
 これを可能とするために、プレイヤーの周囲における友人を特定する、具体的に言えば出現頻度の高い者を確定し、より細かく修正を加えるのだ。
 不特定多数から、特定少数に搾るわけである。
 その少数から選び出された少年は、特に細かな改竄を与えられていた。
 彼女との応対をくり返す事で、不自然さや違和感を削られて、丸くなっていたのだ。
 このため、ここに居るカヲルと言う少年は、アスカにとってはシンジにも近しい、親近感を抱かせる存在となっていた。
「嫌ぁあああああ!」
 しかし『アスカ』はどうであろうか、現実としては十六歳だ。
 仮想として一桁からやり直しまた十六歳になったとしよう、するとどうだろうか?
 当然のごとく違和感が発生する、もっともその違和感が、これは現実ではないのだと、冷静な客観的視点を確立してくれるのだが。
 だがアスカは、何故だかそれを忘れてしまうほどに、のめり込んでしまっていた。
 理由は簡単である、アレクだ。
 アレクは成長シュミレーションプログラムに細工していた。
「アスカ!?」
 カヲルは目を剥いた、いや、正直に言えばそう反応を示した。
 プログラム通りに。
 そして凶弾に倒れる。
 これまた、入力されていた通りに、だ。
 目の前で人が死ぬ。
 それも親しかった人間がだ。
「来い!」
 アスカは腕を取られ、引きずられた。
「いや、カヲル、カヲル!」
 手を伸ばし、求める。
 しかし崩れ落ちた彼はぴくりとも動かなかった。
 エレベーターに近づく。
「ひっ!」
 運ばれていく『研究資料』に恐怖する。
 荷台に載せられていたのは、腕や足などの『パーツ』であった、それは中庭の『仲間』たち、彼らから採取した『部品』である。
「あ、ああ……、ああ」
 銃弾に倒れている子供が居た、頭半分吹き飛んでいる、なのにまだ生きて、泣いて、助けを求めていた。
(そんな、そんな……)
 夢と現実の境界線は既に消失してしまっている。
 建物の白がぶちまけられた赤に染まっていた、サイケデリックな模様が、アスカの精神を異常な方向に導いた。
(どうして……)
 こんな目に合わなければならないのだろうか?
 理不尽さが込み上げて来る、しかしだ。
 彼らはその理不尽さを感じてはいない。
 これが当たり前なのだと受け入れていた。
 ただ助けてと、それだけを望んでいる、崩壊や解放ではなく、見捨てないでと。
 何故か?
 そう導かれたからだ、家畜同様に、逃げられないから。
(逃げる?)
 そう、自分はこの境遇を、知りたいと思っていたから受容していたはずだった。
 なのに今はどうだろうか?
(あたし、馴染んでた……)
 この様に生きる事を。
 現実世界では、裸を見られることは恥ずかしかった。
 恥ずかしくて、嫌だった。
 なのにここでは?
(一緒に『洗浄』されて、『消毒』されて、男女の区別なんて感じなくなって、意識しなくなって)
『誰が悪い?』
 訊ねられた瞬間、アスカは反射的に答えていた。
(大人達、何もしてくれない、助けてもくれない、『わたし』達を刻んで楽しんでる、この人達、わたし達を人間だと思ってない!)
「あああああ!」
『アスカ』は悲鳴を上げた、被せられていたヘッドマウントディスプレイのフレームが歪むほどに、頭を振って、苦しんだ。


『あああああ!』
 電車を下りた所で、シンジはそのまま立ち止まった。
「ふぐっ」
 その背にぶつかるレイ。
「どしたの、シンちゃん?」
 赤らんだ鼻を押さえながら訊ねると、シンジは青ざめた顔をして自失していた。
「シンちゃん?」
 周りを気にして、乗降口から離れるよう背を押し、急かす。
「シンちゃん、大丈夫?」
 ホームの隅まで導いても、まだシンジは喘いでいた。
 脂汗を額に浮かべ、胸を掴み、荒れ狂う動悸に苦しんでいる。
「……聞こえた」
 短く息を切りながら答える。
「聞こえたんだ、今……、アスカだった、アスカの悲鳴だった」
「シンちゃ……」
 レイは息を飲んだ。
(赤い)
 気のせいではない、シンジの目が赤くなっているのだ。
 普段の色ではない、また過去に、力を垣間見せた時の色合いですらない。
 それが何を意味しているのか、レイは直感的に感じた。
(慣れて来てる)
 ぞっとする。
(何度も発現させてたから、覚醒は通り越してたんだ、暴走なんかで力を溢れさせていたのと違って、ある程度指向性を持って、明確に目的に沿った力を使おうとしてる)
 それは自分の経験に基づく発想なのだろうか?
「アスカが、どうしたの?」
「泣いてる……、泣き叫んでる、苦しんでる、なんだこれ、アスカが、入って来る」
 顔をしかめて、シンジはその方角を見た。
「戻ろう……」
「え?」
「戻ろう、アスカが、……大変なんだ」
「うん」
 レイは迷いがちにであったが、シンジの考えに同意した。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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