『システム、緊急停……』
 ブウン、と急激に駆動音が消える。
 換気扇のファンも止まった、ハッチが吹き飛ぶ、そんな機能は搭載されていない。
 では何が吹き飛ばしたのだろうか?
 止まったのはマシンだけでは無かった、ビル全体のブレーカーが落ちていた。
「負荷に耐え切れず、ブレーカーが落ちたか?」
「さて、どうでしょうか?」
 アレクは不敵に笑った。
「どういう意味かね?」
「そろそろ分かります」
 約三十秒が過ぎる、この頃には、冬月も言葉の意味を悟っていた。
「ばかな!」
 慌てて扉に取りつく、電子ロックの扉が、何の抵抗も無く開いてしまった。
 通路もまた、真っ暗闇に閉ざされていた。
「以前の襲撃以来、セキュリティー等はさらに強化されている、発電機、その回路も三系統から五系統に増やしたというのに、その全てが落ちたと言うのかね!」
「落ちてはいませんよ」
「なに!?」
 アレクはライターを二つ取り出した。ガス式の物をまず点けてから、電子式の着火器のスイッチを押す。
 内臓の電池によって電線が加熱し、赤くなるはずである、だが、点かない。
「思った通りですよ、これ、まだ新品なんですがね」
「何が言いたいのかね?」
「ATフィールドと言うものを御存じですか?」
 アレクは唐突に切り出した。
「ATフィールド?」
「AbsoluTeterrorFieldの略称ですよ、絶対領域、人の存在力場とでも申しましょうか、簡単に言ってしまえば、彼らの力の事ですよ」
 冬月は目を剥いた。
「理論が実証されたのかね!」
「未だ仮想域ですよ、今までのものより、多少具体的になっただけで」
 薄く笑う。
「第二次大戦時から、人類は変わりませんね、いつまでもそれがどういうものであるのか知らないままに、ただ利用法だけは確立していく」
「それが、今のこの状況と関係あるというのかね?」
「大いに、今、アスカは自分を見失い、暴走状態にあります、全てを拒絶するためにね」
「拒絶?」
「あの状況が危険であると、本能的に察したんでしょうね、それを見せようとする全てを排除したんですよ、一つのシステムをダウンさせても次が動く、それを止めてもまた次が襲いかかって来る、追い詰められる恐怖心は言うまでもありません、アスカは、今、憎むべき対象へ復讐するために動き始めている」
「よくそこまで分かるものだね」
「半分は想像ですよ、何しろ、ここからでは何も分からない」
 ジジッと、炎が揺れて、音を立てた。






 ふらりとポッドから抜け出して、アスカは虚ろな視線を漂わせた。
(ここは……)
 どこだろうか?、ぼんやりとする。
「うっ!」
 口を押さえて下を向く、うげぇと体内を満たしていた物が吐き散らされた。
 LCLと言う名の電化物質だ、しかし、アスカが連想したものは違っていた。
(血、血の味、血の匂い!)
 成分上の都合だろうか、LCLは確かに血に似ていた、その上、真っ暗では色も分からない。
「あ、あ……」
 アスカは血を吐いたと思ってよろめいた、どんっと、入っていたポッドにぶつかる。
 混乱を引き起こす。
(ここ、どこ!)
 泣きそうになる、落ち着けば分かるはずのことが思い出せない。
 ポッドは嫌な物を連想させた。
 研究施設の、医療器械だ。
「い、いや……」
 脅えて後ずさる。
 自分が吐いたものに足が滑った、転んでしまう。
「あ、あ!」
 無様に這いつくばって、もがきながら逃げ惑う。
 倒れていた時に方向を見失っていたのだろう、触れたものは、遠ざかったはずのポッドであった。
「嫌ぁ!」
 周り中にこの機械があるのだとアスカは錯覚した、そう広くないと言うのに、暗闇が無限の空間に思わせた。
(助けて、助けて、たすけて、タスケテ!)
 ガタガタと脅え、手を伸ばすのをやめて、丸くなる。
(誰か、誰か助けて、助けてよ……)
 アスカは必死に縋ろうとした、しかしその先を続けられない。
 友達はいない、みな嫌っていた、自分を嫌っていた。
 助けてなどくれない、逆に恨まれていた。
 大人など、もっと助けてくれそうに無かった。
 自分以外、頼れるものは誰も居ない、いや、違う、『102』には『たった一人』だけ存在していた。


「ここ?」
「うん」
 反対側のホームに戻って電車に飛び乗り、オフィス街に戻りつく。
 真っ直ぐ、引き寄せられるように走るシンジに、レイは戸惑いながらも続いて来た。
 やって来た先は、ゼーレビルだった。
「でも、電気消えてる……、あ」
 シンジはレイの言葉を聞かずに、階段を上がって正面ホールのガラス戸に手を触れた。
「いてっ」
「どしたの?」
 走った痛みに堪えながらも、シンジはもう一度触れた。
「静電気?、違う……、なんだこれ」
 中を覗き見て見ると、警備員が駆け走っているのが分かった。
「何かあったんだ」
 レイはレイで、唐突に青ざめていた。
「これって……」
 レイには分かったのだ。
「弱い、けど、これ、壁、力?、でもこんな……」
 困惑する、目を細めて、レイはビルを見上げ、注視した。
(薄く被うみたいに……)
「シンちゃん!」
「え?」
 肩を掴まれ、揺すられ、シンジはようやくレイを意識した。
「なに?」
「上の方で……、力が集まってる、ううん、違う、力が広がってる」
「誰かいるの?」
「ううん、知らない人……、呼びかけても、返事が」
『カヲル!』
 レイはぎくりとした。
(今の声!)
『助けて、助けてカヲル!』
 見てはいけない、見てしまっては。
 そうは思っても、レイは目を横向けてしまっていた。
(シンちゃん!)
 青い顔、シンジもレイと同じ場所を見上げていた。
 聞こえたのだ、その声が、あるいは感じたのかもしれない、レイは奇妙な確信を抱いていた。
(シンちゃんが『聞き』間違えるはず、ない!)
 先日までの嫉妬の原因が、最悪の形で発揮されていた。
 最も近かった二人だ、気配だけで存在を認知し合える二人だ。
 今の『声』の主が分からないはずがない。
「くっ」
 シンジの歯噛みに、悔しいものを感じ取る。
「シンちゃん……」
「行こう……、アスカを、助けなきゃ」
 伏せた顔に辛さを見る。
「うん……」
 レイは酷く疼く胸を掴み、シンジのために、言葉を噤んだ。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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