度胸があるのか、単に感覚が麻痺しているだけなのか、必死なのか。
 レイは余裕を失っているのだろうと、シンジに感じた。
 警報機、探知機の全てが切れているだけに、侵入は実に容易であった。
 人の目を気にする必要も無い、電灯が全て消えれば窓のない空間だ。
 息を潜めればそれだけで隠れた事になる。
 ガス式のライターや蝋燭などあるはずも無く、警備員も何故懐中電灯が点かないのかと困惑していた。
(そう言えば……)
 と、レイは気が付いた。
(シンちゃん、どうして分かるの?)
 非常階段を歩き登る、それはいい、しかしどうして踊り場を間違えずに折り返し、次の階段を登れるのか?
 この暗闇の中、手すりに掴まりもしないで。
(見えてるの?)
 自分のように。
 レイには判断がつけられない。
「ここだ」
 すうと言う呼吸が聞こえた。
 扉を開けて、シンジは行ってしまう。
 閉じかけた扉の取っ手を慌てて掴んで、レイは後を追いかけた。
(う、あ……)
 踏み込んだ瞬間、レイは非常に強い拒絶を感じた。
(これ……、ビルを包んでたのと、同じ)
 いや、もっと強烈にしたものだった。
(シンちゃん……)
 絶対におかしい。
(外では感じたのに、今は感じないの?)
 押し戻されるほどの拒絶感だった、なのに、シンジは歩んでいくのだ。
(絶対間違い無い、これ、力なのに)
 レイは同じ力で抗った、自分ですらこうなのだ、シンジはもっと影響されて良いはずだ。
 肉体に直接的にかかって来ているわけではないのだが、拒絶感と言う心理的な抵抗感が、突き放されていると感じさせるのだろう。
『こっちに来ないで!』
 悲鳴が聞こえる。
『嫌っ、嫌なの、独りは嫌ぁ……』
 この心理的な『描写』は、むしろ彼の心をえぐるはずだ。
 恐がられている、誰が?
 求められているのは、誰なのか。
 レイは掛ける言葉を見付けられずに、ごくりと喉を鳴らした。
 近づけない、近寄れない。
 レイは歩調を落して、距離を開いた、無意識にだが。
 シンジの顔を見たくないと、恐れたのだ。
『助けて、カヲル!』
(また……)
 泣きたくなる、その一言のたびに傷ついているのが端から見ていても良く分かる。
(どうして……)
 こんな時なのだろう。
 あるいは今だからかも知れない、切羽詰まったから、本音を泣き叫んでいるのだと。
 アスカの『声』は、それ程近しい者を呼ぶ声音であった。






 電化物質のもう一つの効能は、それが神経伝達物質と同じ働きを持っていると言うことである。
 これに大量のデータを流し込む事で、数年分の経験を僅か十分で体験させる事が可能になる、実際に体を動かせば、それに伴う時間の消費が必要になるが、感じるさせる分には、神経の限界速度で良いからだ。
 だが、アスカに加せられたそれは、精神をズタズタにするほど過大なものであった。
 これを可能にしたのは、間違いなく、アスカ自身にあった治癒能力を計算に入れていたからである。
「鬼だな」
 そう言う面では、と、冬月はアレクを見た。
「助けに行かなくても良いのかね?」
「いま行けば、殺されてしまうかもしれませんからね」
「親だろう?」
「その前に、仕事ですから」
 タバコに火を点ける、禁煙ルームだということは、無視してだ。
「シンジ君やレイちゃん、ミズホ、あの子達にのみ過酷な運命を課しておいて、自分の娘だけは、そんな言い逃れが許されるとは思っていませんよ」
 不敵に笑う。
「そんな逃げを打つくらいなら、キョウコと一緒にはなっていません、キョウコのことは、御存じですよね?」
「無論だ、レイ君達に組み込まれた因子の、初期実験体……」
「そう、ゲンドウと同じですよ、ただゲンドウのように、ユイさんから直接受けたものではないためか、力の発現には到りませんでしたが」
 ふうと息を吐く。
「ゲンドウと同じく、戦い続ける事を受け入れ、彼女を選びました、平穏に暮らしたければ捨てていますよ、何しろわたしはただの人間ですからね、隠れて生きる方法など、いくらでもあります」
「彼女達には、ない、と?」
「E反応の検知器は、じきに衛星に組み込まれます」
 冬月は片眉をぴくりと動かした。
「そんな報告は受けていないが?」
「勿論ですよ、これは『向こう』の情報です」
「君は……」
「情報だけなら幾らでも手に入れられますよ、問題は、その検知が頻繁に行われるであろうこの街にあります」
「第三に?」
「一極に集中し過ぎているんですよ、これを看過出来ますか?、戦場となった時の事を考えるなら、むしろ力を使えた方が安全です」
「そのための布石か……」
「木の葉を隠すなら森の中ですが、隠し切れないものなら火を点けて、混乱に乗じる道を選びますよ、わたしはね」
 と、アレクはタバコの火を、手の甲に押し付けて消してしまった。



続く







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