まるで引き寄せられるように、シンジのはその扉の前に立った。
「シンちゃん……」
 レイの声に緊張気味の手を開閉ボタンに伸ばす。
 カチリ……、もちろん無反応だ。
 シンジは扉に手を掛けると、力の限り横へと引いて、動かした。


Neon Genesis
EvangelionGenesisQ'133

「黒衣脱ぐ幽鬼」


 暗闇の中、アスカは凍えるように脅えていた。
 体を丸めて、震え上がった。
 ガタンと言う音に驚いて目を開くと、隙間が開いて、光が差し込んで来ていた。
「い、や……」
 光は次第に多くなる、その向こうに人影がちらついた。
 アスカの中で、やって来る医師の幻がちらついた。
「いや……、嫌、嫌!、いやぁ!」
 実際には光ではない、単に廊下の方が薄明るかっただけなのだが。
『いやあああああ!』
 それでも、恐怖を喚起させるには十分だった、再びの絶叫を上げて、アスカは意識を闇へと閉ざした。






「おじさん……」
 病院の控え室。
 シンジは差し出されたコーヒー缶に顔を上げた。
「アスカに……、あそこで、アスカに何をしていたんですか」
「まあ、座ってくれ」
 アレクは肩を突き押すようにして座らせた。
「アスカだが……、体に異常は無いそうだ」
「無いって言ったって」
「そうだ、ただ一つ、意識が戻らないということ以外は、問題ない」
 わざとらしく溜め息を吐いて見せる。
「あそこに居たのは、アスカのお願いでね、新型のヴァーチャルマシンのテストだったんだ、その途中でどうもアスカの心に傷を付けるようなシーンがあったらしい」
「傷?」
「詳しいことまでは分からない、ただ言える事は、アスカの心は酷く混乱しているって事だ、その混乱が治まるまでは」
「アスカは……、起きないんですね」
「そうだ」
 シンジは立ち上がると、アレクを押しのけるようにして、待合室から出ていった。
 アレクが薄く笑っている事にも、気付きもしないで。


「レイ」
「カヲル……」
「アスカちゃんの様子はどうだい?」
 レイは病室の戸をちらりと見てから、カヲルの腕を引っ張った。
「どこに行くんだい?」
「いいから!」
 非常口まで引っ張る。
「カヲル……、正直に答えて」
 肩をすくめる。
「やっぱり、『その』ことかい?」
「ええ……、アスカにキスしようかって、誘われたって言ってたよね?」
「僕もアスカちゃんが、何故あんな『声』で僕を呼んだのか分からなくて、本当に混乱しているんだよ」
「分からないはず無いじゃない!」
「でも本当に分からないんだよ……、あの時話したように、アスカちゃんは本当に自棄を起こしてたんだ、それ以上の感情は無かったし、それに第一、シンジ君以上に慕われるほど、アスカちゃんと仲良くなった覚えが無いよ」
「そう……」
 レイはカヲルの胸元を掴んだままで項垂れた。
「シンジ君は、あの声を?」
「聞こえないはず無いじゃない」
「最悪だね」
「誰にとって?」
「もちろん、みんなにとってだよ」
 カヲルは肩を掴んで、しっかりと立たせた。
「とにかく、僕はこうなった原因を確かめて来るから、レイは」
「分かってる、シンちゃんと居るから……、ミズホは?」
「突然聞こえたアスカちゃんの声にパニックを起こしてね、気絶した」
「そっちも?」
「と言っても、ミズホはただ気を失っただけだからね、ただアスカちゃんが倒れた理由を説明できない以上、変に騒ぐかもしれない」
「シンちゃんより手が付けられないかも」
「そうじゃないよ……」
「カヲル?」
「ことによると、シンジ君に泣きつくかもしれない、今のシンジ君は危ないよ、アスカちゃんに捨てられた、裏切られたと思ってるかもしれない」
「シンちゃんは!」
「それでもシンジ君は、笑って許そうとするんじゃないかな?、これ以上、ばらばらに壊れてしまわないように、それが勘違いだったとしても、シンジ君の中じゃ真実だ」
「ミズホに……、余計な事はさせない方が良いの?」
「そう言う事になるね、今はそっとしておいて欲しいと思っているはずだから」
「うん……」
 レイは悲しげにした。
「恐いの……、顔が見れない、ううん背中も恐くて」
「僕達でなくても、赤の他人でも分かるよ、それくらいシンジ君は、今、他人を拒絶している」
 カヲルは真剣に付け足した。
「それこそ、『壁』に匹敵するくらいにね」






 第三新東京市のビルはどれも高く、その屋上からは下界を睥睨する気分を味わえる。
 だがたった一つだけ、見上げる形になるものがある。
 それはゼーレビルだった。
「かつてバベルの塔は、神の怒りに触れて崩されたというけれど」
 赤い髪の少年はそう呟くと、背後に立った気配に振り向いた。
「あの塔もまた原罪に汚れている、そうは思わないか?、カヲル君」
 カヲルは浩一の横に並ぶと、同じように髪を風に吹かれるままに流した。
「罪にまみれているのは、何もあのビル一つに限った事じゃないよ」
「そうだね」
 頷き、浩一は話し始めた。
「今回は完全に後手に回ったよ、あのビルには外界と接点のない、隔離された施設が幾つかある」
「君にも調べられなかったというのかい?」
 カヲルの疑念はもっともだった。
 例えシステムそのものは監視できなくても、監視モニターは存在するし、そのモニターはコントロールルームに、さらに言えば中央コンピューターに繋がっている筈なのだ。
「あそこにあるコンピューターは特別なんだ、僕の『力』では相対するのがやっとでね」
 肩をすくめる。
「それにしても妙な話しさ、あの人がこの街から離れた途端に、これだけの事件が集中する」
 あの人が誰を指すかは、言うまでもないだろう。
「惣流さんの診療は終わったよ」
「で、どうなんだい?」
「精神波長にかなりの混乱が見られる……、治療はそう難しい事じゃないね」
「頼めるかい?」
「やるのは、君だよ」
「僕が?」
「理由は分からない、ただうわごとのように、カヲルとくり返している、君の方が適任だよ」
「僕には、そんな力は無いよ」
「いいや、かつて君はある女の子の心を救ったはずだ、体だけでは無く、ね」
 今度はカヲルが肩をすくめる番だった。
「そこまで知ってるのかい?、でも、あれは……」
「そう、シンジ君だ、シンジ君の協力があったからこそ成しえた事でもある、それが今回の最大の問題でもある」
「説得してみるよ」
「まだある、最大と言ったのは他にも気になることがあるからだよ」
「気になること?」
「惣流さんの声は、君達とは違う僕にすら聞こえたよ」
「みんなに聞こえないはずが無い、そう言いたいのかい?」
「君達だけじゃない、もっと多くの……、だって、この世界には逃げ落ちたもの、隠れ潜んでいる人、そして未だ捕まっている人達と、多くの人がいるんだよ?、あの声は彼らを脅えさせたんじゃないのかな?、あの声は……、僕達のような人間に共通する恐怖を喚起させるものだったよ」
 浩一は遠い目をして、そう語った。







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