「そう、そんな事が……」
 こくんと頷くアスカに、ミヤは一層深刻になった。
 カヲルの言葉に、アレクは浩一が情報源であるのだろうと読んだのだが、それは違っている。
(カヲル……、急にあたし達に話を持って来るから、変だと思ったけど)
 二人は密かに、接触していた。


「呼び出すなら、もっと行き易い場所にしてくれない?」
 不満を言うミヤにカヲルは笑った。
「悪いね、いつも」
 箱根峠の上、第三新東京市を見下ろす公園である。
「バスって少ないんだから」
「帰りは送るよ」
「無免許でね」
 と、ちらりとバイクに目を送る。
 また前と違うバイクになっていた、レーサーレプリカだと言う以外には、興味のないミヤには分からなかったが。
「それで、今日はなに?」
 カヲルは本題の前に回り道をした。
「ちょっと危ない話しでね、街の中じゃどこに目が光っているか分からない」
「だから、ここなの?」
「県境だからね、監視の目がない」
 また色気のない話か、と内心溜め息を吐く。
「つまり、そっち関係?」
「そうだね、それもミヤ以外には頼める相手が思いつかなかった」
「え……」
 見たことがないほど真剣な瞳にドキリとさせられる。
「な、なに?」
「……ジュンイチと、連絡を取りたいんだよ」
「ジュンイチと?」
「ああ、だけど声で呼べば聞かれたくない相手にまで知られてしまうからね」
「……ジュンイチと、あたしは?」
「カスミにさえ黙っていてくれれば、それでいいよ」
 ミヤは首を傾げた。
「甲斐さんは?」
 複雑な顔をする。
「……ミヤはもう、ここの生活に馴染んでる、甲斐さんがそれを壊させるような事をさせるとは思えないね」
「……信じてるんだ」
「どうかな」
 表情からは読み取れない。
「カスミは、どうなの?」
「カスミはね、何事にも過剰に反応し過ぎるんだよ……、頑張り過ぎると言ってもいい、もう少し、のんびりと構えてくれれば良いんだけどね」
 その裏側にあるものを正確に読み取る。
「あの……、惣流さんの『声』のこと?」
「正解だよ」
 肩をすくめる。
「カスミにも当然、聞こえたはずだからね、こちらの不和を知られたくない」
「……まるで、敵みたいに言うのね」
「そうだよ?」
 カヲルは煙に巻くように曖昧に笑った。
「言ったろう?、僕は僕が守るべきものを見付けたんだ、それを壊すものは許さない、例えそれが、誰であろうともね」
 その決心は、ミヤに溜め息を吐かせる程のものだった。


「俺を消して、君は何処へ行くんだい?」
 アレクの質問に、カヲルは薄く笑った。
「どこにも」
「どこにも?」
「何気ない顔をして、いつも通りに、これまで通りに生きて行きますよ」
「君にそれが出来るのかい?」
 刃を振り上げる。
「あの人にそれができて、僕に出来ない道理がありますか?」
「悪い所を、学んだね」
 カヲルは無用で、振り下ろした。
 一歩を踏み出す冬月、静寂と無音の中で、ゴトンと何かが落ちる。
 それは机の切れ端だった。
 アレクは無言のままでカヲルを見た。
「ゲンドウなら、間違いなく俺を殺していたぞ?」
 カヲルは腕を一振りして光を消した。
「あの人は、あなたがしている事を全て御存じでしたよ」
 ぴくりと反応する。
「全て……、かい?」
「ええ、その上で、僕達の間で片をつけろとね……」
 背を向ける。
「あなたのしたことは許しがたい……、けど、過ぎた事を口にしても始まりませんからね」
「これは忠告かい?」
「まさか」
 くぐもった笑いを漏らす。
「忠告で止まるあなたではないでしょう?」
「なら、なんのために?」
「ただの憂さ晴らしですよ」
「ほう?」
「……今回のことでは、少々腹が立ったもので、でも他の誰にも当たれませんからね」
 戸口にまで歩き、扉を開く。
「ただ……、今度のことではとても大事な事を学び取りましたよ」
「なんだね?」
「ここは、決して楽園などではありえなかったと」
 それは決別ともとれる言葉であった。






「ふきゅ?」
 夕食はこの頃ずっと、シンジ、レイ、ミズホの三人だけで取っていた。
「御旅行ですかぁ?」
「うん……、ミズホも来るかなと思って」
 シンジはご飯をぱくつきながら訊ねた。
 二度三度首を傾げるミズホ。
「シンジ様と、レイさんだけですかぁ?」
「うん……」
「アスカさんは?」
 言葉を詰まらせたシンジに代わって、レイが答えた。
「ほんとはね、シンちゃん、一人で行くつもりだったの」
「ふえ?」
「でも心配だから……、あたしが勝手に着いていこうと思って、でも二人っきりだと、ミズホ、嫌でしょ?」
「それはぁ……」
 確かにそうなのだが、やはり腑に落ちないのだろう。
「用事がないなら、来ない?」
「はぁ……、レイさんが、そうおっしゃるのならぁ……」
 二人っきりになろうとしない、さらにはシンジの様子がおかしいことも合わさって、結局そんな曖昧な了承の仕方をする。
「あ、アスカには内緒にしておいてね?」
「ふへ?」
 箸を咥えたままでキョトンとする。
「何故ですかぁ?」
「……ちょっとアスカ、シンちゃんと喧嘩しちゃってるから」
「そうですかぁ」
 ミズホはそれだけで、妙に納得してしまった。



続く







[BACK] [TOP] [notice]


新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。

本元Genesis Qへ>Genesis Q