(シンジ様?)
 緊迫する空気の中、彼女はようやく目を覚ました。
 薄目を開き、ぼやけた視界に彼を捉える。
(何だかふわふわしてますぅ)
 まるで抱き上げられている様な、支える腕や、体の温もりを直に感じる。
(それにぃ、なんだかすぅすぅしてぇ、って、へ?)
 もじもじと足を擦り合わせて確認する。
 かーっと紅潮。
(はっ、はうはうはうはうはうはうはうはうはう!?)
 なんとなく胸を掴まれている様な気がしないでも無いような。
(そんな、シンジ様、でもでもレイさんがぁ)
 とか思いつつも心なし近付いている様な顔が間近くに、勿論錯覚なのだが、シンジに対して思い切って顎を上向ける。
 頭を預けるように。
(ん〜〜〜、ですぅ)
 バレない程度に唇も尖らせて見たのだが……、いかんせん状況が状況だけに、気が付いてはもらえなかった。


 やや膨らんだ乳房から細まる腰、なのに股間部には男性器が見て取れる。
 しかし在るべき物が足りない、精巣は内部にあるのだろう、男性器に隠されるようにして、代わりに女性器が存在していた。
 胎児は胎内において性別が固定される、その途中過程のままの姿を保っていた、だからか?、男性器は子供のように幼いものだった。
 両性具有体。
 驚くべきはその顔だろう、ミズホに……、似ていた、いや、それはミズホの顔だった。
「アダムカドモン……、そう君達は呼んでいるね?、最初に生み出された人間、後に男子と、女子に分け裂かれる絶対者」
「ここまで……、完成させていたの?」
「そう、『彼ら』はここまで完成させていたんだよ、『人類補完計画』の要、最初の人間、アダムカドモン、もっとも、今やただの亡霊の巣に過ぎないけれど」
 悪霊は無表情なままに、にぃと笑った、その邪悪さは堪らない怖気を感じさせる。
「さあ、どうするんだい?、シンジ君」
「え……」
「亡霊、救いも無く、ただ泣くだけの彼らには、もはや未来は無いんだよ」
「そんな!」
「マユミのように一つの命であったならまだ救いようもあった、けれど彼らには永遠の苦痛が残されているだけだ」
「僕に……、僕にどうしろって言うんだよ!」
「さあ?」
「さあって……」
 戸惑うシンジ。
「けどこれだけは言えるよ、マユミはあの列車に居た、北海道行きの、あの列車にね?」
 ハッとする。
「999!?」
「そう、マユミが魂の安らぎを得て、自我と言う名の繭にくるまり眠りについたのは、君達の歌があったからだよ」
「歌って……」
「もはや嘆くだけの悲しみに凝り固まってしまった彼らには、鎮魂歌こそが相応しい」
 大仰に腕を広げる。
「君の歌による、救いを頼むよ」
「けど、でも!」
「歌えないのかい?」
「歌えるはず無いよ!」
「どうして?」
「だって、だって!」
「ギターが弾けない今、歌だって歌えない、……君には聞こえないのかい?、彼らの哭く声が」
「声?」
「君には聞こえるはずだよ、だって……」
 唐突に、優しい目をして綾波を見る。
「でなければ……、そうだろう?」
 だが綾波はアダムカドモンへの注意に必死で、彼の目には気が付いていない。
「君ならどうする?」
 浩一は急かした。
「どうする?、君ならどうする?、同じ顔、同じ素体でありながら、その腕の中の命と、嘆きと、それ以上の苦しみと悲しみを背負う、同等の魂の集合体を前に何を感じる?、哀れみか?、悲しさか、それともおぞましさかい?」
 シンジは歯噛みした。
「そんな、こと……、そんなこと、言ったって!」
 にぃと笑ったままで、顎を逸らすアダムカドモン。
 その表情は嘲笑でありながらも。
「泣いてる、の?」
 シンジは動揺した。
 涙を溢れさせ、アダムカドモンは頬を濡らした。
 流れる涙は……
「人?、人間なのか……」
「そう、人間だよ、人が僕達を区別するように、君もその子を区別した、でも認める事も出来るはずだ、同じ痛みを感じる存在であると」
 くっと顔を上げると、綾波レイは唐突に背を向け、シンジに向かい直った。
「歌おう?、シンちゃん……」
「あや……、レイ?」
「うん」
 再び彼、あるいは彼女に目を向ける、優しげな光を目に湛えて。
「逢いたかったよ」
 レイは差し伸べるように手を伸ばすと、そのまま手を自分の胸に抱きこんだ。
 そうしてレイは、心の奥底からの『声』を紡ぎ出すように、喉一杯に込み上げる物を音にした。


「カヲル、カヲル、カヲル!」
 アスカは必死に縋り付いた。
「うっ、あ、あ!」
 激情のままに泣く。
(誰もいらない、シンジも、レイも、ミズホもいらない!、裏切ったんだ、あたしを一人にして、裏切ったんだ!、捨てたのね、あたしを、あたしだけ!)
 勝手な思い込みが形作られて行く。
(カヲルが居てくれる、こんなに側に居てくれる、あたしを見てくれてる、護ってくれてる、ずっとずっと一緒だったのね!、カヲル!)
 アスカは込み上げる嬉しさに喜びを見せた、だが、現実には……
「うっ、う、あ……」
 アスカが抱いているのは、ただのクッションに過ぎない、それでも。
「カヲルぅ……」
 信じれば、そう見えてしまう、感じてしまうのだろうか?
 アスカはクッションを愛おしげに両手で挟むと、縋るように口付けを求め、目を閉じた。
 そっと唇を近付ける、そして……
『アスカ』
 爽やかに、そして何の悩みも無いような……
 懐かしい少年の、顔が浮かんだ。



いつも そばにいたくて
君の… 笑顔を見たくて

悲しい事ばかり、積み重ね過ぎて
本当の気持ちを、遠く…



隠して



心…  伝えることなく
君の  笑顔を曇らせ…

夢に見る事で、幸せ噛み締め
立ち去る事ばかり、選び…



苦しいよ



I can't come true.

Remember my heart to you.

二度と  戻れない君の


温もりが恋しい…


曇らせないでいて…



 ああそうか、とシンジは思った。
 それは単純な思想だった、そればかりか、惣流アスカがとっくに達していた解答だった。
(アスカが、カヲル君が、だから何だよ?、僕はアスカが好きだし、その想いを、願いを、ううん、ヤらしいことだって考える、その全部を、僕が知っている僕の中のアスカを消す事が恐かったんだ、辛かったんだ、……それは胸に大きな穴を開ける作業だから、アスカが消えてしまうと)
 そこには大きな虚空が誕生するから。
(僕はアスカが好きだ、アスカが受け入れてくれなくて、その想いがどこかに消えてしまっても、届かなくても、僕の中のアスカを、僕の中の僕を、自分で潰せるはず無いじゃないか)
 自分自身の、まだ淡い、形の整わない、落ち着かない物。
(拒絶されたっていい、でも好きだって想いを捨てることは無いんだ、胸に抱いたままで良い、隠してしまえば、押し込んでしまえば……、けれど捨てることは無い)
 それは我が侭だろうか?
(迷惑でも構わない、僕は僕の想いを伝えたい)
 だからシンジも、歌い出した。



熱い風を求めてる
僕に無いものを
与えてくれる


重なる視線が求め合う
震える息が
僕に無かったものを生む。


勇気が突然溢れ出す


想いが弾ける伝えるために
想いがかすんで忘れぬように

瞬きする間の君の仕草が
僕に勇気を与えてくれた

いつか君に届きます様に

「キスしても、いいですか?」



その髪の艶が奇麗になる頃
僕達の間は変わり始めた
ほんの少しの距離が遠くて

想いが弾ける伝えるために

揺れるMind 熱いHeart
ココロが悲鳴を奏でてる

君に伝える
君に届ける
熱いもどかしさを解き放ち



僕を見る瞳が変わらなくて
吐息をつく唇は恐さを増して
ただ心だけが遠ざかる

想いがかすんで消えて行く

軋むHeart 迷うSpirit
爪先立ちの愛が転がる

君に上げたい
君を感じて
惑わせるものを振り払い


Simpleに素直になりたくて



熱い風を求めてる
僕に足りない物を
教えてくれる


重なる視線が求め合う
これがきっかけ
僕の心を決めさせる


勇気が突然溢れ出す


いつかいつでも奪えますように

「キスしても、いいですか?」







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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