「ちょっとシンジ!、その怪我どうしたの!?」
 シンジは罰が悪そうに頬の痣をさすった。
「ちょっとね」
「ちょっとじゃないでしょ!、誰にやられたの」
 あっ!、と声。
「リーさんですかぁ?」
「そう言えばあいつ!」
 アスカも思い至ったようだ。
 五時間目をサボった彼が、痣を作って戻って来た事を。
「なんでもないよ、大したことないしね」
「あるじゃない!」
「見た目ほど痛くはないよ、それよりレイは?」
 今日は一緒に帰れるとの事で、下駄箱で待ち合わせをしていた。
「知らないわよ!」
 ぷっと膨れてそっぽを向く。
 苦笑していると、ミズホがはいっと手を伸ばして来た。
「じっとしてて下さいぃ」
 絆創膏を張ろうとしているようだ。
 シンジはなされるままにした。
「ありがと」
「痛いの痛いの、飛んでけぇ、ですぅ」
 ついでにチュッと、口の端の絆創膏の上に背伸びをして。
 シンジは苦笑してくすぐったい絆創膏を指で擦った、恥ずかしさからくるりと背を向けたミズホの尻尾髪に叩かれたのは、意図的に意識から削っておいた。
「なによ?」
「何でも無いよ」
 そっぽを向いていてその行動に気付かなかったらしいアスカには護魔化しをくれる。
「心配かけて御免、でも知りたかったんだ」
「何?」
「うん……、どうしても好きな人が居て、その人には好きな人が居て、それが許せなくて喧嘩して……、鰯水君の時もそうだったけどさ、それでその好きな人って、喜んでくれるのかな?」
「そんなわけないでしょ!、じゃあなに?、あたし達の気持ちは関係無いってわけ?、物扱いされて誰が喜ぶのよ、逆よ逆!、人を商品扱いするような連中、こっちから願い下げだわ!」
 シンジは苦笑した。
「そうだよね……、僕に勝ったからって、僕が向けてもらってた物が全部、そのまま自分のものになるなんて事無いのに」
 ほぉっと剣呑な声。
「あんたそんなに美味しい目に合ってたってわけ?」
「違うよ、アスカにだよ」
 微笑にボッと赤くなる。
「な、なによ、それ……」
「ミズホやレイにもだけどね……、羨ましいからって、物じゃないんだから奪い取れるわけないんだ、人間なんだから、不満だって持つし、そんな風に手放す人も、手に入れる人にも両方呆れて、嫌っちゃう、それで普通だよね?」
「そうよ!、そんな事になったら、二人まとめて無視してやるわ」
「でも、それでも我慢出来ないことがあるんだ」
「へ……」
「僕がそうだった」
 じっとアスカを見つめて言う。
「アスカを取られるかと思った、でも祝福なんて出来なかった、もしカヲル君と仲良くしてる所なんて見たら、どうにかなっちゃいそうだった……、それこそ、喧嘩しちゃってたかもしれない、それでアスカがまた好きになってくれるわけがないのに」
「シンジ……」
「それは分かってた、分かってたのに嫌われても良いって、嫌われる事が分かってても納得できなくて、奪いたくなる、僕もそれが分かったから」
「あたしを?」
「そうだよ?」
 アスカはますます赤くなった。
「あんた……、それじゃまるで告白じゃない」
「まるでじゃないよ」
 さらっと流す。
「アスカを好きなのは本当だし、今更だけどね」
「そ、そう……」
「でも僕はカヲル君に殴りかかるなんてこと、出来なかったんだ、カヲル君から奪い返そうなんて考えられなかった、だから知りたかったんだ、何か分かるかもしれないと思った」
「だから付き合ったってわけ?」
「それが全部じゃないけどね」
 再び苦笑する。
「今度のことで気が付いたんだ、僕って結構嫉妬深いし、我が侭だし、でも何にもしてないし、言い訳も出来ない人間なんだってね」
 捨てないでくれと泣いて縋ろうにも、何もしなかった、何も答えなかったのが自分である以上、嫌われても仕方ないと諦めるしかない。
 その時になってようやく気が付いたこと、誰を責めるでもなく遅過ぎる後悔を抱いていた自分。
(でもまだ間に合うんだ)
 その決意はシンジを変える。
(もう二度と後悔なんてするもんか)
 一足飛びに変わるものではないにしても、シンジは『女の子』を見ようとしていた。


「男の顔か」
 そんなシンジを遠くから見つめている人物が居た。
 カヲルだ。
「シンジ君はどんどん変わる、強くなっていく、なのに僕は僕のままか」
 近くのビルの屋上だった、鉄柵を越えて、その縁に腰掛けている。
「決意を口で語る事なんて本当に簡単で、でもそれを実践する度胸は凄まじい物が要求される」
 カヲルはシンジを見ていた、あのシンジが、自分から人を殴り返していた。
 一方的に主張を突きつける相手に対して、自分の言葉を伝えるために。
「言葉で語るよりも先に考えを実践している、不言実行、言葉は自分を軽くする、か」
 片膝を抱いて空を見上げる。
「人に誉めてもらう必要なんてない、なら、どうして僕は人に話してしまったんだろう?」
 ミヤに、シンジにも。
「それが甘えか」
 秘めたものの重さに潰されないようにしている自分。
 無意識の内の逃避。
「だから、シンジ君なのかもしれないな」
 カヲルはそっと呟いた。
 初めてかもしれない、シンジに対して、嫉妬して。



続く







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