「悪いわね、こんな所まで呼び出しちゃって」
 そう言ってニコニコと運ばれて来た『おもてなし』に、シンジは手を付けるかどうか、脂汗をかきにかいて思案していた。
 コーヒーである。
「安心してくれ、俺が淹れたから」
「どういう意味よ、それ」
「そのまんまじゃないか?」
「あんたがそうやってぽんぽんぽんぽん人の伝説作るから、みんなが勝手に信じるんじゃない!」
(いや、作ってるのは先生だと思うけど)
 卒業してもやはり先生は先生だ。
 ここは葛城ミサト、彼女の部屋である。
 リビングのソファー、シンジの隣ではカヲルが中身を回すように、カップを持ち上げて遊んでいた。
 やはり疑っているらしい。
「しかし、いつからそんなご関係に?」
「いやぁ」
「照れないでよ、気持ち悪いわねぇ」
 そう言うミサトであるが、膨らんだお腹を愛おしそうに撫でながらでは迫力にかける。
「あの……、それで僕達に用って」
 シンジはその仕草になんだか赤面してしまい、困ってしまって焦って訊ねた。
「ああ、そんなに大したことじゃないんだけどね」
「照れたって可愛くないぞ、葛城」
「うっ……、うるさいわねぇ!、ちょっとは黙っててよ!、全く」
 だが自覚があるのか、ミサトは手を組み合わせてもじもじとするのを止めてしまった。
「シンジ君達にね……、結婚式、手伝って欲しいのよ」
「え?」
「僕達にですか」
「ええ、あたしがこの状態だしねぇ……、本当なら親戚とかに頼むんでしょうけど、生憎ね」
 護魔化す物言いだったが、シンジにも訊ねてはいけないのだと言う分別程度は存在していた。
「でも……、僕達なんかに頼まなくても」
「業者に頼もうかって話したんだけどな、結局、君達に頼むのが一番『らしく』なるんじゃないかってな」
「らしい、とはまた言いますねぇ」
「けどどうせ身内だけ……、の身内もいない身だからな」
 こちらは割り切っているのか無神経なのか?、ミサトが隠そうとしたことをさらりと告げた。
「それなら君達に任せて、巻き込んだ方が面白いだろう?、祝ってもらおうにも教え子ってだけじゃ呼ぶ理由には弱いじゃないか」
「そんな……、トウジだって、ケンスケだって、洞木さんだって」
「違うんだよ、シンジ君」
「え……」
「逆なんだよ、こいつ、子供には人気があるからな」
「なによぉ」
 頭にポンと手を置かれてブスッくれるミサトだ。
「どうせ精神年齢同じですよぉだ」
「分かってるじゃないか」
「あの……、どういう事ですか?」
「つまり呼ぶのなら皆を呼ばないといけなくなると言う事さ」
「カヲル君?」
「そうですよね?、先生」
「ま、そう言う事だな」
 肩をすくめる。
「教え子って言ってもな、シンジ君達にとっては葛城先生だろうが、葛城にとっては年間何十人の内の一人一人だろう?、シンジ君達とは特別仲が良かったからって、それで特別扱いしちゃ、面白くないって子も出て来るわけさ」
「そのための理由付け……、と言う事は、出席者はそのまま実行委員と言う事ですか」
「まあそうなるな」
「安上がりですねぇ」
「そう言わないでくれよ、何しろこういう事には慣れてないもんでね」
「仲人は?」
「シンジ君のお父さんかお母さんにでも頼むさ」
「そう言う事なら、手伝わないわけにはいきませんね」
 カヲルはにこやかに微笑んでカップを置いた。
 ……やっぱり口も付けなかった。
「じゃあ少しだけ、具体的な話をしましょうか」
「そうだな」
 こうなるとシンジはやる事が無くて暇である。
 もっと暇になった人物も居るが。
「ゲームでもやる?、シンジ君」
「そうですね」
「いやぁ、もうやることなくってさぁ、最近買いまくっちゃって、あ、これ、やったことある?」
(うわ……)
 テレビの前に散乱しているゲームディスクの数に引いてしまう。
 店が開けるほどの量が、ケースから出されたままの姿で積み重なっていた。






「はぁ!?」
 家に帰って報告したシンジであったが……
「で、引き受けて来たっての、あんたわ!」
「う、うん……」
 アスカに吹きかけられた唾を必死になって拭うはめになってしまった。
「ダメ、かな?」
「あんたねぇ」
 俯いて震える拳を持ち上げる。
 ゴン!
「痛いって!」
「あんたばかぁ!?、人のこと祝福する前に、自分のこと何とかしなさいよ!、自分のことぉ!」
 何だか必要以上に興奮している。
「なぁにが悲しゅうてこの状態で人のことお祝いしてあげなきゃなんないのよ!」
「でもさ?、先生だって……」
 ぽんぽんと肩を叩く手。
 レイだった。
「シンちゃん……、ほっといたらいいって」
「でも……」
「要するにね、羨ましくって仕方が無いから、悔しいって喚いてるだけなんだってば」
「そうなの?」
「そうそう、だから放っておいて、で、どのくらいの大きさでやるって?」
「うん……、そんなにお金を掛けたくないから、日曜に学校の講堂を借りちゃおうかって」
「学校?、中学校?」
「ううん、僕達の高校の」
「それって……、公私混同してない?」
「だからちゃんと交渉してみるってさ」
「ふうん……、でも学校なら結構な人、呼べるね」
「……それが」
「なに?」
「こんなの渡されちゃってさ」
 シンジは困った顔をして、広告紙の裏に書かれたスケジュールを見せた。
「何これ……、披露宴のスケジュール、じゃなくて宴会計画表!?」
「うん」
「宴会って、結婚式やろうってんでしょう!?」
「うん、でも最初の式だけやっちゃったら後することないしって、人数も結構集まりそうだから暇持て余しそうでしょう?、だから宿題だってさ」
「宿題って……、そんな」
 愕然とする。
「結婚式なんでしょう?、飲み会やるんじゃないんだから……」
「とりあえず式に『参加』したかったら、まともな芸磨いて持ってこいってさ」
「それは……、自分の教え子のことが分かってるって事になるのかな?」
「さあ?」
「シンちゃんはどうするの?」
「ん?、実行委員だから免除してくれるってさ」
「実行委員って……」
「もう宴会と混ぜちゃってて、って言うかそっちがメインみたい、気持ちは分かるけどね」
「へ?」
「ミサト先生さ……、テレビの前にすっごい量のゲーム溜め込んでるんだ」
「ゲーム?」
「うん、映画のディスクもあったよ、……暇なんだろうね」
「ああ、そういうこと」
 レイはこめかみを揉みほぐした。
「要するに暇と退屈で鬱憤溜まってるから、そろそろ発散したいってわけね」
「うん、加持さんが言ってたんだけどさ、女の人って子供を産んだら、体の調子が元に戻るまで一ヶ月か二ヶ月は掛かるんだってさ、それに、赤ちゃんの方も半月も経たないでそんな人の集まってる所に出したら、ストレスが掛かって病気になっちゃうかもしれないからって、でもそんなに長い間待ってたら……」
「ミサト先生が先にまいっちゃうってわけね」
「そう言う事らしいよ」
 苦笑して言うシンジの前で、レイは本当に深く溜め息を吐いた。
 あるいはそんな教師に二年も学んで、よくもまあ普通に育ったものだと思ってしまったのかも知れなかったが。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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