一言で言ってしまえば結婚式であるが、その様相は手作りの学芸会に近い空気を作り出していた。
 学園祭に届いているかどうかも微妙だ、後々には写真などで気恥ずかしさに悶える事になるのだろうが、今はテンションが上がっている。
「上出来上出来!」
 アスカなどは講堂の壇上から見下ろして満足げに頷いた。
 幾つも並べた丸い大きなテーブルには、真っ白なテーブルクロスを掛けてある、テーブルそのものは安物の木を使って工作室で作った土台なので、見られるとかなりまずいのだが、それもまたその方が気に入るだろうとのミサトへの読みが入っていた。
 講堂の外は体育館にダンスフロアを設け、運動場は屋台のために解放してある、それ以外にも校舎各教室で勝手に店開きする人間も居るはずだ。
「ま、入学希望者が増えてくれる事を祈るよ」
 そう許可を出したのは校長でありこの日の主役でもある男であった。
 公立高校としては少ない方が良いのでは?、と思わないでも無いアスカである、多ければ市にとって、掛かる援助費用がかさんでしまうわけで、上から煙たがられる事になるからだ。
 ただでさえ『芸能科』などと分からないクラスを所有している学校である。
 まあ、裏事情を見ればただの学校ではないので、その心配は杞憂なのだが。
「奇麗……」
 だがどれ程の舞台を作り上げようとも、やはり主役は彼女である。
「そう?、ありがとう」
 ヒカリの、ほうっと言う吐息にミサトは微笑で返した。
 講堂奥、裏手側は荷物を全て一掃されて、新郎新婦のための控え室に作り変えられていた。
 講堂の左右壁際は垂れ幕によって小道が作られ、隠されている、新郎新婦はここを通って一旦講堂出口側へ周り込み、そして再び席の中央を歩いて正面、壇上へ上る特設階段を上がる仕組みになっている。
 ミサトは……、既にウェディングドレスに着替えていた、こればかりは手作りと言う訳にも行かないのでレンタルだ。
 膨らんだお腹が酷く目立つものの、さほど気になる物でも無かった。
 この場にはヒカリの他、レイ、ミズホ、トウジ、後は彼らとは面識のないミサトの教え子達が姿を見せていた。
「ね?、そう思わない?」
「そうかぁ?」
 トウジは振られてそっけなく返した。
「わしはよう分からんわ……、化粧で顔がわからへんやないか」
 その返答に溜め息をつい吐いてしまうヒカリである。
 ミサトは笑った。
「相変わらずねぇ、鈴原君は」
「はぁ……、すんません、でもミサトセンセは化粧なんかせん方が奇麗やし」
 おや?、っと言う顔をする。
「いつもこんな感じなの?、洞木さん」
「あ、はい……、すみません」
「ふうん、そっか……」
 ミサトは優しく微笑んだ、トウジの無粋をヒカリが謝る必要は無い訳で。
(ちょっと先、越されちゃってるかな)
 そう思わなくも無い、ある意味『妻』的な立場への意識は、この教え子の方が強いのだなと察する。
(それもまた、か……)
 自分ではそうはなれないだろうなと想像をしてしまった、いや、それは事実だろう。
 しおらしいとか、控え目等と言う言葉が似合わないことは間違い無いし、そう言うキャラクターでない事も自覚している。
「トウジって、口紅でも気持ち悪いって言うんですよね……、リップでもぬめぬめして気持ち悪くないかって言うくらいだから」
「あら?、でも付けるのは洞木さんでしょ?、どうして鈴原君が感触を気にするの?」
 そっぽを向くトウジとちょっと照れてはにかむヒカリの姿が微笑ましい。
 両方赤くなった姿から、ああ、そう言う関係なんだなと言う空気が広がった。
「さっきの言葉撤回するわ」
 ミサトは祝福を告げた。
「変わったわ、鈴原君……、洞木さんもね」
「ありがとうございます」
 言ったヒカリにかぶりを振る。
 怪訝そうにするヒカリ、おそらく彼女には分からないだろう。
(それはこちらの台詞なのよ)
 癖……、なのだろうか?
 ぽってりと膨らんでいるお腹を撫でる、愛おしげに。
(もう一度、もう少しだけ歩いて見てもいいかなって思った、それはあなた達のおかげだもの)
「ありがとう……」
 ぽつりと、誰にも聞こえない程度に呟く。
「ほな、次はわしらの番やな」
 突然にトウジは爆弾を放った、本人は祝福された事から、今度はミサトを応援する番だと言うつもりで言ったのだが。
 −キャーーー!−
「ばっ、バカ!、もう」
 騒ぎ出す女子といやんいやんと照れるヒカリ。
 なんやねんっと慌てふためくトウジに対し、「大胆ねぇ、プロポーズなんて」と、ミサトはわざわざなんと聞こえたか教えてあげた。


GenesisQ'144
「銀牙」


 自由参加が取り入れられた事に対するシンジ達の見積もりは甘かった。
 子供が増えればその親も来るのだ、当然数は倍加する。
 会場前だというのに、……結婚式で会場前と言うのもおかしな話しだが、既にその影はちらほらと見え始めていた。
 その中を……
 一際異様を誇る車が、校門の前に横付けされた。
 黒にスモークガラス、さらには後部だけでも六人が乗れる長いベンツなどそうそう見られる車ではない、まず間違い無く特殊な職業の方だろうと想像出来る。
 事実皆遠巻きに引いた。
 運転席のドアが開く、見る者が見れば悲鳴を上げた事だろう、事実、彼を見た少年は呻いて頭を抱えかけた。
「何やってるんですか、加持さん」
「よぉ、シンジ君」
 今日の主役がやけに運転手然とした様子で姿を見せた。
「出迎えを任されてね、どうだ?、似合うだろう?」
「似合い過ぎですよ……」
 制帽を正す加持に呆れ返る。
 加持は後部ドアに移動すると、開いてどうぞと頭を下げた。
「すみません、ありがとうございます」
 シンジは聞こえた声に、おやっと言う顔をした。
 続いて目に止まったのは陽射しに黒々とした艶を放つ長い黒髪だった。
「サヨコ……、さん?」
 呆然とするシンジに柔らかく微笑む。
「お久しぶりね」
「あ、はい……」
 シンジの視線は彼女が抱いている物体に固定されていた。
「あの……、サヨコさん、その子」
 微笑。
「碇さん……、シンジ君のお父さんの子よ?、可愛いでしょ」
 ガンッと衝撃。
「と、父さんの……」
「何を勘違いしている」
「え?、あ、父さん」
 サヨコに続いて降りて来たのはゲンドウだった。
「それはアレクからの預かり物だ、わたしの子ではない」
「シンジ、元気だった?」
「母さんも、あれ?」
 シンジは首を傾げた。
「どうしてサヨコさんと父さんと母さんが一緒に?」
「ああ、色々と不便だったのでな」
「ふぅん……」
「納得したなら早く案内しろ、気の利かん奴だ」
「あ、ごめんなさい、サヨコさん」
 さり気ない無視にゲンドウはくいっとサングラスを持ち上げた。
「小遣いを減らしてやる」
 大人げないとはこのことだろう。
 ゲンドウの到着を皮切りにアレクと冬月コウゾウ、赤木リツコ、青葉シゲル、日向マコトと言った面々も姿を見せ始めた。
 あっという間に控え室は大人達で埋まる、加持はレイ達によって拘束され、さっさと着替えろと連れて行かれた。
 ミサトが頬を緩ませたのは、やはりサヨコの抱いている赤ん坊に対してであった。
「葛城さんも、もうすぐね」
「はい」
 ユイに対して照れ気味に懇願する。
「余り詳しくないもので……」
「ええ、わたしで良ければ」
 ユイ、ミサト、サヨコと揃うと、少し面白くないのはリツコのようだった。
 そっと抜け出し、一人加持の控え室に滑り込んでいた。
「こんな日にも仕事だなんて、余裕ね」
「まあ、こればっかりはな」
「大変ね」
 その短い会話の真意を知る人間は、この場に置いてはレイだけだっただろう。
(仕方が無いって言っちゃうのは嫌だけど……)
 不安が無い訳ではないのだ、レイでさえ、この面子を見ればどれだけ凄い集まりなのか分かってしまう。
 ゼーレと言う会社がある、ただの会社ではない、その極東支部の重役が勢揃いしている。
 表裏合わせても、実にその動きは多彩であろう、実際挙動の怪しい人影がちらほらと見える、だが仲人の名を見て売り込みに来た人間が大半である以上、そう迂闊に動くことは出来ない。
「余りこういう使い方はしたくないんだけどね」
「仕方が無い、とは言わないよ、強制はしない、けれど手段を選ぶつもりは無いからね」
 学校の屋上で会話を交わしているのは浩一とカヲルであった、浩一が剣呑な思考を見付け、それをカヲルがアレクから借り受けた指揮権を利用し、ゼーレセキュリティーサービスに通報している。
 現在、この高校に整えられていたセキュリティはセキュリティーサービスによって管理され、十二分以上に利用されている、単なるトラブルは子供達に任せ、その上で手に負えないだろう問題を排除していた。
 そのう内の監視カメラの一つには、アレクとアスカの姿が見えた。
「……パパ」
「だから、誤解だって!」
 ふるふると首を振る。
「あたし……、パパがそう言う人だって知ってたけど、でも」
「あの子は預かっているだけなんだよ」
「自分の子供の世話を他の女の子に押し付けるなんて」
(くっ、ゲンドウの奴!)
 ゲンドウはゲンドウで赤木ナオコと裏で通じているアレクへの嫌がらせを敢行しているのだから始末が悪い。
 まあ、アスカもからかっているだけなのだが、父の焦り様に覚悟はしておいた方がいいのかも、と疑い出していた。







[BACK] [TOP] [NEXT]


新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。

本元Genesis Qへ>Genesis Q