−ベトナム南部−
密林の中、ぼんやりと瞼を開いた少女が居た。
「あたし……、まだ生きてる」
体を起こす、周囲は酷い有り様だった。
投げ出された装備の数々、まだ煙がくすぶって、火も上がっている。
張り付いていた落葉が体からばらばらと落ちる。
硝煙の匂う銃さえ放り出されていると言うのに……
「誰も、いないの?」
不安が走る。
「リキ?」
彼女は……、ミヤは目眩いを感じながらも木を手がかりに立ち上がった。
……そのすぐ傍にある、巨大な繭のような存在には気付かないで。
「何が……、どうなって」
ぼやけている記憶を呼び覚ます。
「そうだ、天使の姿をした連中に襲われて」
はっとして顔を上げる。
ようやく危機感が戻ったのだろう。
「リキ!、どこなの、返事をして!」
−リキ!−
同時に声でも呼び掛けるが返事は無かった。
声ならば距離に関係無く届くはずなのに、ということは、だ。
彼は、返事を出来ない状態にある。
ざっと鳥肌が立った、寒気のために。
「リキ……、応えてよ、リキぃ」
がさりと音。
バキッと枝を踏む音にはっとして振り返る。
「リキ!?」
違った。
「使徒!?」
身構える。
現れたのは六翼と四翼の天使。
−最悪!−
二人同時、それももう逃げられない距離。
それほど特殊な攻撃能力は無い、防御能力も知れている、自分で自覚しているミヤだけに、絶望からか身を縮こませて目を閉じた。
……しかし。
『……この子、混ざってる』
驚いた事に、使徒は『声』を発した。
目を見開くミヤだ。
『ほんとだ、あの人みたい……』
首を傾げる二人の意識、その無防備な思考は声となって送られて来る。
そのイメージ。
−シンジ君!?−
『あの人と同じ匂い』
『似てる感じ』
『どうして?』
『どうして』
『アナタ、ダレ?』
ミヤは直感した。
(血!)
過去、シンジの血を服用した事がある。
その巨大過ぎる能力の一端に触れた事もある。
(完全に吸収も消化もされないで、あたしの中に残ってるの?)
だが何故この二人がシンジを知っていて、それも『あの人』などと親しげに呼ぶのか?
「ねぇ……、シンジ君を、知ってるの?」
二人はキョトンとした顔でふくろうのように首を捻った。
『……あの人がどこに居るか、知ってる?』
再び、今度は『声』で訊ね直す。
『知ってる』
『泣いてる』
『イタイって』
『震えてる』
伝わって来るイメージ。
(な、に?)
余りに過剰過ぎて、膨大過ぎて溢れそうになってしまう。
路地裏でナイフを突きつける少年、スーパーを襲う強盗の銃、銃剣につき殺される兵士、犯される女、捨てられる赤子、飢え死にしていく少女、死んだ事さえ気付いてもらえない老人……
『悲しみで溢れた世界……』
『知らなかったでは許されないから』
−ナイテイル−
なだれ込んで来るのはイメージばかりでは無く……
情報もまた、だから。
『連れて行って!』
ミヤは恐れることなく二人の腕に噛り付いた。
『連れて行って!、お願いっ、『そこ』にあたしを!』
二人は何の迷いも見せることなく、こくりと頷き、従った。
その昔、二人は友達だった。
−馬鹿シンジ!−
「イタイ、イタイよ、あひゅか……」
小さな男の子がほっぺをつねり、引っ張られて泣いている。
女の子はけたけたと笑っていた、お腹を抱えるように、それでも引っ張るのを止めないで。
−ずっとそうだと信じてた−
「好きよ、シンジ……、ねぇ?、キスしようか」
女の子は女性になって微笑む。
−デモ、ボクハボクノママ−
加速していく想い、比例しない自分背丈。
−シンちゃあん−
−シンジさまぁ!−
手を振る二人。
その陰に見えるもの。
(ごめんよ……、知らなかったんだ、そんなに寂しかったなんて……)
泣きそうになりながら……
いや、実際に涙しながら、少年は『舟』を起動させた。
「……嫌な予感がする」
そう口にしたのはイサナであった。
−What?−
ジュンイチからの質問は半歩遅かった。
「地震?」
揺れに襲われた。
「この深海で地震だなんて」
カスミは焦りつつ檄を飛ばした。
「向こうに連絡して、回収しつつ緊急浮上を行います!」
そんな様子に、メイは不安げに訊ねた。
「カスミ?」
「……深海って言うのはね、物凄い水圧が掛かってるの、その圧力の中では水だって圧縮されて堅くなる、大きな石を叩いても向こう側には伝わらないでしょ?、それと同じでこれだけ震動が伝播するってことは」
「相当な、激震って事?」
頷き一つ。
「きゃあ!」
その直後に震動で揺さぶられた。
「どうなってるの!」
「浮上しています!、現在深度……」
椅子に掴まってなんとか堪える、浮上というよりも浮遊感に近かった。
深度計のカウンターを見て驚愕する。
「そんな、そんな速度で浮上だなんて」
はっとする。
「コンテナ艦は!」
「隣に居ます、無事です!」
「未知のエネルギー反応を確認!」
「詳細を!」
「先のフィールドと同一のものです、こちらを含めて球形に被い……、対流に変化!、大地下空間に向かって流れ込んでいきます!」
「……フィールドが、消失したの?、こちらを包んでるフィールドの中央地点に何か居ない?」
「待って下さい、船外カメラが使えます、出ました」
「これは!?」
驚愕するカスミ、メイ。
そしてマイが首を傾げた。
「白い鯨?」
『カスミ、聞こえるか』
「ヨウコ?」
『声』での通話に顔を上げる。
『レイ達がサヨコのゲートをくぐって来た、地上の様子を聞いた所だ、持ち込まれたデータは端末からそちらへ転送しておいた、確認してくれ』
「地上の様子?」
怪訝そうに眉を顰める、声は聞こえたのか、盗み見たメイもまた同じような困惑顔で見返していた。
海が盛り上がっていく。
そうとしか形容のしようが無かった、割って飛び出す物、白鯨。
しかしその顎は海に落ちることなく、天空目指して更に角度を高く上げた。
……海上に二隻の船を、リヴァイアスとコンテナ艦を残したままで。
かつてシンジであった少年は、真っ白な部屋の中央で、正面に浮かばせた『惑星の図』を見ていた、ゆっくりと回転している星、地球の七割が赤く染まっている。
「分裂増殖を計算に入れても遅れてる……、浩一君になにかあったのかな?」
生白い胸がどこか厭らしさを感じさせた。
随分と雰囲気が変わってしまっているのは、動きにシナがあるからだろう。
糸を手繰るように右手を動かし、何かを操る。
「カヲル君とまだ戦ってるのか……、そうだね、殺さないように戦うのは難しいもんね」
少年は足元を見下ろした、そこに波紋が広がって、足元の様子が表示される。
「みんな、か」
その中に誰がいるのか。
考えるまでもないだろう。
本当なら想像した方が良いのかもしれない。
しかし今のシンジには、考えるよりも早く中が『視えて』しまっていた。
「アスカ……、レイ、ミズホ」
−ごめん、もう逢えない−
シンジは正面に顔を向けた。
「行こう、浩一君、カヲル君を止めて!」
その声は空を貫き……
同じ海の上で戦う、二人の少年を決しさせた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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