日常は平凡であるし平穏であるし、やることもなければ、することもない。
「にゅ〜〜〜」
 ボールの中には卵が三つ、それを抱くように持ってお箸で軽くシェイクする。
 お弁当のおかずのポイントはとにかく油だ、多ければ垂れ流れるし冷えれば不味くなるし下手をすれば固くもなる。
 前日に作り置いて余分な油を排出させるのはとにかく基本、当日の朝に慌てて作るとろくな事にはならないのだが……
「ていや!」
 油返しを行った中華鍋に卵を入れて、一瞬だけそのボールで顔を守る、ビチビチと跳んだ高熱の油が軽く手やエプロンを焼いた。
「えいえいえい」
 ですぅ、っとお玉でがしゃがしゃ潰し、その上にご飯をばんっと乗せる。
 さらに余りもののレンジで解凍した鶏肉、葱を入れ、塩、胡椒、中華風ガラスープの素、酒、醤油とぶち込んでお手軽に完成。
「よいしょっと!」
 そのままひっくり返すように、隣の大皿にぶちまける、鍋底の形通り、焼き飯はちゃんとお山を象っていた。
「ふう、後は冷めるのを待つだけですぅ」
「ってかさ」
 じゃーっと油で腫れた手を水洗いするミズホにレイは呆れた。
「一度に作ること無いんじゃない?」
 四人から五人前の焼き飯である、その総重量は普通片手で、いや、両手でも持ち上げられるものではないのだが。
「アスカじゃないんだから、手ぇ抜かなくても」
 しゃこしゃこと歯を磨きつつのお言葉、ミズホはそんなレイに早くパジャマから着替えたらどうかと忠告しかけて……
「ふひ!」
 レイの背後に見えた人影に、殺される、と尻尾髪を膨らませた。


GenesisQ'155
「あさってDANCE」


「いったぁ〜い」
 頭をさすりながらレイ、登校中のいつもの光景。
 怒り肩で風を切りつつ、最近また大きくなった胸をアスカはそらした。
「面白くないのよっ、アンタの冗談は!」
「冗談じゃないのに……」
「何か言った!?」
「言ってなぁい」
 ぷいっとそっぽを向くレイである。
 奇妙な事に全員で服装を揃えていた、キャミソールにジーンズ、健康的かつ刺激的と言えるかもしれない、しかしそれに顔を赤らめるべき少年は必死になっていた。
「……」
 無言、と言うよりも喋れなかった、原因はミズホのバッグである、数人分の弁当、それも大食漢が数人、この重量は下手をすれば人間一人分には相当する。
 素直に人間であれば背負い易いだろうが、肩掛け型のボストンバッグである、肩に食い込む、揚げ句に反対側の腕にはミズホが組み付いているのでバランスの調整も取れない。
 これはもう苦行だろう。
「シンジ様の手、シンジ様の汗、シンジ様の匂い」
 嬉しそうだが……
(ちょっと嫌だ)
 シンジは引き気味にそう思った。


「駄目だ!」
「なんやまだあかんのか?」
「ああ、俺達には教えないつもりなんだよ」
 トウジとケンスケの二人は学校の電算室に閉じ篭っていた。
 もっとも、ここのシステムを必要としているのはケンスケだけで、トウジは暇潰しにアンパンを齧っているだけなのだが。
「ネット経由でも情報は入って来るし、ニュースでもやってるんだけど……」
「そやなぁ、ほんまにそんな事件あったんかいなぁ」
 何言ってんだよ、とブスッくれた顔でトウジを見やる。
 先日、約一週間に及んで都市が封鎖された、出入りは完全に禁止され、情報もまた統制された。
 その理由は明かされ、今ではいくらでも知ることができる。
 それでもだ。
「気持ち悪いんだよな」
 ケンスケは一人ごちる。
「答えも何もかもが揃ってるのに、パズルのピースとしては組み合わない、どうなってるんだか」
 もちろん、彼程度にそれを推し量ることは出来ない、ましてや同じ学校の生徒、それも友人達が関わっていたであろうなどと言うことは。
「まあ、それでもあれだけの事件だからね、僕達のことを知りえた組織は多いってことさ」
 都内某所、某ビル地下室。
 剥き出しのコンクリートが寒さを助長させる、捨てられている事務机は錆が浮き、今ではカヲルの椅子となっていた。
 カヲルが見ているのは正面の壁にもたれているヨウコである。
「今日だけでもう三件の報告が届いてる」
「ああ……、だがわたしは戦闘は齧っていてもこの手のことに掛けては素人だ」
「情報戦は電子戦と同義だよ、ジュンイチが居れば事前に押さえられるさ」
「完璧とは言い難いがな」
「そのためのMAGIとV−MAGIだよ、ただSSSがあまりにも役に立たなくてね」
「実戦部隊を配備すべきだな」
「そのために君を呼んだ」
「素人だと言ったはずだ」
 カヲルはやれやれと肩をすくめた。
「君はシンジ君に借りがあるんだろう?」
 ぴくりと反応。
「何が言いたい?」
「僕と一緒に返していかないかって事さ」
 手を差し出す。
「僕達は余りにも借りばかりを作り過ぎたからね、誰に対しても」
 地球と言うレベルでの復興作業には多大な労力が注ぎ込まれた。
 その中でも最も名を馳せたのはゼーレと言う一企業である、莫大な資金を背景に、彼らは停滞していた物資の流通を再開させた。
 一方で大量の子供を保護、その身元確認作業に支援を施しイメージアップを計っていた。
 自作自演と口にされてもしかたのない策ではあったが、関連を指摘出来る人間は表裏を合わせてもいなかった。
 特筆すべき点としては、膨大な数におよぶ身元不明の子供達の保護であった。
 明らかに人と違う体質を持つこの子供達の身体能力は、現行の人類を遥かに越えて、遺伝子すらも0.11%の誤差が確認されている。
 これは先のテクノハザードによる人体への影響として処理されていた、むろん事実と真相は闇の中である。
 実際には逃走、逃亡、あるいは潜伏していた『実験体』である、現在彼らはネルフに保護され、治療名目でここ、第三新東京市へと集められていた、大量の医師、科学者と共にである。
 この都市が世界の中心となるのに、そう大した時間はかからないであろう、誰もがそう口にする。
 民衆がヒステリーに走らなかったのは運の善し悪しではないだろう、暴動すらも起きずに世界が大人しく事態の進展を待っているのは、次に何かが起こる、それを予感していたからだった。
 声、歌声、天使の声。
 人々は何かを期待していた。


「夏休み?」
 キョトンとした顔のシンジに、マナはうんと頷いた。
 すっかり真っ黒である、何処で遊んで来たのかと疑われているのだが、真相を語れず何故か長袖。
 パイロットスーツだったために土方に近い、奇妙なやけあとになっていたからだ。
「そ、どこかに行かないのかなぁって」
「無理だよ、街からも出られないのに」
「夏休みには解けるって話だけど?」
「そうなの?」
「みんなそれで盛り上がってるんだけど……、レイ」
「うん?」
「レイは計画とか予定ってないの?」
「ん〜〜、多分シンちゃんとごろごろしてる」
「ごろごろって……」
 瞬間、マナの脳裏にシンジの膝の上でごろごろと転がり回るレイの姿が……
「フ、フケツ……、喉をゴロゴロなんて」
「……何を考えたんだろ?」
「さあ?」
 それよりも、とレイ。
「今年はのんびりしたいよねぇ」
「そうだね……、でも」
「なに?」
 −−この落ち着かない気分って、なんだろう?
 何かを急かされている、そんな気がして……
 シンジはお尻をもぞもぞと動かした。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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