「ステージが終わると同時にばらばらに行動されちゃって、その行き先も掴めない、これってマネージャーとしては失格だとおもうんだけどねぇ」
 そう言いつつも、バスの中、ポテチを齧っているのはミヤだった。
 ここにはマイとメイ以外、運転手が居るだけである。
「シンジ兄ちゃん、何処行っちゃったかな?」
「さあ?、ミズホを連れていったようだけど」
 自信なさげなメイの言葉にミヤは溜め息をつかされた。
「殺人スケジュールも、一応その辺の計算を入れてあるみたいなんだけどね」
「計算?」
「そう、状況に流してしまえって、でも今回は駄目みたい」
「どんな風に?」
「ん〜〜〜、シンちゃんの心の問題、かな?、いつもと違って切羽詰まれば詰まるほど、逆に冷めていくって言うか、なにやってんだろう、なんのためにこんなことをしなくちゃいけないんだろうって、全部がどうでも良いってなってるっていうか」
「ケアしなくていいの?」
「あんまりマネージャーが仲良くし過ぎても駄目……、っていうか」
 ブスッくれて。
「カヲルに釘さされちゃって」
「そう……」
「バンド内の分解を誘うな、ってさ、それはまぁいいんだけど」
「なに?」
「カヲルの話しによると、最終的にはシンちゃんでなくてもいいみたい、ただ……、あたし達の希望とか、期待って意味でシンジ君がいいなって思ってるだけだから」
「アイドルプロジェクト、か……」
「計画の初期段階、その後に来るミレニアム計画のための……」
「ミレニアム、千年王国……」
「シンジ君くらい自制心の強い人でなくちゃ、王にいただく事なんて出来ない、安心して任せられないもん、そうは思わない?、メイ……」
 ミレニアム計画。
 名前ほど大した物ではない、しかし彼女達にとってはとても重要で、重大過ぎる課題ではあった。


 アイドルプロジェクト。
 第一次案では存在を主張するために行われる予定であった計画である。
 −−ここに居る。
 その声が、歌が……
 風に乗る事で心に響いて……
 慕情が、思慕が。
 その念に……、引き寄せられて。
 安堵を、得る。
 隠れ潜んでいる子供達のための、あるいは死んでしまった者達への、哀憐歌。
 それを歌わせるための楽隊創設計画。
 しかし現在では多大な修整が加えられていた、子供達は各国で保護されている、それもホームレスに対するものよりも手厚くだ。
 だがそのままでは『可哀想な』という枕詞がついてしまう、半永久的に被害者として扱われていく事だろう。
 それではいけないのだ。
 確かに被害者ではあるが、そう位置付けることは社会への復帰、回帰を阻害する。
 そのためのミレニアム計画だ、王をいだき、世界と対峙し、同格のものとして『在る』ための顕示行動。
 突然変異などでは無く、人類の一人として認めさせるための摂政役、王、実際には独立し、国家となるわけにはいかないのだから、宗教集団に近い構成を取る事になるだろう、あるいは華僑か。
 その初段階のプロセスとして、存在を認めさせる必要があった、擦り込むように、それがたとえマインドコントロールと呼ばれる類の手法だったとしても……
 多数派がこの星の正義である以上は、認知と、認識の改変を求めなければならないのだ。
「汚い話だ」
 テンマは独白する。
 コンサートホールの屋根の上で。
「大人はいつもそうだ、余計な気ばかりを回して、それが最上だと口にする、本当に不安から逃れたいのは自分で、安心したいがために、嫌がる当人達の手を無理に汚させたあげく、責任まで取らせようとする、勝手なことを」
 その目は街の、遠くを見ている。
 離れること五キロほど。
 街の中にある自然公園に、見慣れた二つの姿があった。


 穏やかな陽射し。
 涼やかな風。
 乱された髪を払いのけるように撫で付け、直す。
 男物のシャツとスカートの組み合わせ、素朴というよりも、野暮に近い。
 履いているものはスニーカー、やや丸まり気味の靴下は白かった。
 口元に浮かんでいるのは……
 微笑。
 右手はやや前に出ていた、引かれるに任せて。
 繋ぐでも無く、握るでも無く。
 人差し指と、中指の二本が、かかるだけ。
 腕を組むよりも嬉しく感じるのは何故だろうと想う、答えは酷く簡単だった。
 先に求めてくれたのが、彼だから。
 碇シンジ。
 ポロシャツにジーンズ、その顔に浮かぶのは……
 虚しさ、だ。
 森の小道に入り込む。
 腕を組む者、座り込んでいる者、あるいは自転車で駆けていく者。
 その仲間となって、ミズホは溶け込んでしまっていると錯覚した、しかしそれは決して不快ではなく……、むしろ。
 和んでしまう。
「座ろうか」
「はいですぅ」
 道を外れて森に入り、大きな木の根に腰掛ける。
 二人で上向き、枝葉を仰ぐ。
 木の葉の隙間に、きらきらと光が舞っていた。
「奇麗ですぅ」
「……」
 返事は無くとも、そうだね、と聞こえた。
 それが酷く嬉しいのだろう、微笑みを向ける。
 特別な力など無くとも通じ合える。
 それを誰よりも純粋に信じているし、感じさせてくれるからこそ、散歩の相手に彼女を選んだのかもしれない。
 実際、シンジは悩んでいた。
(何のために?)
 裏の事情などは知らない、表向きの事情だけを語られた、と感じていた。
 それはマイやメイと、どこか『噛み合わない』からだ、音が、旋律が、想いが。
 紡ぎたいと想うものが。
 当たり前かもしれない、後ろめたいことをしている二人と、純粋に楽器を弾こうとしているシンジとでは違い過ぎるのだから。
 アスカ、レイ、ミズホとて、シンジほどでは無くともそれを感じていた、フラストレーション、ストレスが募って……
 着いていけなくなっている。
「ねぇ、ミズホ?」
「?」
「僕が居なくなったら、どうする?」
「嫌ですぅ!」
 縋り付くようにして訴えた。
「シンジ様がないなくなるなんて絶対に嫌ですぅ、もう嫌ですぅ!」
「うん……」
 シンジは自然と抱き寄せた。
「ごめん……、もう言わないから」
 返事は無く……
 −−うっ、ぐす……
 ただの言葉であったというのに、一体なにを感じたのか?
 ミズホは額を押し付けて、鼻をすすった。
 感受性が豊かなのも、あまりに考え過ぎかもしれない。


 今回、最大の違いを上げるなら、珍しくシンジが正当な報酬を求めた事に尽きるだろう。
 それと契約書、正しくはとりあえずの期限を求めたのだ、契約書と言う形は、マイ、メイに倣ったに過ぎない。
 無し崩し的なものを怖れたのだろう、誰もがそう思ったし、シンジも否定はしなかった。
 ただ……
(また見てる)
 次のコンサート地への移動途中。
 バスの中。
 夜の高速道路、トンネル、独特の色の灯。
 それらに照らし出されて、シンジがじっと何かを見ていた。
 皆眠っている、レイも寝たふりを続けていた。
 シンジが見ているものは……、通帳、だった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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