Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:23+







「学校はどうだ?」
「問題ありません…」
 いつものように答える。
「そうか…、ならばいい」
 その返事もいつものもの、だからわたしは気にしない。
 気にもとめない。
 この人が他の何者をも気に止めていないように、わたしもまた、それ程この人のことを思っているわけでは無いのかもしれない。
 憂えているのかもしれない、でもわたしは表情を変えない。
 他の人よりは、良い。
 そう考えていた。
 たぶんわずらわしさを感じなくてもいいから。
 だから赤城博士の言葉には、少しわたしは困ったの…
「明日の実験、流れたから」
 わたしは、そのまま部屋へと戻った。


 翌日。
「あれ?、綾波だ…」
「ほんと、あいつ今日休むんじゃなかったの?」
 バカシンジが、見つけなくてもいいってのに…
 あたしは隠れて嘆息したわ。
 だって朝から辛気臭い奴の相手なんてしたくなかったんだもの。
 そんなのシンジで十分よ!、って、こいつもさっさと先行きゃ良いのに、律義に待ってるんだからさ。
 シンジは大きく声をかけた。
「綾波ー!」
 軽く振り返るファースト、その手にはいつもと同じ鞄って、あれ?
「どうしたの?、今日休みじゃ…」
 ファーストはシンジに目を向けた。
「実験、延期になったから…」
「あ、そうなんだ…」
 あたしはファーストの手を取った。
「あんたバカァ?、今日はレクリエーションで裏山にハイキングって、言われてたじゃない」
 あたしもシンジも、小さなナップサックを背負っている。
 中にはタオルと水筒、それにお弁当。
 あたしの方がサックは大きい、女の子が荷物それだけですむわけないじゃん。
 ほれっとそれを目の前に釣り下げる。
「知ってる…」
 それをうっとうしく見るファースト。
 なによこいつ、反抗的ぃ…
「わたし、行かないから…」
「え?、どうしてさ?」
 無邪気に聞き返すシンジ。
 いいじゃないもう、ほっときなさいよ。
 そんなあたしの視線にも気付かず…
「一緒に行こうよ、楽しいよきっと、ね?」
 っとシンジは愛想を振りまいた。


 みんなで騒ぎながら山を昇る。
「かー!、なんでこないな事に汗かかなあかんねん!」
「良いんじゃないのぉ?、たまにはさ」
 ケンスケは写真の撮影に余念が無い。
 今回のは後でみんなに販売するためのものだから、もちろん極普通に写している。
 時折怪しく眼鏡が光ったりはしているのだが…
 僕は綾波を探した。
 いた…、最後尾を所在無げに着いてきている。
 僕は誘った手前もあるから、ゆっくりと歩くのを遅くして、綾波が追い付いてくれるのを待っていた。


 つまらない…
 初めての感覚。
 皆がざわついている、それはいつものこと…
 でも今日は仕方なしに集まっているわけじゃない、目的があって動いている。
 団体行動、縁の無い言葉…
 来るんじゃなかった、と、思う。
 ここにわたしの居場所は無いから…
「綾波?」
 眼下に広がる街並みをぼうっと眺めていたわたしは、その一言で気がついた。
「碇君…」
 いつ隣に並ばれたのか分からなかったの。
「なに?」
「ごめん、無理に誘っちゃったから…」
 そう言って、でも碇君は離れようとしない。
 どうして?
 どうでも良い…、と、視線を反らせる。
 わたしには関係の無いことだから。
「はーい、じゃあこの辺でお昼にしまぁっす!」
 委員長…、名前は知らない、彼女の声にみなの顔がほころんだ。
 わたしはそっとその輪の中から逃げ出してしまう。
「あ、綾波、どこ行くのさ?」
 それを見とがめたのか、碇君が着いて来る。
「どうして?」
「え?」
「なぜ、着いて来るの?」
「なぜって…」
 立ち止まり、碇君の答えを待つ。
「だって、綾波、今日お弁当持って来てないんでしょ?」
 わたしは素直に頷く、どうして?
 わからない。
 自分の行動が理解できない。
 あの人にもおざなりな答えを返すだけ…
 なのにどうしてちゃんと答えてしまうの?
 わたしは碇君の言葉を待った。
「これ…」
 差し出される銀の包み。
「…なに?」
「おにぎり!、あ、僕の分はあるから…」
 握って、アルミホイルでまとめただけの物。
 3つ入り…、それを押し付けられる。
「でも…」
 両手で持ってしまう、返そう、でも返したくない、わからない、どうして?
 碇君は微笑んで続ける。
「鮭茶漬けと梅干しとカツオ、お肉は入ってないから安心してよ」
「いい…」
 わたしは心を固めて突き返した。
「え?」
「わたし、お腹すいてないから…」
 くぅ…
 お腹が鳴ってしまった、こんなこと、初めて…
 赤くなってうつむくわたしを、碇君はおかしげに見ている。
「ね?、一緒に食べようよ」
「一緒に?」
「うん…」
 それなら…、いいかもしれない。
 一人じゃないなら、孤独を感じなくてもいいなら…
「ね?、こっちで食べよ」
 碇君はそう言って、少し太い木の根元にナップサックを敷いてくれた。
「そこに座ってよ」
 スカート、洗わなくてすむ…
 そう思い、座る。
 でも碇君は?
 ドサ…
 わたしはびくっと震えてしまった。
 碇君が無造作に隣に座ってしまったから…


「ほぉ?、バカシンジやるじゃない」
 こっそり木の陰から覗いちゃったりしてね?
 あ、お茶注いでる…
 あたしはおにぎりをはむっと食んだ。
 もちろんこれもシンジに作らせた物だ、まったく、すぐ手を抜くんだから…
 そう言えば、「だったら自分で作ればいいだろう!」って返って来るのが分かってる。
 だから仕方なく我慢してやってるのよね?
 ファーストに水筒のコップを渡して…、あー!、シンジの奴ラッパ飲みしてるぅ。
 ほんとは覗くつもり無かったのよね?、お茶は重いからシンジの奴に持たせてたんだけど…
 あたしはズカズカとシンジに詰め寄った。


「こぉらバカシンジィ!」
 あ、アスカだ…
 僕はちょっとバツの悪そうな顔をした。
 だってアスカ、怒ってるみたいだったから…
「なあ、なに?、アスカ…」
「なにじゃないでしょ!、あんたあたしのお茶はどうしたのよ!」
「あ…」
 困ってつい綾波を見た。
 綾波の持っているコップは、本当は僕が使う物だったんだ。
 水筒はそのままアスカに渡そうと思ってて…
「ご、ごめん…」
「ごめんじゃないでしょ!、どうしてくれんのよバカシンジが!」
 アスカはどんどん怒っていく。
 でも綾波はなにも言ってくれない…


 どうしてそんなに怒っているの?
 わたしにはその理由が分からない…
 碇君がわたしの手元を見た。
 このコップ、あの人の物なのね…
 あの人は今にも碇君を叩こうとしている。
 どうしてそんなことするの?、あ…
 急にわたしは思い出してしまった。
 わたしも、叩いたことがある…
 あの時は碇君が司令のことを酷く言ったから。
 でも、今は分かるような気がする…
 わたしを見てくれない苛立ち。
 悲しみ。
 一人の苦しさ。
 わかるような気がする…
 だからわたしは微笑んで、このコップを差し出した。


「これ…、返すわ」
「え?、綾波、いいんだよ」
「なにがいいのよ!」
 突っかかるアスカ、それに対してもシンジは首をすくめる。
「まだ飲んでないから…」
「でも…」
「いいわよもう!、ふん!」
「あ…」
 シンジの手から水筒をひったくり、アスカは踵を返して立ち去った。
「持ってっちゃった…」
 困ったような顔をする。
「飲みかけだったのにね?」
 シンジはそう言って座り直した。
「ま、いっか、食べよう?」
「…うん」
 ありがとう、頂きます…
 レイは口の中でシンジに礼を言い、そしておにぎりに口付けした。


 碇君と一つになりたい、わたしの心…
 今どうして思い出すの?
 侵食されていくのが分かる、使徒が心を食いつくそうとしている。
「レイ!、……!!」
 何か言ってる、わたしは起き上がる。
 不意に熱い物が込み上げる。
 ポタ…、ポタポタ…
 これが、涙?
 泣いてるのは、わたし?
 だめ、碇君…
 使徒と一つになっているからか、使徒の意識の変化が分かる。
「碇君!?」
 使徒の意識がレイから逸れる。
 シンジを捕らえようとする。
 そのあさましい姿に自分が重なる。
「これはわたしの心…、碇君と一緒になりたい…」
 わたしの心。
「だめ」
 レイは使徒からの束縛を振り切るように、渾身の力を込めて体を動かした。


「レイ…、死ぬ気?」
「臨海点突破、コアが潰れます!」


 あ…
 自分を取り巻く人達の声が遠くなる。
 爆発する寸前、コアから溢れ出て来た人の想いが…、いや、貯えて来た自分の想いが飽和する。
 その一番奥にある物…
 司令?
 大事な人の笑顔。
 ゲンドウがユイを求めていたように…
 お母さんって感じがした。
 シンジが、綾波に面影を求めていたように…
 わたしも、求めていただけ…
 シンジに何を求めていたかに気付いてしまう。
 流れ出る涙。
 零号機の装甲が吹き飛ぶ。
 背中の肉が翼のように盛り上がる。
 炎に包まれる零号機。
 煮えたぎるLCL。
 それを越える熱量が、炎が襲いかかる。
 ごめん、なさい…
 生まれてはじめて、人にわびる。
 誰よりも人の気持ちを理解していなかった自分を…
 誰よりも人の想いを傷つけて来た自分を…
 その人と同じだと言うことに気付きもしないで…
 人のことを思い、優しく接するシンジ。
 その影に、誰を重ねて来たのかを思い知る…
 あの人が、こうであったら良いと…
 それがどれだけ人を傷つけるか、考えもしないで。
 わたしが信じているのは…
 勝手なことを言い。
 パン!
 傷つけた自分を…
 ごめんなさい。
 そのレイの謝罪は伝わらない。
 そして綾波レイと言う存在は、一時的にこの世から消えてしまった。


 瞼を開く。
 病院の天井だと分かる。
 意識を取り戻した時、綾波はただこう思ってしまった。
 まだ生きてる…と。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。