「はぁ…」
溜め息を吐いてカレンダーを見る。
なんで思い出しちゃうのよ…
昨日まで完全に忘れていた。
十二月三日。
問題は明日。
端的に言えば誕生日。
いらない日…
いつだったか、シンジに聞いた事があるのよね…
「ねぇ…、あんた誕生日っていつ?」
「へ?、六月六日だけど…」
「げっ!、あたしより先なのぉ!?」
「そう思うんだったら少しは遠慮してよぉ」
そう言って洗濯物を畳むあいつ…
ぷぷっ、ダミーのスキャンティ見て焦ってやんの。
からかおうと思って混ぜといたのよね?
…履いてないわよ。
新品放り込んでおいたの!
見せようなんて思ってないったら!
そそくさとタオルで挟んで目に見えないようにしてる。
なによもぉ、汚いものに触るみたいに…
第一あんた、何年あたしの下着洗ってんのよ。
いい加減、あたしの体も見慣れたくせに。
「何もしてないって綾波!、アスカも変な事言わないでよ!」
「いいじゃない、つまんないんだもん」
どうも口を動かしてもの考える癖が着いちゃってるわね?
これもあいつの「逃げちゃだめだ」が移ったのかしら?
「やめてよぉ!、死んだ魚の目って使徒を思い出して恐いんだよぉ〜!」
むっ、新しいお仕置き使ってるわね?
…あたしにもやらせてもらおっと☆
「シンジぃ!いい加減、腹くくりなさいよぉ!」
Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:151+
そう言えば、こんなことも話してたっけ。
「誕生日の何が嬉しいのか分からなかったんだ…」
それはポツリと漏らされた。
「生きてていいことなんてなかったから…」
そう言うあいつは寂しそうで。
「だから誕生日を祝ってもらっても…」
その気持ちは…、わかるから腹が立ったのよね?
ママが死んでから誕生日は嫌いになったわ。
みんなお祝いしてくれるの、でも見せ掛けだけ。
(おめでとう)
(おめでとう、アスカちゃん…)
大きい人達がプレゼントをたくさんくれる。
(ありがとう!)
一応無邪気に笑って見せるのよ。
ばぁか、これで喜ぶんだからまだまだ子供ですって?
無邪気なんてよく言えるわよ、まったく。
もうちょっと気の効いたもの…、お金でいいから、そのままちょうだいよね。
「いま考えると…、ひねた子供だったのね」
チン…、と目の前にあるグラスを弾く。
室内を暗くしているのは雰囲気を出したくて…、嘘よ、盗聴器と監視装置を止めようと思ってブレーカーを落としたの。
「…アスカぁ、後で怒られちゃうよぉ?」
「だって見られてると緊張するもの」
「なんでさ?」
「ばぁか…」
ばかシンジは今だにあたしのもやもやに気がつかない。
当たり前と言えば当たり前よね?
「綾波もミサトさんもテストかぁ、寂しい誕生日になっちゃったよね?」
そう言って苦笑いを浮かべる。
このバカを意識し出したのはいつだったかしら?
自覚したのは、多分こいつが高校に入ってからね?
あたし達は今だにネルフと関っている。
それは予想されうるフォースインパクト…、嘘よ、って言ってもあたしの嘘じゃないわよ?
碇ユイさん…、シンジのママが「ネルフの擁護を求めるために」ってでっち上げたシナリオなのよ。
それは職員の安全を手に入れるため。
あたしはその中で、ほぼモデルチェンジされた弐号機のパイロットはもちろんのこと、新設されたおばさまのE関連研究開発部に所属する事になっちゃったのよ。
そりゃもう給料なんて腐るほど貰ってるわよ。
…使う暇も無いったら、まったく。
おかげで高校には行けなかったわ?
ああ〜ん、ヒカリぃ!、なんてね?
「シンジはあたしと二人っきりなのが、嫌?」
「ななな、なに言ってんだよ!」
ぷぷぷ、真っ赤になっちゃってまぁ、からかいがいがあるんだから…
とにかく、そっちの部署に移されたからこそ知った事実。
『綾波レイ』
あの子の抱える苦悩と混乱。
ほとんどが一人目、二人目、三人目の人格と記憶の共有による混濁ね?
それを支えてるあいつを見た時、ドキッとしたのよ。
だって大人の…、加持さんよりももっと優しい顔してたから。
それを見てるファーストも幸せそうだったわ。
(アスカもあんな顔してたのよ?、シンジ君もね…)
ミサト、そう言ってたっけ?
あたしは他者との接触を断った後、次には殺意を振りまいたわ?
(殺してやる)
そんなあたしを…、あいつはファーストを支えながら受け止めてくれたのよね?
…あたしがつけた噛み痕や痣とか引っ掻き傷を見た時のファーストの悲しそうな顔、忘れてないわよ。
だってそれが忘れられなくて、あたし…
「アスカ…、大丈夫?」
「たぶんね」
「さっきから辛そうだよ?、横になる?」
んふ☆っとちょっとだけ思い付く。
「枕…」
「へ?」
「膝枕…、ね?」
こんな時のシンジは底抜けに優しい。
呆れたような、それでいて安堵したような笑みを浮かべてくれる。
「じゃあ、リビングでね?」
「うん!」
子供みたいね、あたしってば。
これもシンジのせいなのよねぇ…
思い出すと恥ずかしいわよ。
ファーストの悲しそうな顔を見て、嫌になって、それが自分に対してだって思い込んで…
(あたし…、生まれて来ない方がよかったのかな?)
何を言うんだよ。
(エヴァに乗らなくても…、あたしがいなくても勝てる戦いばっかりだったし)
そんなのは結果じゃないか。
(その結果も残せてないもの…)
そんな悲しいこと…、言わないでよ。
(なんで?)
僕だって…、僕だって生まれて来ない方がよかったのかもしれない。
(そんなことないわよ)
僕が居なきゃ、トウジの妹さんや、トウジや、アスカ、綾波が傷つかなかったのかもしれない。
(ほんとにそう思うの?)
もっとうまく物事が進んでたのかもしれない。
(あいつの顔を見てもそう言えるの?)
二人でファーストの悲しい顔を思い出して…
(この間…、シンジが死ねって言ったら死ぬの?って聞いたのよ)
なんて…、言ってたの?
あたしは溜め息と共に教えてやったわ。
(死ぬのは恐いって…)
あの時は単純にシンジが変えたんだと思ってたわよ。
だから羨ましかったのよね?
あいつのために甲斐甲斐しい所を見せるシンジが。
はにかんだ笑顔で、あいつの世話を焼いて、教え諭して、甘えさせてあげてるシンジが。
ホントは寂しさから逃げ出したくて我慢してたらしいんだけど。
死、イコール寂しさか…、分かる気もする。
とにかく、そんなシンジを独占してるあいつが…
だからちょっとだけ口にしたの。
(リンゴ…)
(ん?)
(剥いて、くれない?)
ほんの…、ほんのちょっとしたお願いだったの。
でも恥ずかしくて、顔が見れなくてうつむいて…
どうしてあんなにドキドキしたのかしら?
お願い…、が恥ずかしかったのよね?
あの時シンジってば笑ってたけど、きっとあたし真っ赤だったわ?
恥ずかしくって…
あいつは「いいよ」って優しく接してくれて。
だからしばらくは駄々をこねて、甘えん坊で居られたの。
赤面物よね?
子供みたいだったと思うわ?
今も子供だって思われてるかも。
「ねぇ、シ〜ンジ?」
「なに?」
「なんでもなぁい☆」
シンジの膝は世界一よ。
髪も撫でてくれるからもっと好き。
あたしを見つめる目はほんの少しだけ細くなるの。
その分目尻が下がってだらしないったら…
…これって男?、大人?、ううん、きっとお父さんの目なのよね?
だからとても居心地がいいの…
「やっぱりダメねぇ…」
溜め息一つ。
「何がさ?」
ほんとに分かってないのよね?
「あたしって、シンジが居るから男が出来ないのよ」
「なんだよそれぇ…」
不満気、でもちょっと嬉しそうね?
「ズルいわよ…、あんた一人でかっこよくなっちゃってさ?」
「アスカの方が奇麗じゃないか…」
こいつこういう時だけさらっと言うのよ、意識して口に出来ないくせにさぁ…
まあだから?、思った事をそのまま口にしてるんだって分かって、嬉しいんだけど…
目を閉じて、ほんの少しだけシンジに擦り寄るように位置を正す。
ファーストはダメね?、手綱は握っちゃってるくせに、今だに独占してるって自信を持ってないんだから。
理由が欲しいのかしら?
それともここに居てもいいんだって言う根拠?
あたしと同じか…、でもあたしは気がつけばお邪魔虫。
シンジはあいつを支えて、あいつはシンジに寄り添っていて。
あの時は何も感じてなかった。
ほんのちょっとだけ寂しかったけど…、あたしにも十分優しくしてくれたから。
でもバカな奴等が「お二人は付き合ってるんですかぁ!?」って黄色い声を出した時、胸がちょっとだけ痛くなったの。
あいつ…、困ってたけど否定しなかった。
ファーストなんて茹でダコになって俯くだけで…
それまであたし、居心地の良さに満足してたの。
あいつらがキスしてようが何してようが、ちゃんとあたしの居場所も用意してくれていたから。
ちゃんとシンジの隣にあったのよね…
でも足りなくなっちゃった。
一人は寂しいのよ、結局…
嫉妬しちゃって…
自棄も起こして。
「あたし、付き合おうって思って、デートもしたのよ?」
「先輩とかでしょ?」
「でもダメね…、セカンドチルドレンとかの色眼鏡は我慢できるけど、誰も甘えさせてくれなかったもの…」
シンジのようには。
「だから、僕なの?」
真剣な時の瞳って奇麗よね?
「…夢を見るのよ」
「夢?」
それはもう消えてしまった昔の記憶。
「ママがね?、お祝いしてくれてるの」
誕生日おめでとう。
「とっても優しかったの」
嬉しかったの。
「で、ね?、プレゼントを貰うのよ…」
大きな猿のぬいぐるみを。
「でもあたしはありがとうって言って、次の人に手を差し出すの」
「…お父さん?」
「ううん、シンジ」
「僕?」
「うん、で、シンジは僕には何も無いからって、キスしてくれるの」
「き、キスぅ!?」
「ばぁか、動揺すんじゃないわよ…、キスって言っても額によ?」
「あ、おでこ、ね…」
はははって、むっ!、なんでそこでほっとするのよ?
…まあいいわ?、今はムード壊したく無いし。
「髪を大きな手のひらで掻き上げて、そこから優しさが染み込んで来て…」
次の言葉、聞いてよね?
「それが全身に行き渡ったら、今度は嬉しさが込み上げて来たの」
「…嬉しかったの?」
もぞっと動く、頷いたって、わかるわよね?
「うん…、ほっぺを真っ赤にしてね?、ああ、子供なんだなって、そう思えるぐらい、すっごく無邪気に照れるのよ」
髪を撫で付けていたシンジの手が、恐る恐るあたしの肩にあてがわれた。
「羨ましかったの?」
触れられてる肩が熱くなる。
シンジの手のひらの内側に熱を感じる。
「加持さんの時と同じ…」
ビクッとシンジの体が強ばった。
「きっとまた、シンジにパパを思ってる」
未練が残るけど…、起き上がる。
「アスカ…」
あたしは背を向けてうなだれた。
「シンジ…」
「なにさ?」
シンジの緊張が手に取るように分かる。
恐い?
恐いのよね…
あたしも答えを聞くのが恐い。
でも止まれない。
「あたしのこと…、好き?」
「…うん」
「よかった」
それだけを言って顔を上げる。
天井を見つめて涙を流す。
「アスカ…」
「あたし…、生まれて来て良かったって、誕生日、思える、かも…」
反則的に優しい抱擁。
「アスカ…」
背後からの抱きしめ。
「シンジぃ…」
潤んだ瞳で、振り返る。
擦り合う頬。
シンジの唇があたしを求める。
…違うわね?
あたしがシンジの唇を探してる。
ま、いいわよ。
明日はあたしの誕生日…
もっとお祝いしてよね?
ばかシンジ…
この分のサービス、さてっと、何をしてもらおうかしら?
にやりとね?
「…くっ!」
あたしはジョッキを握り締める。
「なんでよ、なんでこうなるのよぉ!」
絶叫に揺れる横断幕。
「なによアスカ、荒れてるわねぇ?」
ネルフの食堂。
幕には「お誕生日おめでとう」の文字。
「お祝いしたいって子が殺到しちゃってさぁ、いやぁやっぱアスカってモテるわねぇ?」
ネルフの補充職員は若い人が多かったわ?
あたしも守備範囲に入ってるんでしょうね?、でもバカな奴等に興味は無いのよ!
「なんでそんなとこだけ気が回るのよぉ!」
ミサトの首を締め付ける。
「ちょ、ちょっとアスカ!、あんたマジね!?」
「こんちくしょー!」
シンジはミサトによってグロッキー。
あ、ファースト!、なに膝枕なんてしてんのよ!
「シンジ!、医務室に行くわよ!」
「…わたしも」
「あんたはこの場を盛り上げておくのよ!、あたしが戻るまで下げちゃダメよ、いいわね!」
あ、困ってる。
まああたしもファーストに期待なんてしてないけどね?
…しっかし重いわねこいつ。
酔っぱらいを背負って歩く事になるなんて… カッコ悪ぅ!
っと更衣室はこっちよね?
チルドレン専用更衣室。
ジャージバカもファーストも来る心配は無い。
さぁてと、おもちゃは手に入れたし、二人きりだし。
こいつはシャワーでも浴びさせて…
後は既成事実あるのみよ!
…起きなかったら、ま、したってことにしておいて、責任だけを取らせましょうか?
大丈夫よ、シンジ、優しくするから。
…それにしても、どうしてみんなあたしの顔見て道を譲ってくれるのかしらね?
いやほんとは分かっているわよ。
…にやけてたんでしょ?、後でさんざんからかわれたわ!
余談。
なんだかファーストの一発芸が大受けしちゃったらしいんだけど、見れなかったのは残念だわね。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。