「なんですか?、これ…」
 その日、シンジの元には謎のディスクが送り付けられた。
 その差出人は…
「ネルフ諜報部?」
 怪しい、怪し過ぎる。
「とにかくそれの中を見て」
 電話の相手は伊吹マヤだ。
「後はシンジ君が自分で判断して」
「はあ…」
「…汚れるって、楽しい事なのね」
「え?、ちょっとマヤさん!?」
「じゃ、お願いね?」
 一方的に電話が切れる。
「なんなんだよ、もう…」
 シンジはディスクの再生に取り掛かった。

 Evangelion Genesis Real 
 Evangelion another dimension real:173+ 
 ディスクの中身はいかがわしい行為の写真と、手記らしい口調で書かれた文章だった。

 幸せってなにかしらね?
 別にそうなりたかったわけじゃないのよ…
 ただちょっと…、ね。

 口にものが挟まった様な切り方で始まった。

 落ち込んでたら、あいつに声を掛けられたのよ。
「ヒカリの親友を放っておけるかいな」
 優しいって、確かにね…
 別に誰でも良かったのよ。
 あいつの部屋、狭かったわ?
 自然と肩にもたれ掛かるしかなかったの。
 泣きたかったから。
 潤んでたと思う、あたしの目。
 見上げたら…、キスされた。
 ゴクリって、その前に喉が鳴ってるのをはっきり聞いた。
 でもいいの。
 嫌がる理由が無かったから。
 そのままあたし、女にされた。

 しばらくはぎこちない感じがあったけど、人って平気で嘘を吐けるのね?
 ヒカリに隠れて付き合いは続いたわ。
 守ってやるとか、好きとか言われて、呼び出される度に女にされた。
 でもバレちゃった。
 ヒカリに。
 相田の奴、鈴原を殴り付けたわ?
 あたしは泣いてやめさせようとしたの。
 どうしてかしらね?
 いいじゃない。
 体目当てでもさ?
 優しかったんだもん…
 優しくしてくれたんだもん。
 でもだめ。
 ヒカリに泣かれちゃった。
 鈴原も、すまん、だって…
 あたし、また…、捨てられたのね?

 それから今度は相田が側に居てくれた。
 鈴原とのことがあったから、まるで壊れ物でも扱うみたいだったけど。
 人の不安に付け込みたくないよ。
 だって…
 嘘つきよね?
 だってほら、結局こうしてキスしてるじゃない。
 胸吸われてる。
 セーエキ注ぎ込まれてる。
 あれからずっと。
 このためだけに呼び出されてる。
 優しくしたいんだ、だって。
 あいつと同じじゃない。
 同じこと言ってる。
 あたし知ってるのよ?
 カメラ、隠して回してるでしょ?
 胸つかんで、尖らせて吸い付いて…
 …だからあたし、教えてやったの。
 子供、出来たって。

 やっぱりあいつも同じだったわ。
 やりたかっただけじゃない。
 焦るだけ焦って、青い顔して。
 困った、ですって。
 ばぁか、あれだけやりゃ出来るに決まってるじゃん。
 産むつもりなの?、だって。
 で、病院行けって。
 堕ろしてこいって。
 …何様のつもりよ?
 なんで命令されなくちゃいけないの?
 あたし泣いちゃった。
 泣いてる所を見つかっちゃった。
「アスカ?」
 一番会いたくなかった相手だった。

「で、どうしたいの?」
 堕ろす…
 あたし、なんとかそれだけは絞り出せた。
 だって嫌だったんだもん。
 あんなやつの子供、生みたくなかった。
 それだけの理由で、この先も縛り付けられそうだったから。
 俺の子供を産んだくせに。
 言われそうで、恐かったのよ。

 あいつはただただ優しかった。
 なにも言わなかったから。
 変な目で見られたのに、病院にまで付き添ってくれた。
 お金も出してくれた。
 あたしは…、また居着いちゃった。
 一度だけ部屋に戻って、荷物をまとめた。
 留守番電話は、メモリーがいっぱいに溜まってた。
 相手は相田。
 中身は聞かなかった。

 それから同棲が始まった。
 ううん、それはあたしが口にするだけ。
 だってあいつは何もしないもの。
 それに何も聞かない。
 ただ居候させてもらってる。
 あたしはそれが不安で恐くて。
 だから毎日の些細な事まで話したの。
 楽しかった…
 おしゃべりするのが。
 傷を無視されるのがありがたかった。

 どこでどう聞きつけて来たのかしらね?
 相田のバカが押し掛けて来た。
 アスカを返せ、だって。
 あいつ、殴られてた。
 でも何も言わない、なにもしなかった。
 だからあたしが割り込んだの。
「やめて!」
 相田のバカ、泣きそうだった。
 俺の所に帰って来てくれるよな?、だって。
 その時のあたし、ブラもしてなかった。
 シャツだけだった。
 だから気がついた。
 相田、あたしの胸をじっと見てた。
 だから嫌だってはっきり言ったの。
 相田が見てるのは、体だったから。

 あたしとシンジの二人きり。
 あたしは傷の手当てをしてあげた。
 シンジ、困って目を逸らしてた。
 それでもちらちらと胸を見てた。
「触りたいの?」
 あたしが聞くと。
「そりゃね…」
 だって。
「でも…、しないよ」
 どうしてって、言いたくなったの。
「だって…、逃げて来たんでしょ?」
 そう言うあいつは、悲しそうで…
「僕も…、逃げて、ようやくここを見付けたんだ」
 高級マンションの一室。
「だから…、無くしたくない」
 そっか…
 あたしはようやく気がついた。
 ここはシンジの心なんだわ。
 何も変わらない、痛みも、悲しみも、喜びも無い。
 なにも変わらない、変化のない部屋。
「だから…、あたしを連れて来たの?」
 シンジは頷く。
 否定しない。
 そう…、知ってたのね?
 あたしが潰れそうになっていたのを。
 ここはあたしが手に入れた安息の地。
 でもこいつがいる。
 こいつが求めたら?
 あたし、きっとまた体を上げる。
 そうして、同じことをくり返すんだわ…
 でも嫌なの。
 もうそんなのは嫌なのよ…
 だからこいつはなにもしない。
 時間がただ流れるだけなら、痛みも苦しみも無くて、穏やかですむから。
 だから変化を求めない。
 あたし達の関係は変わらない。
 でもダメ。
 もう変わっちゃったわ?
 だって気が付いちゃったもの。
 こいつなりに気をつかってくれていたって。
 自分と同じなら…
 同じ癒しのはずでいいって…
 そう言う事なのね?
 傷ついた事のある人間の方が優しいなんて。
 こんな残酷な事だったのね?
「シンジ…」
 あたしはいつのまにか泣いていた。
 シンジの頭を抱きしめる。
「アスカ…」
 シンジも腕を回してくれた。
 でもそれ以上は何も無かった。
 あいつが、あたしが臆病だから?
 どちらでもいい…
 ここなら大事に守ってもらえる。
 例え女としてを求められても…
 それは今までと同じだから。
 だからあんたを恨みはしない。
 お願い、もう少しだけ、ここに居させて…
 それを許してと、あたしは願った。


 カチャ…
 シンジはディスクを停止した。
「ふぅ…」
 ノートパソコンに読み取り機器を接続し、液晶画面に見入っていた。
 マウスをクリックして画像のある所まで戻っていく。
「アスカ…」
 白い体が蹂躪されている。
 ぽふん♪
 背中に何かの重みを感じた。
「シ〜ンジ、なにやってるの?」
 サーッとシンジは青ざめる。
「え〜っと?、…んな!?」
 怒りで力が入るのがわかる。
「なっ、なっ、なによこれぇ!」
「あ、いや…」
「どういうつもりよ!」
「アスカ、怒らないでよ」
「怒るわよ変態!」
「なっ、…アスカだって、こんなことされるからいけないんだろう!?」
「こんなって…、あんたまさかあたしを疑ってるの!?」
「疑ってはいないけど…」
「嘘よ!、あたしこんな事してたって思ってるのよ、そうでしょ!」
「そんなわけないだろう!」
「じゃあなにをされたってのよ!」
「こういういたずらだよ、これ合成でしょう!?」
「なんでわかるのよ…」
「だってアスカ、こんなに胸大きくないじゃないか…」
 ギシッと、別の怒りを買う。
「シ〜ン〜ジぃ」
「その分アスカの方が張りがあるし上向きだし」
「え?」
「こんな大きいだけの垂れ乳とは違うよ、合成だってまるわかりじゃないか、それに」
「そ、それに?」
「ほら、これ読んでよ?」
「う、うん…」
 先程までの怒りは何処へやら?、アスカは素直な姿勢を見せる。
「ね?、こんなのでたらめじゃないか…」
「じゃあ…、これは、まさか相田!?」
「まさか、ケンスケはこんな邪道なことはしないよ」
「…何で知ってるのよ?」
「ケンスケのコレクションなら知ってるもの」
「ほほぉ…」
 剣呑な表情。
「で?、あんたはそれを見てどうしたってわけ?」
「え?、あ、それは…」
 バキボキベキ…
 アスカの拳が音を立てる。
「お仕置きね…」
「ええ〜〜〜!?、勘弁してよぉ」
「だめよ!、…にしても、これ、誰が作ったのかしら?」
「マヤさんに聞けば分かると思うよ?」
「マヤに!?」
「だってマヤさん、嬉しそうにこれのこと話してたから」
 あのショタコン!
 ぎりぎりと奥歯を噛み締める。
 結局真犯人はマヤ自身なのだが、諜報部から回って来たと護魔化されて、出所は不明のままとなってしまう。
「それにしても、これって誰の体と合成したんだろ?、結構ほくろが多いんだよね?」
「いつまで見てんのよ!」
「え?、あ、ごごご、、ごめん!」
「だめよ!、あんたあたしの部屋まで来なさい!」
「ええ〜!?、やだよぉ、今度はなにさせる気ぃ?」
「…そうね、ほくろ!、全部数えるまで許してあげない」
「あ、それなら知ってるよ、全部で十四個」
「何で知ってるのよ!」
「だって…、いつも見てるもん」
 かーっとアスカは赤くなる。
「バカ…」
 真っ赤になって俯いてしまう。
 一方シンジはと言えば…
(綾波にはほくろって無いんだよなぁ、なんでだろ?)
 実は一番汚れているかもしれないシンジであった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。