「うう、さむ……」
　茶色のコートを羽織るアスカに対して、シンジは安手のジャンバーである。
　マフラー一つ無く、かじかむ手をポケットに入れている様を見て、アスカはふと自分の格好と比べてしまった。
　首に巻いている黒のマフラー。
　暖かなピンク色の手袋。
　アスカはいそいそとマフラーを解くと、シンジと呼びかけ、振り向かせた。
「なに？」
「じっとしてて」
「え？　あ、ありがと……」
　それが校舎を出てすぐの場所でのやりとりである。
　いつものことではあるが、目立つ二人をうらやましげな、あるいは恨めしげな視線がなでる。
　アスカはシンジの首に自分のマフラーを巻き付けながら、唐突にほろりと涙をこぼした。
　ううっと目尻の涙をぬぐう。
　動揺する周囲とシンジだ。
「アスカ？」
　そんなアスカを見て、みんなはきっと、シンジのことをフビンに思ったのだろうと想像した。
「ねぇ……シンジ」
「なにさ？」
　アスカはとても魅力的に、甘えた声で口にした。
「あたしってなんでこんなにけなげで可愛いんだろ？」
　──そっちかい！
「ね？　ね！？　あたしってさぁって、ちょっとなに無視してんのよぉ！」
「…………」
　なにも言わないシンジであった。


「ようするに自画自賛が好きなのね」
「うぬぼれやさん？」
「感動するのは自分のことだけ」
「ばかばっか」
「そこうるさい！」
　ビシッと動物コンビに言いつける。
「シンジもなんとか言ってよぉ！」
「……おおむね当たってるような」
「あんたも言うようになったじゃない」
「鍛えられたからね」
　面白くなぁいとアスカは暴れた。
「大体シンジは自分に自信ってもんが無さ過ぎんのよ！」
「なんで僕に来るんだよ……」
「うるっさーい！　とりあえず猫背はやめる！」
「寒いんだよ……」
「そういうジジむさいところがだめだめだって言ってんのよ！」
　あ、これはろくでもないことを言い出すな──とシンジは思った。
「そういうわけで、あんた明日からジョギングよ！」
　お散歩？　と喜んだのはレイだった。

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