──特にトウジのせいだというわけでもないのだが、なんとなしに持ち物チェックが行われることになったのだった。
「んじゃ机の上にちり紙とハンカチ出してぇ」
「っていうかあんた誰よ」
アスカのセリフにぐぅっと唸ったのはミサトであった。
「な、なぁに言ってんのよぉ、あたしよあたし」
「だから誰よ」
「言ってくれるじゃない……担任の葛城ミサトよ!」
「…………? あー、あー、あー、思い出した」
「思い出してくれた!?」
「うん! 確か転校してきたときに顔見て以来、ぜんっぜん見かけなくなった人!」
「…………」
さめざめと涙を流す担任である。
「うう……あたし、いらない先生なのね」
「なにもそこまで言ってないじゃない」
「……失意の担任は職員室に戻るから、後は洞木さんお願いね」
「はあ……」
出て行くミサトを見送って……ついでに廊下を覗くとスキップしているのが確認できた。
「先生……サボり」
「あの人、職員室の机を改造して、一番下の引き出しを冷蔵庫にしてるらしいんだよね」
「はぁ!? なに入れてんのよ」
「ビールとか」
ほんとなのっと、アスカはシンジの横顔を見つめ、次にクラスメートの様子を窺ったが、それは常識であるらしかった。
「なんたる非常識さ……それで教師がつとまっちゃうの?」
「あの先生は特別なんだよ」
どこがどうとまでは、語りはしないシンジであった。
何故にヒカリが指名されたのかとそれを言えば、単に委員長であったからに過ぎないのだが……。
「男子でハンカチとちり紙を持ってきてるのって半分もいないのね」
ううっとヒカリは、トラウマになってしまった恐怖体験を思い出す。
「フケツよ────!」
「はいはい。でもシンジぃ、なんでハンカチなんて持ってるんだよ?」
「ケンスケ……そりゃないと思うよ?」
なに言ってんのよっとアスカがはたいた。
「毎朝用意してやってんのあたしじゃない」
女子が騒ぐ。
「ええ!? それってアスカ!」
「なによ?」
『きゃ────!』
「な、なに!?」
「だってだって、それって「はい、ハンカチとちり紙、じゃあ行ってらっしゃいアナタ」、ってみたいな!」
「……いってらっしゃいって、あたしも一緒に来てんだから」
妄想たくましいなぁとあきれかえる。
「みんなはそういうことしないの?」
ぶるんぶるんと一斉にかぶりが振られた。
「そういうものか……」
「外国じゃしちゃうの?」
「しちゃうっていうか……あたしが住んでたのは共用アパートみたいな場所だったから、よその家でも勝手に出入りできたしね」
「へぇ……じゃあ、あっちで付き合ってた人が居たの?」
「違う違う……友達の中にいたのよ、付き合ってる人を起こしに行ったりね? そういうことしてる子って多かったし……」
あたしもそうしたかったんだぁっとどこかとろけた表情をする。
みんなもそんなアスカに感化されたのか? とろんとした顔をして妄想に浸った。
──二人ばかりを除いてだ。
「……そうだったんだぁ」
マナである。
「アスカの夢って」
「朝から怒鳴ることだったのね」
(違うような、違わないような……)
シンジは朝からさっさと起きろとレイをこづき回す様子を思い浮かべ、コメントに困った顔をしたのであった。
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