昼食の後、五時間目は体育であった。
 ブルマ姿でちょこんと座り、アスカはヒカリガンバレとトラックを駆ける友達に声を発している。班対抗のリレーなのだ。
 ……なにげにレイが四つんばいになって疾走し、それを追うマナもまた四つ足走法なのだが、普段からこうなのか、もはや誰も気にしていない。
「ああやってシンジがいないと普通の女の子なんだけどなぁ」
 ぽつりとこぼしたケンスケの言葉に、男子一同はこくこくと頷いた。
 ちなみに彼らの授業は水泳である。
 フェンスに張り付いてトラックを疾駆するブルマの見学を行っていたのだが、逆にそんな彼らを女子たちも眺めてきゃあきゃあと騒いでいた。
「うっわー相田って貧弱ぅ」
「あばら出てるしぃ」
「でも鈴原も結構ブタってるよね」
「きゃー! いっかりくぅん!」
 こそこそとしているシンジをからかう女子一同だが、横ではアスカがあえて聞かない振りをしていた。
「我慢よ我慢……これもシンジのためなのよ」
 もちろん視線に慣れてくれれば、ちょっとは羞恥心も薄れてうへへへへなんてことを考えていたりもするのだが。
「あれ? ヒカリ、どうしたのよ」
「え!? えっと、ううん! なんでも……」
「ん〜〜〜? 誰見てたの? ひょっとして」
「ちっ、違うの! 鈴原なんかじゃ!」
『え〜〜〜!?』
 一同愕然と声を上げた。
「なんで鈴原ぁ!?」
「あのすね毛だらけの足!」
「ふくらんでるお腹!」
「角刈り!」
『サイアクぅ〜〜〜!』
 聞こえてしまったのか? トウジはぶるぶると震えていた。
「お、おい、トウジ……」
「我慢や、我慢! こないなことで男が……」
「で、なんで鈴原なんて見てたのよ?」
「うん……」
 ヒカリはぽつぽつとこぼし始めた。
「昨日ね……、あたし、塾の帰りに鈴原に会ったの」
「へぇ? ゲームセンターでも行ってたんじゃない?」
「ううん。その時鈴原ね……」
「ふん?」
「電柱に向かって、おしっこしてたの」
『へ?』
「あたし、恥ずかしくなって逃げ出しちゃって……でも鈴原、おおーい、どうしたんだぁって追いかけて来たの」
『…………』
「どうしたもこうしたもないじゃない? ジャージだし、なにか気になるし、あげくに手でつかまえようとするし、もちろん洗ってないし」
『…………』
「恐かった、あたし恐かったの。どんなに走ってもおおいって後を追いかけて来てるみたいな気がして、なんとか家に逃げ込んだんだけど、鍵をかけてベッドに入っても、なんだか窓の外にいるみたいな気がして……」
『…………』
「そうしたら、お姉ちゃんがね? 電話よぉって言うの……鈴原だったわ」
『…………』
「どうして逃げたんだって……あたし知らないって言って電話切って部屋に逃げたんだけど、しつこく電話かかってきて、ほんとに恐くなって、電話線を抜いてお布団被って一晩中震えてたの」
『…………』
「そうしたら……そうしたらね? 今度は夢の中にまで出て来るようになったのよ! ねぇ!? あたしどうしちゃったのかな!? ジャージの鈴原の下半身が迫ってくるような夢だったの! ねぇってばぁ! あれ?」
 ……誰もいない。
「うう……誰か助けて、助けてよ……」
 誰も助けてはくれなかった……というか、関わり合いになどなりたくはない様子であった。

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