「なんにつけても、アスカ……アスカか」
 昼食時である。教室の中、サンドイッチをほおばりながらケンスケはカメラのファインダーを覗いていた。
「なに撮っとんねん?」
 パンし、友人を撮す。
「惣流だよ」
 カメラを下ろす。
「はん? あんなん撮ってどないするんや?」
「いや、売れるかなって」
「はぁ!? 誰が買うねん、そんなもん」
 ──そのアスカはと言えば。
「はいシンジ、あ〜〜〜んして」
 朱塗りの箸にとても美味しそうなだし巻き卵をはさみ、アスカは手を添えて突きだした。
「はい、シンジって」
 シンジは真っ赤になって挙動不審気味にきょろきょろとした。
「自分で食べるよ……」
「だめよ!」
「だめって……」
「これはあたしが作ったもんなんだから! どう食べるものなのかもあたしが決めるの!」
「そんな無茶苦茶な……綾波もなんとか言って……」
 無駄だった。
 ん? っと弁当箱から顔を上げるレイである。顔中ご飯粒だらけだった。
「綾波……」
 がっくりとくる。
 鉄製の四角い弁当箱だった。その内訳はご飯が七分に余白が三分。なぜ余白があるのかと思えばそれは水筒に入れてきたみそ汁を注ぐためだったのである。
「……学校でそれはちょっと」
「だめなのね、これ」
 しょんぼりとする。
「あ、いや、だめってわけじゃ」
「そう、よかったのね」
 がふがふと顔を突っ込んで食に戻る。
 その様子を気にかける人間は誰もいない。
 ──ケンスケとトウジに戻る。
「……写真に性格は映らんからなぁ」
 人生悟りを開いているかのようなことを言い、彼は紙パックのジュースをすすった。
「で、売るっちゅうてもあてはあんのか?」
「ああ。この間ゲームセンターでさ」
 なぁっとゲームをしていたケンスケは、横から別の学区の生徒に声をかけられていた。
「金髪の子と一緒にいたよなってさ」
「そりゃしゃあないなぁ」
「顔だけなら可愛いからな」
 ガタンと椅子を蹴倒す音がした。
「いいから食えっつってんのよ!」
「やーめーてーよー!」
 椅子の上で必死に抵抗するシンジと、襲いかかるようにして力比べを披露しているアスカである。
 この場合、分はシンジにあるようであった。なにしろアスカが箸で摘んでいるのはだし巻き卵なのだから、へたに力を入れると壊れてしまうのだ。よって力を込められない。
 腕力で負けているシンジでも、これなら抵抗できるというものであった……できるだけだが。
「あーんて口開いてパクってくわえてくれりゃそれで良いのよ!」
「だからそんな恥ずかしい真似できないって言ってんだろ!?」
「あんたあたしの作ったもんが食べられないってワケ!?」
「食べられないんじゃなくて、自分で食べるって言ってるんだよ!」
 トウジはなぁっとケンスケに訊ねた。
「惣流って……あれか? ああいうんがイタイっちゅうんか?」
「まあ、そうだなぁ……ストーカーの一歩手前だしな」
「ストーカー……」
「だってそうだろ? シンジを追いかけてシンジの隣の部屋に住み着いたり面倒見たりわがまま言ったり」
「なるほど」
「コラァ!? だぁれがストーカーだってのよ!」
「聞いてたんかい!」
「聞こえたのよ!」
「オドレの姿振り返ってからモノ言えや!」
「あ〜〜〜んっ、シンジぃ! 鈴原がいじめるぅ」
 ──ええかげんにせぇっちゅうねん!
 クラス一同、気持ちが一つになった瞬間であった。

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