「なんや珍しいやないか」
「俺たちになにか用か?」
 トウジとケンスケの二人である。
 アスカに呼び出されて屋上へ。もちろんシンジがらみだと言うことは察しが付いているのか、身構えていた。
「あかんっ、あかんで! わしはシンジの親友や!」
「そうだ! シンジをはめるようなことには協力なんて!」
「……別にそんなこと言ってないじゃない」
 ひゅうっと寒い風が吹いた。
「なんや、違うんかい」
「そっか」
「それはまた別の話として」
「……やっぱりかい」
「どうせ拒否権なんてないんだろうなぁ」
 ブルーと鬱になる二人である。
「そんで?」
「なんだよ?」
「シンジのことよ」
 それはわかっとるっちゅうねんと突っ込むトウジだ。
「そやからなんやねん」
「知りたいのよ……シンジのことを」
 はぁっと二人は目を見交わした。


「シンジのことなぁ」
 それぞれ缶ジュースで買収された二人である。
「言うてもそないに知らんで」
「そうそう。友達って言ってもゲーセン行ったりするくらいだったし」
「使えないやつらぁ……」
 心外だなぁとケンスケは返した。
「そんなもんだって、なぁ?」
「小学生やないっちゅうねん。わざわざ学校帰ってからアソボとか言わんわ」
「そうそう」
「冷たいのねぇ……そういうのがこっちの付き合い方ってわけ?」
「惣流は……そっか、外国に行ってたんだっけ」
「そうよ」
「そっちじゃどうだったか知らないけどさ、普通誰ん()の家って何人家族でなんて知らないよ。詮索してもつまんないしさ。一緒にいて面白いかどうかとか、そんな程度のもんだぞ?」
「でもあんたたちってシンジの友達なんでしょう? シンジが一緒にいて楽しい相手?」
 トウジは憤慨する様子を見せた。
「そんな言い方あるかい」
「そうそう」
「でも面白い相手じゃなかったでしょう? ボランティアだったってわけ?」
「んなわけあるかい」
「あれでけっこうやるんだぜ? ゲーム」
 それよ! っとアスカは指を突きつけた。
「あたしはそういうのを聞きたかったのよ!」
「あん?」
「どうもねぇ……あのバカ、あたしの前だと大人しいのよね」
「あかんのかい」
「物足りないって奴ぅ? 自分を隠してるみたいな」
 呆れた目をしてケンスケは見た。
「シンジの性格からすりゃそんなもんだろ……」
「そやなぁ……」
「やっぱ惣流のこと、意識してんじゃないの? 俺たちとはしゃいでたみたいにできないだろ、そりゃ」
「そういうもんなの?」
 きょとんとするアスカに対して、ケンスケは確認のつもりで問いかけた。
「男が女の子と遊ぶのと、男同士で遊ぶのと、中身が違うだろ?」
「そうかなぁ……う〜ん。よくわかんないけど」
「そうか、惣流って」
「なんや?」
「いや……。だからさ、惣流ってドイツで男友達って居たよな?」
「そりゃね」
「どう遊んでた?」
「バスケとか……サッカーとか」
「やっぱりだ」
 首を傾げる二人に対して、ケンスケは自説を披露した。
「だからさ! 惣流ってやっぱ外人なんだよ。前に教育テレビで見たことがあるんだ。アメリカとかがそうだけど、男の子とか女の子って区別は差別に繋がるからって一緒に遊ばせてるんだよな。意識させないようにしてるとかってやってたよ」
「ふうん……」
「そうなんか?」
「さあ? テレビでやってたことだから……。でも日本じゃ制服で区別されてるしさ、だろ?」
「そやなぁ……」
「女の子と一緒に遊ぶのってかっこ悪いとかさ」
「なによそれ……ガキ?」
「いじめとか」
「はん?」
「男連中とか女連中って枠からはみ出して、仲良くくっついてる奴ってのは物笑いの種にされるんだよな、噂とか」
「そういうこと……か」
「いじめと同じレベルだよ。ただやられた方も恥ずかしいって思いをする程度のことだからさ、それに、開き直っちゃうとそういうのが良いって逆にやり返してくるし」
「惣流がそやなぁ……」
「綾波とかな」
「へ?」
「だから綾波とか」
「そやったなぁ」
 二人は感慨深げに口にした。
「付き合いはじめたころなんて無茶苦茶やったしなぁ」
「そうそう……プールでくっついたりとか」
「え?」
「綾波の奴がシンジに抱きついてなぁ……シンジの身体なめ回して」
「へぇ…………」
「夜中なんて公園でいちゃついてたしなぁ。あの公園って夜中には中学生が入れなくなるような大人の世界だったし」
「なにやってたんやろうなぁ?」
「そうだよなぁ……」
 ふふっと二人は遠い目をしてうつろに笑った。
「わしらは深くは知らん、そやけど」
「ああ。シンジは光よりも早く大人になって行ったのさ」
 じゃあなぁっと二人は嫉妬に燃えたアスカを置いて去って行った。
「付き合ってられるかい」
「そういうこと」
 まだ見ぬ未来のシンジに向かって、二人は合掌したのであった。

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