「夏ねぇ……」
窓に背をもたれてくつろいでいたアスカの言葉に、シンジはかたりとコップを落とした。
「なによぉ?」
「いや……」
シンジは布巾でこぼした茶を拭きながら答え返した。
「今……夏だったのかと思って」
「…………」
そういや今いつごろだったっけ? アスカもまた考えてはいけないことを考えた。
「そうだったそうだった、まだ三学期なんじゃない」
「そうだよ……」
「そんでもって進級に伴うクラス替えうんぬんって話だったのよね!」
「そうだね」
「すっかり忘れてたわ」
「……そのわりに勉強がきついんだけど」
すでにレイは轟沈している。
テーブルの下でガタガタぶるぶると震えながらうなされている。
「だって仕方ないじゃない……」
いじいじと指先をぶつけ合う。
「パパに頼まれちゃったしさ」
「パパ?」
「シンジのパパに」
「…………」
「なによぉ?」
ぷぅっとむくれる。
「シンジのパパならあたしのパパじゃない! パパって言っちゃだめなの?」
「そうじゃなくて」
真顔で返す。
「あれがパパって顔なのかと思うと」
「…………」
「大体みんな同じ反応すると思うよ?」
大概臆病なくせに、父親についてはやけに辛辣だなぁとアスカは思った。
(それとも自覚してないとこで鬱憤溜まってるのかな?)
真実がどうであったにせよ、捨てられたと思いこんで募らせてきた数年分の思いは消えるようなものではあるまい。
むしろ、だからこそ、行き場を失って渦巻いているのかもしれない。
アスカはふぅむと形の良い顎に手を当てて唸ったのであった。
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