なに?
これはなに?
あなた誰?
目の前にいる少年。
黒い髪の。
酷く頼りなげな男の子。
なにを…
言っているの?
ただもう一度会いたかったんだ…
綾波に。
ゴゥ!
風が吹いた。
ヒュンヒュンと電線が揺れる。
「あれ?」
青い髪の少女は、先程の少年を探してうろたえた。
「いない…、きゃあ!」
爆炎と爆風に驚く。
「な、なに!?」
ズゥン…
緑色の怪物が地を踏みしめる。
「あれって…、使徒!?」
ドガァン!
紫色の巨人がそれを押し倒した。
「エヴァ初号機、どうして!?」
キキィ!
うろたえる少女の前に青い車が割り込んだ。
「乗って!」
誘われるままに、彼女は慌てて乗り込んだ。
ブォオオン…
「そ、ちゃんと保護したからカートレ用意しといて」
なにやら携帯電話で連絡を取っている。
その女性を隣に見ながら、少女はポケットの中にあった写真を眺めていた。
そこには「ここに注目!」っとベッドに寝っ転がっている男の子が映っていた。
頬が何となく赤いのは、その注目が朝の生理を指しているからではないのだろうか?
「えっとレイちゃん?」
「あ、はい!」
「伏せて!」
「きゃああああああああああ!」
スピンターンと同時に押し倒される。
ゴォン!
今までを越える爆風に車が横転した。
なになになに!?
横倒しになった窓から外を見て絶句する。
「街が…、燃えてる」
レイは唖然とする他無かった。
「ごめんねぇ、恐い目に合わせちゃって…」
「…さっきのって」
べこべこの車でドライブを再開。
「あれがあたし達の敵よ?」
「…おじさんのお仕事、ですよね?」
「そう、国連直属の…」
「ネルフ」
「知ってるの?」
「この間までいましたから」
「そう…」
無言に戻る。
ガコン…
車が何かに固定された。
「…不安?」
「え…、はい」
「当然よねぇ、あんなことがあったんじゃ…、司令もどういうつもりなんだか」
「用が…、あるから呼んだんじゃないんですか?」
「乗りたくないのね?」
ゴォオオオオオ…
急に開けた空間に出た。
「凄い!」
目を丸くする。
「こんなに奇麗なジオフロント、初めて!」
そこは夕日で黄金色に染まっていた。
爆心地にエネルギー反応!
発令所が慌ただしくなる。
「碇君、指揮権はネルフに移った、お手並みを拝見させてもらおう」
「…そのためのネルフです」
言い放ったのは碇ゲンドウ、ネルフの司令だ。
「良いのか碇?、初号機は…」
「シンジに任せる、そのためのパイロットだ」
レイは不安になっていた。
ここって、どこ?
明らかに道に迷っている。
「葛城さぁん…」
「ミサトでいいわよ…、そんな情けない声出さないでくれる?」
「だってぇ…」
「大丈夫よ!、システムは利用するためにあるんだから」
…迷子で呼び出しって。
あまりにも情けなくなってしまった。
「では後を頼む…」
ゲンドウが発令所を去る。
「一ヶ月ぶりの再会か…」
白髪、初老の副司令は何か含みをもって見送った。
「酷い!」
アンビリカルブリッジでレイはミサト、それとリツコと言う女性に噛みついていた。
初号機の装甲が急ぎ交換されている。
「シンちゃん!」
初号機の首元に少年がうずくまっていた。
はぁはぁと息が荒い、救護班が酸素マスクをあてがっている。
「久しぶりだな、レイ」
「おじさん!」
ゲンドウが見下ろしている。
「何故ここに居る…」
「何故って…、だって初号機を出してたから!」
「零号機は封印中だ、葛城君、レイをシェルターに…」
「わたしが初号機で出ます!」
レイが叫んだ、踵を返しかけていたゲンドウが踏みとどまる。
「…本気か?」
「元はわたしがパイロットでした、だから!」
「わかった…」
ゲンドウが諦めたようにリツコを見る。
「初号機の書き換えを急げ…」
シンジが運ばれていく。
シンちゃん…
レイは恐さを押さえ込んだ。
ミサトはレイを送ってから発令所へと顔を出した。
「状況は!?」
「初号機、パルス逆流!」
「なんですって!?」
初号機の顔面に光の剣が突き立てられる。
きゃあああああああああ!
レイの絶叫。
「レイちゃん!」
「初号機、活動を停止!」
「いかん、プラグ強制射出だ、パイロットの生命を最優先に!」
「だめです、信号、受け付けません!」
「なんだと!、碇!?」
無言だが、ゲンドウの口元が怒りに歪んだ。
頭痛が走った。
守る?
わたしを?
なぜ?
これは何?
綾波ぃ!
シンちゃん?
自分には…、何も無いなんて言うなよ。
これはなに?
笑えば、良いと思うよ?
あなた、誰?
シンちゃん?
人の気配を感じてしまう。
真っ白な世界でレイは誰かに尋ねていた。
誰か居るの?、この先に。
それは頼りなげな男の子だった。
シンちゃん?、いいえ…
両腕を広げる。
碇君…
抱きしめた。
カッ!
初号機の瞳に光が宿る。
ガコン…
グゥオオ…
「エヴァ、再起動!」
「額部ジョイント破損!」
屈伸の後、初号機が猿のように飛び跳ねた。
ドォン!
敵に対して飛び掛かる。
ガァン!
金色の壁に叩き落とされた。
「ATフィールド!?」
「ダメだわ、ATフィールドがある限り…」
「初号機、破損部を復元!」
「ええ!?」
「ATフィールドを展開、異相空間を中和していきます」
「いいえ、侵食しているんだわ…」
貫かれた仮面の奥で、緑色の瞳が蘇る。
フォオオオオオオオオオオオオオ!
怪物の仮面、その目に指を突き入れつかむ。
引き倒しながら背骨を折った。
ブシャァ!
紫色の血がばらまかれる。
「レイちゃん!」
答えは返らない、初号機は止まらない。
怪物、使徒の腕をもぎ取り、肉を裂き、皮を剥ぎ…
それでも攻撃をやめようとしない。
「これがエヴァの…」
「本当の姿」
「うっ!」
オペレーターの娘が吐き戻す。
フォオオオオオオオオン…
もう一度だけ雄叫びを上げ、ようやく初号機は活動を停止した。
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