「シンジ君、気がついたそうよ?」
街のほとんどが立ち入り禁止区域となっている。
慌てて洗浄が行われていた。
「精神汚染の可能性は大、ただし深層意識下だから表層での自覚はなし」
「それでもエヴァに乗るのね、あの子は…」
ミサトは辛げに呟いた。
「レイちゃんは?」
「そっちは心の問題ね…」
「初陣に続いて…、ですもんね」
「あの子、壊れなきゃいいけど」
リツコもまた冴えなかった。
「あれ?」
レイはキョトンと見回した。
「ここ、どこ?」
覚えが無い。
「えっと…」
服も着替えさせられている。
「病院…、なのかな?」
レイはドアから廊下に出て見た。
ジオフロント…
窓からの景色には天井がある。
診療台が移動されて来た。
「シンちゃん!」
驚いてかぶりつく。
移動に合わせて歩きながら話しかける。
「シンちゃん、シンちゃん!」
しかし返事は無い。
ただじっと天井を見上げていた。
「レイちゃんごめんねぇ、昨日の戦闘でホテル壊れちゃって…」
ミサトがぺこぺこしながら着いていく。
「あ、おじさん!」
ゲッ…
エレベーターの先客に、ミサトは逃げ出そうかと本気で思った。
「…そうか、ホテルが」
「はい、受入先については」
「わたしの家にすればいい」
「え!?、で、でも…」
「部屋は空いている、ただ今日はシンジに着いていてやらねばならん、葛城君」
「はい!」
「頼めるかね?」
「今日一日くらいでしたら…」
「そうか、すまんな」
くわああああああ!
司令に頭を下げられて、ミサトは全身を掻きむしった。
ブウウウウウン…
そんなこんなで車で帰宅途中の二人。
「あの…、ご迷惑ですか?」
「え?」
「だって、一日くらいならって…」
「ああ、違うのよ、もう一人居候が居てね?、彼女と仲悪かったでしょ?」
「…ひょっとして」
「そ、セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーよ?」
げぇ!
レイは思いっきり引きまくった。
「何であんたがここに居るのよ!」
「…あなたには言われたくない!」
「なんですってぇ!、あんたがミスったおかげで、あたしの弐号機は壊れちゃったのよ!?」
「ふんっだ、嫌い、大っ嫌い!」
むむむむむっと睨み合う。
「仲良いわねぇ…」
「「なんでこんな奴と!」」
完璧なユニゾンを見せる。
同い年同士なのだが、なぜだか反発力が半端ではない。
「おかげでデビュー戦無茶苦茶だったのよ!?、シンジは?」
「無事…、とは言いがたいわね?、脳外科送りよ?」
「またぁ!?」
「エヴァに取り憑かれてるみたいね?」
「シンちゃん…」
「あらぁ〜、心配ぃ?」
ニヤリとミサトの表情が歪む。
「まあ愛しのシンジ君だもんねぇ?、あの台詞、録画してあったの見せてもらったわよ?」
「ちょっと、セリフって何よ?」
「レイは僕が守る!、だって」
「あのバカ…」
ヒクヒクと引きつるアスカ。
「あらアスカ?、悔しいの?」
「誰がよ!」
「ミサトさん、やめてよぉ…」
「あたしもドイツから来たばっかりで驚いたわぁ?、司令もシンちゃんも事ある毎に「レイがどうした」とか、「こうした」とか言ってるんだもん」
ピンッと一本指を立てる。
「世界で最初に見つかったファーストチルドレン、それがどんな女の子かって思ってね?」
「シンちゃんが…」
両手で頬を挟んで恥じらいまくる。
「しかもセカンドチルドレンがこれでしょう?」
「ちょっと、これってどういう意味よ!」
「見たまんまよ、それよりいいの?」
「何がよ!」
「準備!、出発明日でしょ?」
「え?、出発って?」
レイが怪訝そうな表情を見せる。
「ドイツよ!、あんたのせいで向こう送りになった弐号機の最終調整で、戻らなきゃいけないの!」
「そうなんだ!」
にこぱっと急に明るい表情を見せる。
「…嬉しそうね?」
「うん!、これでシンちゃんと…」
「シンジと何よ!」
「えっと…」
視線を漂わせる。
「まあいいじゃない、それに明日からはオフィシャルにシンちゃんとくっつけるんだし」
「ミサト!」
「司令がね?、レイちゃんを引き取って暮らすんですって」
「え?」
アスカは急に溜飲を下げた。
「…あんた達、知らないの?」
「なぁにアスカ?」
「シンちゃんのこと何か知ってるの?」
アスカはふぅと溜め息を吐いた。
「どうせすぐに分かるわよ」
レイとミサトは「?」と目線をかわした。
知らない天井…、当たり前かな?
レイは自分の手のひらをじっと見た。
思い出すのは…、初めてあれに乗った日のこと。
レイは初めて発令所に連れられて来た。
「初号機、出せ」
おじ様!?
見上げる。
「いいのか碇?」
「ああ、使徒に勝たねば我々に未来は無い」
「しかし記述とは違うぞ、順が…」
「使徒が周辺部を加速しています!」
「うわああああああああああああああああああ!」
レイの耳を男の子の声が打った。
「戻せ、早く!」
冬月が焦る。
レイは全身を強ばらせてしまっていた。
あんな子なの?
すごくおとなしそうな子だった。
SHINJI.I、碇シンジ?、いとこのシンちゃん!?
その鼻と耳からは血が流れ出ている。
モニターに映っている苦しそうな姿に脅える。
「敵はどうだ?」
「現在シールドにて穿孔中です」
「MAGIは?」
「大出力エネルギーによる攻撃を提案」
「しかしパイロットが居ないぞ…」
頭を傷める冬月。
「シンジがやられたですって!?」
誰?
髪の赤い女の子だ。
「だから弐号機で行かせてって言ったのに!」
あんた誰よ?
そんな視線を向けられた。
「レイ」
「あ、はい!」
ゲンドウが戻って来た。
「すまん」
「え…」
「エヴァに乗ってくれ」
「えええええ!?」
「ちょっと司令!」
アスカが叫ぶ。
「座っていてくれればいい、起動さえすれば後はコンピューターがやってくれる」
「砲首に使う気か?」
「そうだ、弐号機はバックアップを」
「嫌よそんなの!」
「…レイ」
ビクッとレイは震え上がった。
「…あれはお前にしか動かせん」
そう言われても、恐くて首をプルプル振るぐらいにしか動けない。
「そうか…」
ゲンドウは諦めの表情を作った。
「赤木君」
「はい」
「シンジは?」
「半日もあれば、なんとか…」
「それで良い、盾代わりに使う、弐号機は砲首を担当…」
「無茶よ!、あたし一人でやるわ!」
「レイちゃん…」
リツコが優しく語りかける。
「いま案内させるわ?、避難していなさい」
「で、でも!」
「邪魔なのよ」
アスカの一言にムッとした。
「そ、そういう言い方って!」
「死にたくないんでしょ?、なら隠れてればいいわよ」
アスカのもの言いとシンジの様子が合わさって見える。
「あなたは…」
「死にたくないから戦ってるのよ!」
ぐっとレイは唇を噛んだ。
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