双子山決戦。
レイの零号機がポジトロンスナイパーライフルを発砲、その際の反撃を弐号機が受け止め大破。
アスカ、シンジに続いて病院送り、レイは姿を消す。
「そりゃ恐くもなるでしょうね…」
「ああ、保安部が諜報部と組んでガードしている」
「戻って来るでしょうか?」
「こない方がレイのためだ」
ゲンドウは密かに安堵していた。
レイは無目的に第三新東京市をうろついていた。
その果てに辿り着いたのがこの山だった。
「…警報、使徒なの?」
身をていしたアスカ、そして死にかけてもまだ乗ると言うシンジ。
レイはどうしてもそんな二人の心を理解できないでいた。
「あれが使徒なんだ…」
ゆっくりと近寄って来る。
「初号機、シンジ君!?」
ほんとに出たの!?
あまりにも劣勢に見える。
「全治一ヶ月って、まだ全然治ってなかったのに!」
きゃあああああああああああああ!
レイに向かって飛ばされて来た。
「あ、ああ、ああ…」
へなへなペタンと座り込む。
ガシュン…
敵の攻撃を受け止めたまま、初号機のプラグが排出された。
「綾波さん、乗って!」
シンちゃん!?
慌てて初号機に這い昇る。
中に入ると苦痛に堪えているシンジが居た。
『シンクロは?』
『パルス異状無し!』
『元々波形パターンの似ている二人ですもの、そうでなかったら乗せなさいなんて言わないわよ』
リツコの言い訳が聞こえて来る。
「シンちゃん…」
不安げに声を掛けるが、シンジはまるで聞いていない。
「うわ、うわ…、うわああああああああああああ!」
シンジが恐怖に脅えて特攻をかけた。
「きゃああああああああああああ!」
巨大な使徒の姿が大写しになる。
恐怖に目を見開くレイ。
それでもシンジは攻撃をやめない。
ナイフをコアへ突き立てる。
バキン…
ナイフが折れた、同時にコアも光を失う。
はぁ、はぁ、はぁ…
まだシンジの呼吸は荒い。
「シンちゃん…」
「大丈夫…、大丈夫だから…」
シンジは必死にくり返していた。
二人は外に出て、回収作業を眺めていた。
「…シンちゃん」
「なに?」
「どうして…、こんなのに乗るの?」
二人とも大きなタオルを羽織っている。
「…僕にしか、できない事だから」
「そう?」
ドキッと、レイは胸を高鳴らせた。
凄く優しい瞳、どうして?
ドキドキと鼓動が早くなる。
頬が赤くなるのもわかってしまう。
「大丈夫だよ…、綾波は、僕が守るから」
シンちゃん…
幼い頃に一・二度しか顔を合わせた覚えは無い。
それも親戚の集まりの場でのことで、ここまで言ってもらえる理由も無かった。
なのに、どうして?
レイはただシンジに見惚れてしまっていた。
そっか…
レイは思い出した。
すっと部屋の戸が開く。
「レイちゃん…、言い忘れてたけど、あなたが無理をすることは無いわ?、辛いなら、そう言ってね?」
そして戸が閉じられる。
シンジを好きになった翌日、レイは一旦預けられていた家に戻った。
ゲンドウは実戦に出すつもりでは無かったらしい、それはわかった、苦し紛れだったのも。
ミサトは言う。
「あたしは段取りを、リツコが準備を、司令が後始末を、でもね?、戦うのはシンジ君たちでないとできない事なのよ…」
任せるしかないというのだ、子供に。
「どうして子供でないと動かせないのかしらね?」
悔しそうだった。
一瞬、なにかのビジョンが見えた。
シンジが居て、いつもおどおどとしていた。
ゲンドウはとても優しかった。
シンジはそんな二人に嫉妬していて…
碇君…、なの?
記憶とはまた違う、覚えの無いシーンが蘇る。
「碇君は…、わたしが守るもの」
そう言った時には、先程までのおちゃらけた感じが消えていた。
翌日、学校。
「綾波、レイです」
おおっ、っとどよめきが巻き起こる。
「一番後ろの窓際の方、碇君の隣に座ってもらえますか?」
「はぁい」
レイはとてとてと歩み寄った。
「シンちゃん、よろしくね?」
「あ、うん…」
何人かがその馴れ馴れしさに殺気立つ。
「怪我、もういいの?」
「大した怪我はしてないから…、綾波こそ」
「うん!、もう元気だから」
そう言って力こぶを作って見せる。
「そうなんだ」
シンジはほっとしたように小さく笑った。
休み時間に入って、レイは皆に囲まれていた。
「綾波さんって、碇君の親戚なんだ?」
「うん」
「碇ぃ、お前って奴は!」
「そうだぞ、惣流さんだけじゃ飽きたらず!」
シンジは慌てて否定する。
「違うよ、誤解だよ!」
「惣流さんが可哀想!」
「だ、だってアスカは僕のこと嫌ってるじゃないか…」
「碇ぃ…」
「本気かぁ?」
「いつもエヴァから降りろって、役立たずって叱られてるしね?」
「ごめんね?、シンちゃん…」
「え?」
「綾波さんがどうして謝るの?」
皆不思議そうにレイを見る。
「ん…、だってあたしがちゃんとしてれば、シンちゃんが無理すること無かったし」
「怪我ぁ?」
「あたしもパイロットなの」
「「「えええー!」」」
驚きの声が広がる。
「そ、そうなの!?」
「そうなんだ!?」
「生体パターンが似通ってる方がいいって、だから親戚のシンちゃんの代わりにって…」
レイはシンジの手をギュッと握った。
「でもね?、その分ちゃんとお返しするからね!」
「え?」
「今日からずっと一緒にいるから!」
「「「おおおおお!」」」
いやぁん☆っとみんなが引いていく。
「い、一緒って…」
「あれ、聞いてない?」
「なにがさ…」
「わたしおじさまに「うちに来なさい」って誘ってもらったの!」
「碇っ!」
「てめぇ!」
だがシンジは胸をなで下ろした。
「なんだ、そっか…」
「シンちゃん?」
「僕は一緒じゃないよ、それ」
「え…」
「僕一人で暮らしてるから」
「えええええー!?」
今度はレイが残念そうにしょぼくれてしまう番だった。
「よく乗ってくれる気になりましたね?」
弟子のマヤが師匠のリツコに気軽に尋ねる。
「シンジ君に無理ばかりさせられないって、良い子ね?、ほんとに…」
ちらりと横を見ると、複雑そうなシンジが居る。
「それじゃあ、説明は終わるわ?、続いて射撃の練習よ?」
『はい』
目標をセンターに入れて…
『きゃあああああああああああああ!』
思わずこめかみを押さえるリツコ。
「言いたくないけど…、ほんとシンジ君だけが頼りだわ」
はははっと、シンジも乾いた笑いを漏らしていた。
「う〜、なにも震動まで再現しなくてもいいのに」
「実戦じゃそんな事も言ってられないよ?」
「どうして?」
「身長60メートルの巨人が歩くんだよ?、足を上げて下ろすだけで、何メートルの振幅になると思ってるのさ?」
あううっと青ざめる。
二人は自販機コーナーの前でくつろいでいた。
「でも変な感じ…」
「なにがさ?」
「だって…、どうしてわたしがファーストチルドレンなの?」
「あ…」
「シンちゃんの方が先に乗ってるのに」
「見つかったのは…、綾波が最初なんだよ」
「え?」
「覚えてないかもしれないけど、綾波が最初の起動に成功したんだ」
「えええええ!?」
「僕は生体パターンが似てるからって、予備として選出されたんだよ…」
「じゃあシンちゃんって!」
「で、でも無理矢理乗せられてるわけじゃないからね?」
「でもわたしの身代わりに…」
「だからね?、あの…」
「シンちゃん、うれしい!」
「うわぁ!」
「あなた達…」
「フケツ…」
こめかみを引くつかせている二人がいた。
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