二人で使徒の処理場へ見学に来た。
 立て続けの使徒の襲来に、まるで処分が追い付いていないのだ。
「これが敵?」
「そうだよ…」
「使徒…、神の使い、わたしとシンちゃんを繋いでくれる天使様」
「やめてよそういうの…」
 腕を組んでラブラブモードの二人をミサトがケッと覗き見ている。
「わぁかいってのはいいやねぇ?」
「なに、もう敗北宣言?」
「あんたはどうなのよ!」
「誰もいなかったら加持君にでも泣き付くわ」
 含んだコーヒーにむせかえるミサト。
「あ、あ、あ、あんたねぇ!」
「冗談よ」
「もう!、それで何か分かったの?」
「分析は後、今は情報を集めるだけよ…」
 レイがピクッと振り返った。
 そこには偉い人と一緒に歩いて来るゲンドウがいる。
「おじ様!」
「レイ、もういいのか?」
「はい!、シンちゃんがいますから!」
 そのシンジは真剣な表情を作っている。
「シンジ…」
「大丈夫、大丈夫だよ、まだ」
「そうか…」
 それだけでやり取りが終わる。
「シンちゃん?」
「なに?」
「おじ様、火傷してるみたいだけど、どうしたの?」
「あ、うん…」
 じっとその手のひらを見つめる。
「…綾波が最初にシンクロしたって、言ったよね?」
「うん…」
「その時零号機が暴走してね?」
「え!?」
「父さんが無理矢理ハッチをこじ開けて、綾波を助け出したんだよ」
「おじ様が…」
 驚きをもって火傷を見る。
「あ、シンちゃん!」
 声もかけずに帰ろうとするので慌ててしまった。
「もう!、どうして避けようとするの!?」
「そういうつもりじゃ…」
 守るとまで言い切るほどだから、嫌われていないと言う確証があるのだ。
 でもシンちゃん、避けようってするんだもん…
 それがとても不満でたまらない。
 かっこよかったのにぃ!
 まるで告白してもらえたようで。
 シンちゃん…
 その姿に、レイの知っているもう一人の碇シンジが重なって見える。
 あの内罰的な少年ではない、だがどこか思い詰めた物が見える。
 わかんないよぉ…
 レイにはその正体が見えなかった。


 見えない物は実力で排除!
 レイはふんっと気合いを入れた。
 シンちゃん、今ここに住んでるんだ…
 それはレイが今のレイになる以前に住んでいたマンションだった。
 カチッ…
 うっ、やっぱり壊れてる。
 インターホンは無駄だった。
 鍵も壊れてるのよね、ついでに。
 勝手知ったると言った感じでドアを開ける。
「シンちゃあん、愛しのレイちゃんが…、ふわ!?」
「うわぁ!」
 そこにはシンジが素っ裸で腰に手を当て、牛乳をごくごくと親父臭く飲む姿がありました。


「うう…、あんなの見ちゃったらお嫁に行けない…」
「あんなのって、酷いや」
 泣きたいのはシンジだろう、吹きこぼしてしまった牛乳を一生懸命拭いている。
「けど…、この部屋」
 以前のレイにそっくりだ。
 血の包帯までもが。
「シンちゃん、料理できたよね?」
「え?」
「だってよく葛城三佐に作って…」
 口が滑ってハッとする。
「ご、ごめん、何言ってんのかな?、あたし…」
 たははっと頭を掻くが、それ以上にシンジが呆然と目を見開いている。
「綾波?」
「え?」
「いま…」
「あ、あの、元気無かったから心配だったの、じゃね!」
 慌ててバタバタと逃げ出していく。
 出口でふと思い出したように振り返った。
「ご馳走様でした!」
 なにが?、っと思ってから考えて、シンジは思いっきりゆで上がった。


 綾波、僕が料理できるってどうして知ってたんだろう?
 ジッとプールを見つめている。
 それにミサトさんのこと、三佐って言ってた。
「シンちゃ〜ん!」
「お、碇ぃ、なに愛を確かめおうとんねん?」
「そ、そんなんじゃあ…」
「さっき思いっきり言いふらしてたぞ?、お前の部屋に行ったって」
「勝手に来ただけだよ、別に呼んだわけじゃ…」
「ああん?、ほななんで見とったんや?」
「うん…」
 浮かない顔をレイへと向ける。
「綾波って、誰とでも仲いいんだなぁと思って…」
「かぁああああ!、男の嫉妬はみっともないでぇ!」
 じゃあこれはなんなんだよう!
 袋叩きにされるシンジであった。


「シンちゃん」
「ん、なに?」
「今日ね?、おじ様帰って来ないって、だからね?、晩ご飯作って欲しいの」
「え?、綾波は?」
「えへ〜、実はなんにも作れないの」
 何気ない従兄弟同士の会話なのだが、もちろん一部の人間には…
校則違反よぉ!
 ということになるらしかった。


「ふぅ!、ご馳走様!」
 まるで生まれたばかりの子猫のように、満腹でお腹をポンポコにしてしまっている。
「でもシンちゃん、お肉って全然使わないのね?」
「え?」
「シンちゃんってベジタリアン?」
「綾波…、お肉は大丈夫なの?」
「ん?、わたしは結構好きかな…、どうして?」
「な、なに?」
「ううん、ずっと思ってたの、どうしてシンちゃん、わたしのことに詳しいの?」
「ど、どうしてって、それは…」
 シンジの目が泳いでいる。
『ただもう一度会いたかったんだ』
 レイのレイらしくない言葉づかい。
「あ、綾波!?」
 やっぱり…
 レイは確信を手に入れた。
「もしかしてって…、思った、けど、やっぱり、『碇くん』?」
 愕然と自失に陥る。
「ど、どうして…」
「やあっぱり!、シンちゃんもその記憶、あるんだ!」
 シンジはへたっと座り込んだ。
「ぼ、僕だけだと思ってたのに…」
「でも…、どうして?」
「え…」
「どうして?、わたしは人間じゃなかったはずなのに…、人なの?」
 自分のことに戸惑ってしまっているらしい。
「だ、だって…、綾波は綾波じゃないか」
「え…」
「ずっと…、引っ掛かってたんだ」
 碇君とひとつになりたい…
 だから、ダメ。
「カヲル君も、そうだった…」
 好意に値するよ。
 さあ消してくれ。
「それって自分の想いだよね?、心じゃないか、なら生きてるってことなのに、じゃあ、綾波は、何を望んでたのかなって、そう思って…」
「だから?」
「会えるなら、みんなに会いたいと思ったんだ」
「だから、わたしが…」
「うん、僕達の知ってる世界とは凄く違って来ちゃってるけど…、綾波には、今度は普通に…」
 レイに抱きつかれ、シンジは言葉を無くしてしまった。
「あ、綾波!?」
「…人間って、いいね?」
「え?」
「こんなに簡単に、気持ちを伝えられるから…」
「…うん」
 シンジはそっと抱き返した。
「サードインパクトなんていらないわ?」
「うん、今度は僕の番だから」
「うん」
「綾波は死なせないよ、僕が守るから」
「うん」
 それから二人は、お互い持っている情報を交換し合った。


「それが、補完計画?」
「そう、結局はみんな一度は思った事があるような安直な苦しみから逃避しようって計画」
「そんな言い方って…」
「でも事実よ?、みんなが深刻過ぎるだけで」
「そっか…」
「さっきみたいに抱き合っちゃうだけでいいのにね?」
 シンジは赤くなって咳払いした。
「…ね?、この世界にあたしのお父さんとお母さんって居るの?」
「…居ないんだ」
「え?、どうして…」
「セカンドインパクト、アダムをロンギヌスの槍で還元したんだっけ?」
「そうよ?」
「で、ジオフロントでリリスが見つかった」
「ええ」
「母さんは僕の目の前で消えた」
「……」
「あ、ごめん、いいんだ、その時にはもう前の記憶持ってたし」
「え?」
「だから父さんが冷たくても、できるだけ仲良くしようって頑張ったんだ」
「そう…」
「だからその後…、父さんがエヴァから人間を作った時にね?」
「え!?」
「ほぼ情報体は同じだもの、すこしいじるだけで人間になったんだよ、それでさ、多分綾波は親戚の集まりだと思ってたと思うけど、ゲヒルンの忘年会に僕も連れていってもらったんだ」
「じゃあ!?」
「そのすぐ後に綾波は零号機を動かしたんだ、結果は暴走、綾波は記憶の混乱を起こしてその事を忘れた、それでみんなどうするかで悩んでたから僕じゃダメかなって切り出して…、上手くいく可能性は大きかったからね?」
「そうなんだ…、シンちゃん、ずっとあたしの代わりに」
 うるうると目が潤んでいる。
「あ、そ、それだけじゃないんだよ?、ホントはアスカにも楽させてあげたかったんだけど」
 ぶうっとむくれた。
「あ、はは…、ごめん、結局気持ちが空回りしちゃって、ポカばっかりでさ?」
「でも…」
「え?」
「これからは…、わたしも、碇君を守るから」
「綾波?」
 もう一度抱きつかれた、シンジも迷うことなく抱き返す。
「今度はもう一度…、なんて思わなくなるくらい、側に居るから」
「うん…」
 ありがとう。
 誰か一人だけでも自分の考えていることを分かってくれていれば…
 それだけでこれ程気が楽になるのだと、シンジは改めてほっとしていた。



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