「シンちゃん、かえろー!」
「ほんま、鬼の居ぬ間にっちゅうやっちゃなぁ」
「惣流に言いつけてやる」
 シンジは泣き笑いの表情で周囲の嫉妬に耐えるしか無かった。


「参号機、ですか?」
「そ、弐号機と専属パイロットが不在でしょ?、その補充としてフォースチルドレンと一緒に届くのよ」
 フォースチルドレン!?
 シンジはミサトに気付かれないよう、レイと視線をかわそうとした。
「わー、戦艦が一杯!」
 しかしレイはヘリの外の光景にご執心のようだった。


「ふふふですぅ」
 その戦艦とひとまとめにされた空母の上で、淡いブルーのスカートを広げる少女が居た。
「こーこーで、このわたしに出番が回って来よう事を、一体誰が想像しえましたでしょうかぁ?」
「ミズホちゃんなにやってんだ?」
「いーえいえ、こちらの話しですぅ」
 アメリカからの輸入品と言えば爆弾娘で決まりだろう。
 降り立ったヘリから女性が一人と子供が二人、姿を見せた。
「よぉ、かーつらぎぃ!」
「げっ、加持!」
「あああ、あなたが碇さ…、ふきゃう!」
 風でスカートがブワッと広がった。
 慌てて押さえてぺたっとしゃがむ。
「ふえ…、ふえええええーん!」
「ちょ、ちょっと!」
「もうお嫁にいけませーん!」
 どこかで言われたよな、そのセリフ。
 シンジは慌ててなだめすかした。


「これはこれは、ボーイスカウトの引率のお姉さんかと思いましたよ」
 そりゃ怒りたくもなるよねぇ…
 レイは達観モードに入っていた。
「ううううう…」
「だから僕は見てないから、ね?、ホントだよ」
「今晩どう?、結構いけるんだぜ?、ここのディナー」
 誰も艦長の話を聞いていなかった。


「どう?、フォースチルドレンは?」
「疲れました…」
 本当にげっそりとやつれている。
「着いた早々おいしいもの見ちゃって、よかったね?」
「なんだよ、嫌な言い方してさ?」
「ん〜ん?、べっつにぃ、鼻の下伸ばしちゃってやーらしぃんだから」
「そ、そんな事言うなよなぁ!」
「あ〜、否定しないんだっ、シンちゃんのエッチぃ!」
 その頃ミズホはと言えば。
「これはもうお嫁さんになるしか!」
 参号機の上で自己補完中。
 実によくわかる性格をしている。
 ごぉん!
「ふえ?、ふええええええええええええええ!」
 どっぱぁん!
 水中衝撃波に落水。


「使徒!?」
「エヴァ参号機、起動中!」
「正気か!?、戻せ!」
「ダメです、こちらへ来ます!」
「なんだと?」
『たあああああああすけて、くださぁああああああああああああああい!』
「うわあああああああああああ!」
 どがぁん!
『うっきゅっきゅう☆』
「ばかぁ!、艦橋に膝蹴りかましてどうするのぉ!」
『ふええっ、ごめんなさぁい!』
「シンジ君…、頼むわ」
「はぁ…、仕方ありませんねぇ」
「ミズホちゃんエントリープラグを出して」
『ふえ?』
「サポーターを入れるから」
『はいですぅ』
 電源ソケットの準備を平行して進めていく。


「ふえ?、あ、碇さん!」
「ごめん、お邪魔するよ?」
「ふええっ!、そんな男女七歳にして同衾せずと申しますぐらいで、ましてや若い二人が一つ水の中、はうっ、優しくお願いしますぅ〜」
『…シンちゃん?』
「誤解だよ!、僕なにもしてないよっ!」
「はうはうぅ…」
『護衛艦より入電!、原子炉暴走中!』
『こんな時にか!?』
「ちょっとごめん…」
「はうう!、そんなところにぃ!?」
 身を乗り出すシンジ。
「ミサトさん、パターン青の反応が二つあります」
『まさか使徒の同時強襲!?』
「戦艦が乗っ取られたみたいです、退艦を急がせて下さい」
『シンちゃんはどうするの!?』
「そっちの船で戦います、上手くいけば使徒二体を道連れに出来るから」
『シンちゃん、シンちゃん!』
「ミサトさん!、N爆弾の自爆、よろしくお願いします!」
 シンジは勝手に通信を切った。
 それから出来るだけ優しい表情を作って見せる。
「…ごめん」
「ふえ?」
「初めての実戦なのに、恐い目に合わせると思う」
「ふええ…」
 泣きそうになる。
「でも大丈夫だよ」
「え?」
「僕が、守るから」
 ミズホは一瞬、ぽぉっとなった。


「それじゃあ行くよ?、跳んで!」
「はいっ!」
 シンジの言う通りにソケットを付けたまま空に舞う。
 戦艦の艦橋にまたしても飛び蹴りを噛まして着艦。
 戦艦の中から白い粘菌がブシュッと漏れ出す。
「上出来だよ、使徒は!」
「来ますぅ、大きいですぅ、ふええええええええ!」
「受け止めるんだ!」
 シンジが身を乗り出しレバーを握った。
 うええええええええええええ!
 突然恥ずかしい所に覆い被さったシンジにパニくりまくる。
 ドガァン!
 激震、気がつけば使徒が大口を開けて戦艦を噛み折ろうとしている。
 参号機は無理矢理その牙をつかんでこじ開けていた。
「爆発が起こる、ATフィールドを全開にするんだ!」
「は、はいですぅ!、口ですぅ!、お口ですぅ!」
 分かってるんだか分かっていないんだか良く分からない返事の後に、大きな爆発が太平洋に大波を起こした。


 水中に落ちた参号機はケーブルで引き上げられた。
「水の中に落ちたのが良かったかしらね?」
 核燃料による放射能はほとんど検知されなかった。
「…ATフィールドのおかげかも、あっ、シンちゃ…、ん」
 エントリープラグから必死に逃げようとするシンジの姿。
「離して、離してよぉ!」
「だめですぅ!、もうあんなことをされてしまっては、わたしシンジ様のお嫁さんになるしか!」
 腰にミズホが抱きついている。
 あ〜あ、シンちゃんも大変ねぇ…
 陽射しはとても暑いのに、レイの周りに吹雪が見えたミサトであった。


「よぉ、シンジぃ!」
「またパイロットが来たんだって?」
 クラスメートの声に立ち止まる。
「相変わらず情報早いね?」
「んで、何処に居るんだよ?」
「信濃さんなら…」
 歩道橋の上から下を見下ろす。
 跳ねるリボンとポニーテール。
 ミズホはスキップして登校していた。


「信濃ミズホですぅ」
「ミズホちゃん!、お友達に…」
「え〜?、でもでもぉ、やっぱりシンジ様のご許可を頂かない事には…」
 あああああ…
 頭を抱える果報者。
「碇ぃ…」
「お前!」
「ち、違うよ、誤解だよ!」
「シンジ様はぁ、わたしをお守り下さると誓って下さいましたぁ!」
「「「きゃあああああああ!」」」
「シンちゃん!」
「だ、だからね!?」
「酷い!、一生大事にしてくれるって言ったくせに!」
「そ、そこまでは言ってないよ!」
「碇君最低〜」
「うわあああああああああああん!」
 泣きながら逃げ出していくシンジであった。


「きゃっ!」
 キーを叩いてリツコは、背後から抱きしめられて少し焦った。
「少し痩せたかな?」
「太ったわ?」
「そう?」
「あなたの子供がお腹にいるもの」
「こいつは手厳しい」
 解放する。
「よっ、しばらく」
「意外と迂闊ね?、加持くんも」
「おいおい、リッちゃんとした覚えは無いぞ?」
「そっちじゃなくて、あの人がいつも見てくれてるって話しよ」
 監視カメラに冷や汗だだ漏れ。


「また君に借りを作る事になったな」
「またまた、どうせ返すつもりもないんでしょ?」
 加持、ゲンドウ、冬月による三者会談。
「それでこれが」
 先程のことについて言及されないかと汗だくだくの加持。
「アダム」
 硬化ベークライトで固められた姿にニヤリとする。
「それであちらの方は…」
 とりあえずさっさと話題を変える。
「葛城くんに赤木くん、それにレイが行く事になった」
「は?」
「どうしても巨大ロボットが見たいと言うのでな…」
 見事なユニゾンでこめかみを揉みほぐす三人。
「しかしそれでは…」
「計画は中止だ、シンジも同行させる、なんとかなる」
 ニヤリ。
 それは実に何かを含んだ顔だった。


「本日はJA完成記念祝賀会にお集まり頂き…」
 コポコポコポコポコポ…
「JAはどこぞの人権を無視した兵器とは…」
 ごくごくごくごくごく…
「ぷっはぁ、あ、そっちの…、青田興業?、知んないけどビール貰うわよ?」
「通常兵器が有効であることは、幸いにも実証されており…」
「持ち帰りはないのかしら?」
「これぐらいなら作りに行って上げますけど?」
「あら、助かるわね?」
「いいですよ、未来のお母さんのためですから」
「あ、ありがと…」
 赤くなるリツコ。
 ついに壇上の男がプッツンした。
「ひ、人を見下すのも今日限りにして…」
 すっとレイが立ち上がる。
「おやこれは某組織の決戦兵器のパイロットさんでしたかな?」
「はい」
「どうですか?、暴走した揚げ句に精神汚染を引き起こすような兵器と比べて」
 レイはキラキラと瞳を輝かせた。
「そんなことより!、それ動かすんでしょ?、ね?」
「あ、ああそれは…」
「じゃあ早く見せて!、もう今日はそれが楽しみで来たんだから!」
「レイ…、はしゃぎ過ぎだよ」
「だって巨大ロボットでしょ?、しかもやられ役って感じのあのデザイン!、もう動いた瞬間に何が起こるのか楽しみ!」
 …何かあったら殺されちゃうよ。
 結婚したら、この子も引き取る事になるのかしらね?
 シンジとリツコは、同時にはぁっと溜め息を吐いた。


 JA起動。
「歩いた!」
 レイが感嘆の声を上げる。
「ねえパンチは?、キックは?、ロケットパンチってないの?」
「ははは、お嬢ちゃん、そんな駆動系に無理の出るような攻撃は…」
「つまんないおもちゃ」
 いつもが明るいからではなく、時折見せるレイの冷たい無表情は、JA開発陣に太い刺を打ち込んだ。


 三分後。
「制御不能です!」
「バカな!、あらゆる状況を想定して…」
「ミサトさん、あれ!」
 JAの装甲全体に、回路図のような模様が浮かび上がる。
 ピルルルルル!
 ミサトの携帯が音を立てた。
「はい、はい、わかりました」
 毅然とうろたえる場を怒鳴り付ける。
「現時刻をもってJAを使徒と認定、ネルフはこれより殲滅に移りますので避難を開始して下さい」
「バカな!、そんなことが許されると思って…」
「あんなおもちゃと世界の運命、比べるまでもないわね」
「ふぅん、戦う相手に簡単に取られちゃうんだ、役に立たないね?、シンちゃん」
「殲滅ですか…、放射能は?」
「使徒殲滅後ベークライトで固めて封印、その後はそこの人達に責任をとって貰いましょう?」
「な、ふざけるな!」
「あら?、エヴァのせいで餓死者が出てるんでしょ?、ならJAの責任はあなた達が取るべきではなくて?」
 リツコは冷ややかに口を封じた。


「碇、JAが使徒に…」
「ああ」
「俺のシナリオには無いぞ、これは」
「何事にもイレギュラーは存在する、これで殲滅と言う口実も手に入った」
「それはなによりだな」


「えっとぉ、ぼてくりかまして止めればいいんですねぇ?」
「そうよぉん☆」
 この二人の作戦会議って、なんか恐いよな…
 シンジは頭を傷めている。
「僕は…」
「初号機はタンクと共に待機、敵殲滅と同時にタンク内のベークライトをぶっかけて」
「放射能の流出を無くすんですね?」
「そ、できるだけ速やかに頼むわね?」
 シンジはコクリと頷いた。


「それじゃあ…、スタート!」
 ミズホが突っ込む、シンジが追いかける。
「止まってくださぁい!」
 滑り込み。
「あ!」
 足を踏まれる。
「痛いですぅ!」
 しかししっかりと仕返しを敢行。
 ズム!っと股間部を蹴り上げた。
「痛そうぉ…」
 青くなるシンジ。
「大丈夫、シンちゃんのはあたしが守るもの」
 ポッと頬を染めるレイ。
 一瞬浮き上がるったJA、直後、暴走。
 のち、進行方向を強制変更されたJAは海に向かって邁進。
 太平洋沖に沈降。
 融解した炉心により洋上を汚染。
 前回の件と合わせ、ミズホはありがたく核爆弾娘との愛称をちょうだいする事になる。
「うう…、こんな名前が広がってしまっては、ますますシンジ様に貰って頂くしか」
「無様ね…、って良く考えたらシンジ君のお嫁さんって事はわたしの娘になってしまうじゃない」
「さりげないのろけね?」
「悪い?」
「それはアスカでも同じでしょ?」
「酷い話しね…」
「ほんとシンジ君って女運が悪いわね?」
「あなたも含めてね?」
「あんたもでしょうが?」
 ふふふふふっと無気味な笑い。
 実に空しいことでいがみ合う三十路シスターズであった。



[BACK][TOP][NEXT]