こいつ、どんどん図々しくなる…
「アスカ…」
 疲れてるのよ…
 でもわかってくれない…
「や、あ…」
 もう眠いの、喘いでんじゃないのよ…
 どうも通じなかったらしい。
 唇を塞がれた、シンイチにお乳を上げるためにブラはしてない。
 揉みしだかれて漏れた母乳がシャツを透けさせた。
 面倒なのでストッキングをしてなかった、だから生足をさすられた。
 ショーツを引き下げられた。
 差し込まれた。
「や、あ、ん…」
 最後に引き抜いて、あたしの顔と胸とお腹に熱い物が吹きかかる。
 荒い息づかい。
 垂れていくそれとあたしとを見るこいつの目が、誰かに似ていた。
 それからどんどんとエスカレートしていく。
「嫌…、ちょっと」
「大丈夫だよ、カメラは切ったから」
 今日はキッチン、流しの縁にあたしは手を突く。
「シンイチが見てる…」
「どうせわからないよ」
 背後から耳に息が吹きかかる、くすぐったくて首をすぼめると…
「や!」
 お尻を撫でていた手が、横から滑り込んであそこをなぞった。
 ああもう、まったく…
 シンイチの為に自分の時間が作れない、体のラインが崩れちゃうかもしれないけど、あたしはずぼらをして化粧っけを無くしていた。
 だからブラをしてない、ショーツも色気のない余裕のあるもの。
 それがこういういたずらを許しちゃうから、嫌な感じ…
 あたしの体を知ってる、唯一の他の男、アレフよりは嫌悪感は少ないわよ…
 だから一応感じてあげる、けど。
「や、ちょっと!」
 ビクビクと中で脈打った瞬間、あたしは日向さんを突き飛ばした。
 ドク…
 床に白い物が飛び散る。
 呆然と倒れている男に、あたしは急な嫌気を感じた。
「いたぁ…、酷いなぁ、なにも」
「なにも?、なにもなによ!、あんたいま何しようとしたのよ!」
 中で出そうとした、それが許せなかった。
「え?、だってさ…」
 あたしよりは歳食ってるから?、こういう部分に遠慮が無い。
「気持ちよくてさ、いいだろう?、アスカだって…」
 喜んでやってたんだから。
 そう?、そうかもしれない。
 でも嫌、絶対に嫌。
 疲れたから優しくしてもらいたかっただけ、それだけなのに…
 中で出されたら、それを許しちゃったら…
「あんたねぇ!、遊びでそんなことされたらたまんないわよ!」
「な!?」
 そう、遊びじゃなくなっちゃう。
 欲求と不満を晴らしたいだけで、その程度はアレフよりもシンジの子供が欲しいと願ったのと同じだった。
 あいつは嫌、でもこいつなら良い、その妥協点にいる人間だって事。
「遊びってなんだ!」
 最低な男…
 あたしはもう相手をしなかった。
「アスカ!」
 冷たく見下げて、シンイチを抱き上げる。
 何度か迷っていた、その迷いがこんな準備をさせていた。
「何処へ行くんだ!」
「シンジの所よ、決まってるじゃない」
 静かに捨て置いて、あたしは左手にバッグを、右手にシンイチを抱いて部屋を出た。


「で、また来たの?」
 シンジはあたしの話を聞いてくれた。
 バツの悪そうなあたしに、シンジは溜め息を吐く程度で責めはしない。
 そんな権利が無いって思ってるのかしら?
 何だか違うわね?、呆れてるみたい。
 昔と違ってこいつが何を考えてるのか分からない…
 その膝にはシンイチが居る、何かを感じるのか?、「だぁだ、だぁだ」と日向さんには求めもしなかった事をしてもらうために、シンジの指をつかんで一生懸命上下に振っていた。
「泊めてくれるわよね?」
 シンジって人間がわからない、でも不安は感じない、拒絶されてないからかもしれない。
「あのね?、ここ、一応国連監視の収容島なんだよ?」
 実はそれこそが大事な事。
「大丈夫よ、監査監に性的交渉を強要されるのはもう嫌だって逃げて来たから」
 ここなら監視も楽だと、そうなったのかもしれない。
 わりとあっさりと、入島の許可は下りてくれた。


 翌朝、いつかのようにどかどかと足音がした。
「アスカ!」
「…しつこいわねぇ?」
 彼女と赤ちゃんと僕は三人一つのベッドで眠っていた。
 初めて父と母、二人に抱かれるからか?、この子は良く眠ってた。
 …僕には父親だって意識はないけど。
「日向さんですか…」
「悪いな、シンジ君」
 その態度はアレフさんと良く似ていた。
「アスカ、戻るんだ」
「嫌よ」
「アスカ!」
「何様のつもりよ!」
 日向さんに付き添って来た人には見覚えがあった。
「…またですか?」
 苦笑で返された、ウォレフさんだった。
 赤ちゃんを抱いてベッドから出る。
 二人はまだ言い争ってるけど、僕は無視して幼児用ミルクの準備を始めた。
「あ、シンジ、あたしがやるわよ」
「しなくていい、君は今すぐ島を出ることになっている」
「なに勝手に決めてるのよ!」
「ここは勝手にしていい場所じゃない!」
 どっちにしてもいい迷惑だ…
「あの…、痴話喧嘩なら外でやってくれませんか?」
「だそうだ」
「シンジ!」
 彼女の泣きそうな声に溜め息が出てしまう。
「僕は何も言わないよ?」
「なんでよ!」
「アスカ」
 この名前、何年ぶりに口にしたんだろう?
「アスカは人形じゃないし物でも無い、セカンドチルドレンって人種でも無いし惣流・アスカ・ラングレーって記号でもないんだから、僕に頼らないでよ」
 意味が通じたか心配だったけど…
「シンジ君は君が邪魔だと言ってる」
 でも大丈夫、ちゃんと通じたみたいだ。
 アスカはそんな日向さんの頬を叩いた。
「情けない男ぉ…」
 心底軽蔑していた。
 アレフさん、日向さん、二人とも同じだ。
「結局、あたしを好きにしたいだけじゃない…」
 散々遊んだのかもしれない、いまさら他人の手に渡るのを惜しんでいるのだ。
 まだ手放したくないのだろう、どうしてみんな僕なんかに嫉妬するんだか…
「あたしは物じゃない!」
 ま、そうだよね。
 自分で考えて、自分で生きているんだから。
「あんたのもんじゃないわよ!」
 もう一発、しかしこれは日向さんの手にとめられた。
 あ…
 アスカの目が本気に変わった、僕には分かった。
 次の瞬間、つかませたままで体をコマの様に回し、アスカは日向さんの背中に回っていた。
 ゴキ…
 一瞬で無理な方向へ腕が曲がっていた。
 肩を外したのか…
 酷く冷静に眺めてしまったけど…、アスカ、そんなことまで出来るんだ。
 膝を突く日向さんに、アスカはさらに追い打ちを掛けるように後頭部を蹴った。
 ゴン!
 音を立てて転がる日向さん。
「なにもそこまでしなくても…」
「一年近く遊ばれたのよ?、あたしの弱みに付け込んでね!、訴えないだけマシだと思って欲しいわよ」
 ううっとうめき声が聞こえる、結構タフだな、気を失ってないのか…
「結局…、あんただけだったわね?、あたしを見ていてくれたのは…」
 アスカの、初めて見るような優しい眼差しを受け取った。
「そうかな?」
 僕も微笑み返す。
 なにも直接見る事だけがアスカだけを見る方法じゃないと思う。
 僕は女になったアスカ、料理を覚えたアスカ、母になったアスカ、そして今の自分を見付けたアスカを知ってきたし、今も知り続けている。
 そう知ることは視ることと同じだ。
 僕の知らないアスカを知ることで、僕は僕の中のアスカを補完する。
 だからアスカは自由でなくちゃいけない、僕の言葉に惑わされないで。
 僕は深く知りたかった、だから他人が不機嫌になったり、気まずくなるような事でも尋ねて来た。
 マナにムサシ達とのことを聞いたのも、そう思うようになってたからだ。
 尋ねる事は知ることに繋がる、そして知ることは見続けるからこそできることだ。
 側に居なくても、人づてに聞いたとしても、アスカを見ていた事に代わりは無い。
 そう、でも多分見始めたのはあのエヴァ再建の記事からだと思う。
 気がつけば僕は目でアスカを追っていた。
 アスカと言う記述を探していた。
「あ、ウォレフさん…」
 僕は困り顔で日向さんをかつぐ彼を呼び止めた。
「惣流さんは前のアレフさんの時にチルドレンからは除外されている、日向さんの行動は完全に職務上の立場を利用した…、まあそういうわけだから」
 お守というのも大変かもしれない。
 良く見れば日向さんには手錠がかけられていた。
 …いいのかな?、まあいいや。
「あー!、お湯が吹いちゃってるじゃない!」
 僕はそんなアスカを横目に見ながら端末を立ち上げた。
 アスカ宛?
 なぜが僕のアドレスに届いたメールには、アスカに幾つかの罪がかせられ、この島に投獄が決定したと書かれていた。


「あああ、あんたバカぁ!?」
 きょとんとマナが振り返った。
「え?」
 ああやっぱりな…、怒ると思ったんだよ、僕は。
「なにかおかしい、かな?」
「なにいきなり脱いでんのよ!、何か着なさいよ、ちゃんと!」
 あのアスカと対峙した浜辺。
 今日はマナにムサシ、ケイタも一緒だ。
 そこでマナはいきなり脱いだ。
 シャツを脱いで、ハーフパンツも一気にずり下ろした。
 そして波間に駆け出そうとした。
「え〜?、だって誰もいないしぃ…」
「いるでしょうが、ばかシンジっ、何でれでれしてんのよ!」
「し、してないって…」
「鼻の下が伸びてるわよ!」
「そんなことないよねぇ?、だっていっつもこうして泳いでるんだしぃ…」
 あ、それマズイ、マズイよマナ…
「なんですってぇ!?」
 僕は首を締められた。
「そうだ!、俺も前から言いたかったんだ!、お前だけ見てるなんてズルいぞ!?、と言うわけでアスカもここはパァー!っと」
「ムサシぃ?」
「あ、マナ、落ち着け!」
「どうせあたしは胸が小さいわよ!」
「あんなぺちゃぱいが良いっての?、あんたわぁ!」
 僕もムサシも好みがお互いの相手からずれてると思われてるみたいだった。
 おかげで良くこういう事になる。
「平和だねぇ…」
 ズルいよケイタ、一人だけのんびりするなんて…
 ケイタの腕には、すやすやと眠るシンイチ君が抱えられていた。



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