ドサ!
 まるで去年のように駅に降り立ちバッグを落とす。
 違いがあるとすれば、今度は一人ではない事だろう。
「ちょっとシンジ!、なにやってんのよ!?」
 やたらと大荷物なアスカ。
「なにをしとんのや?」
「うん…」
 シンジは未練たらしく、田んぼに視線を向けている。
「また見えたような気がして…」
 隣に立つセカンド。
「なに?」
「レイがだよ…」
 セカンドを押しのけるサード。
「わたし?」
「去年…、この駅に着いた時に見えた気がしたんだ」
「「そう…」」
 同時に頬を染めるレイ達。
「あの辺りにレイが居たような気がしたんだよね?」
 適当な辺りを指差す。
「本当に会ったのはその晩だったんだけど…、あの時も驚いたな、空からレイが降って来てさ?」
「へえ?」
 興味を惹かれるアスカ。
「そう言えば、その辺の話って聞いたことが無かったわね?」
「今度話すよ…」
 振り返る。
 アスカ、レイ・セカンド・サード、トウジにカヲルがいる。
「それで?、ここからはどうするんだい?」
 カヲルの問いに、つい苦笑が浮かんでしまった。
「去年と同じ、ミサトさん待ち」
 こうして今年の夏は始まった。



 EVARION THE AFTER 
 SECOND SEASON  第壱話 Pro-loguecity in the sky〜 



「誰だよもう…、待ち切れないから湖で遊ぼうって言ったのは…」
 ぶちぶちと両手にトランクを下げて愚痴を漏らす。
「うっさいわねぇ…、道間違えたのはあんたでしょうが!」
 先頭を歩いていたアスカはスカートを翻し振り向いた。
「アスカが近道しようって言い出したから…」
「いざとなったらエヴァテクターもあるしって、あんたも納得したでしょう!?」
「ホントは強引に押し切ったくせに」
「なんか言った!」
「いいえ!」
 押し切られた弱みもあって、愚痴しか言えない。
 前と同じ、峠道を歩いていく。
 それはもう、てくてくと。
 湖から流れ出す川と、落石防止のための石垣に挟まれ、みんなで道路の真ん中を歩いていた。
「やっぱ手伝ったろか?」
 シンジの横へとトウジが並ぶ。
 風は涼しいのだがトランクの重さがシンジの運動量を増していた。
「結構重いよ?」
「シンジ、なにやってんのよ!」
 あんたばかぁ?っと、いつものセリフ。
「大事なもんが入ってるのに、そんなやつに渡すんじゃないわよ!」
 なんやとう!?
 ジャージの袖をまくり上げる。
「信用できないから、触んじゃないって言ってるのよ!」
 言い合いを始めてくれたおかげで歩みが遅くなった。
 シンジはそれを利用して歩を遅め、休憩する。
「暑くない?、レイ…」
 ずっとうつむいていたセカンドを心配する。
 レイは心配をかけまいとして顔を上げた。
 が、どうにも言葉を口に出せない。
 …まだ恥ずかしいのかな?
 臆病さのせいか、一歩引いた部分がある。
「辛くなったら言うんだよ?」
 頬を染めて頷く。
 可愛いや…
 そんなことを考えていると、背後から冷気の様な雰囲気を感じた。
「あ、れ、レイ?」
 こちらはサードだ。
「どうしたの?」
 怖い…
 特にわずかに細められている目が恐い。
「シンジくん…」
「な、なに!?」
 どうしてもビクビクと脅えてしまう。
「なぜ?」
「え?」
「セカンドを呼ぶ時の方が、優しい…」
 すねるように口を尖らせる。
 そんなレイの背後にアスカが忍び寄った。
「そりゃあ、あんたは手段を選ばないから恐いもんねぇ?」
 ガスッ!っと見事に入る肘鉄。
「うう、痛そう…」
 崩れるアスカ。
 構わなきゃ良いのに…、とは思うのだが、アスカの性格上、チャチャを入れずにはいられないのだろう。
「ただ…、ちょっと呼び方に差を付けてみたかっただけなんだけど…」
 今度は後ろに手を組んで小石を蹴られた。
「ああもう!、じゃあどう呼んで欲しいのさ?」
 わからなければ聞けばいい。
 それはアスカで学んだ事だ。
 その方が被害が少ないもんな…
 多少すねられる程度の方が、手が付けられなくなるよりは楽なのだ、フォローが。
「セカンドには尋ねないのかい?」
「カヲル君…」
 ニコニコとその雰囲気を楽しんでいる。
「もう!、からかわないでよ…」
「ごめんごめん…、かわりに背中のリュック、持ってあげるよ」
「え?」
 強引にトランクを奪われる。
「君のリュックを持つ分には怒れないさ」
「じゃあ、頼むよ…」
 リュックを渡し、アスカのトランクを持ち直す。
「シンジ君の荷物は少ないんだね?」
 カヲルはリュックを右肩にかけた。
「うん、宿題とかを持って来ただけだからね?」
 昨日の戦闘の後、ミサトにしっかりと手渡されたのだ。
 先に行ってるから、必要な物を持って電車で来なさい?
 その言葉にシンジとアスカは従った。
 レイ達がシンジから離れなかったのは当然として、トウジはそのお守である。
「じゃあシンジ君にどう呼んでもらいたいか…、それをレイ達への宿題にしておこうか?」
 カヲルについては…、謎だった。


「はいレイちゃん、お目々つむって?」
 ギュッと目をつむると、その頭にお湯が被せられた。
 ひたすら息を止めているレイ・ファースト。
「はい終わり!」
 ユイの言葉で解放される。
 レイは湯船のヘリに手をかけ、急いで入ろうと足を引っ掛けた。
「はいはい、危ないから…」
 胸に抱き上げ一緒に浸かる。
 湯船に浮かぶおもちゃの数々。
「ユイ…、そこにいるのか?」
 すりガラスに人影が映った。
「はい、あなたも入ります?」
 無言…
「何を照れてるんですか?」
「何でも無い…」
 説明してしまうが、別段ユイに他意は無い。
 王家の者として育ったユイは、人に肌を見られる事には慣れていた。
「シンジ達が駅へ着いた」
「あら」
 ピクッと反応し、レイはおもちゃで遊ぶのをやめた。
「いま葛城君が迎えに行ったが…」
「なにかあったんですか?」
 眼鏡をくいっと持ち上げたようだ。
「車がな…」
 ミサトは以前と同じ型のアルビーヌルノーで出かけていた。


「まったくちょろちょろするんだから!」
 ネルフに所属した事によって、一気に収入は増えていた。
「よかったぁ…、買いなおせて!」
 運転しながらキュッキュとハンドルを拭いてしまう。
 ちなみに車内はそれ程広くない。
 それに対して迎えに行く相手は6人。
「ま、面白い事にはなるっしょ?」
 初めから誰か二人を置き去りするつもりである。
「順当ならシンちゃんとレイよね、セカンドだとシンちゃんから世話を焼いちゃうかな?」
 レイ、喉渇いた?
 レイ、疲れた?
 シンジの何気ない気遣いに、レイは瞳を潤ませ頬を染めていく。
「ありがちね…」
 サードだとどうだろうか?
 シンジ君…
 うわああああ!
 ミサトはプルプルと頭を振った。
「だめだめ!、シンジ君が襲われちゃうわ」
 トウジとカヲルでは問題外だ。
「自分で走って来るわね?、きっと…」
 それだけの体力を持っている。
 エヴァテクターを付けてもいい。
「アスカとシンジ君か…」
 それだと普段と変わりない。
「でもこれから二人っきりになるチャンスが無いし…、アスカが焦るかも?」
 ミサトが遅くなる時は、当然シンジ達で二人っきりの時間を過ごしていた。
「でもデートもしたことないみたいだし…」
 つまらない。
「シンジ君も、踏ん切り付けたはずなのにね?」
 ミサトにはシンジの気持ちが分からなかった。



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