──どうして僕はこんなところに居るんだろう?
 墓地だ、夕闇も過ぎて突きと星明かりだけが頼りで、とても物悲しい雰囲気がある。
 荒涼とした丘に無数の十字架が並んでいる、二千年の初期、食料不足に伴う大パニックによって引き起こされた暴動が、これだけの死者を増産したのだ。
 その数は数千を越えている、しかもほとんどが身元不明の無縁仏として処理されている。
 名前がある少数派は、さぞかし肩身が狭いだろう。
 そしてその少数派の墓に向かって、マユミは堂々と手を合わせていた。
 暫くして顔を上げる、そこに刻まれているのは……
 ──マユミの、母親の名前であった。


FIANCE〜幸せの方程式〜
最終話、「時にを(後編)」


「そうかぁ、シンジも大変やなぁ」
 話題に困った時、大体の人間は同じ選択を取るものだ。
 すなわち、共通の人物に付いての世間話である。
「碇君と話してるだけで綾波さんの目がきつくなって……」
「そりゃしゃあないわ、洞木さんみたいに可愛い人やったら、あ……」
「……」
 初々しく赤くなる二人である。
「頼むからそこで二人の世界に入らないでくれよ」
「うおっ!?、なんでお前がここにおるんや!?」
「なんでって……」
 げっそりとケンスケ。
「……一人で会いに行くのが恥ずかしいからって、無理矢理連れて来たのお前だろうが」
「そ、そやったか」
「……」
「だから二人で恥ずかしがるくらいなら普通にくっついてくれよ」
 さらに暗くなるケンスケである、心中は勝手にやっていろと言いたいところだろう。
「なにが悲しくて人のデートの付き添いなんてしなくちゃならないんだよ、電車で通ってまで」
 あ、っと思い至ってヒカリは驚いた。
 別の街から電車で来れば、当然時間はかかるしお金も掛かるのだ。
「鈴原君」
「な、なんや?」
「大丈夫なの?、そんなことして」
「か、かまへん、ワシも男や!、惚れた女に、って、あ……」
「……」
「だからよぉ」
純情ラブコメ路線はそこまでよ!
 続く突っ込み。
「あなたは純情じゃないのね」
「揚げ足取るなぁ!」
 なんだぁ?、とケンスケ。
「誰?」
「あ、惣流さん」
「へ?、じゃあシンジの」
 妙に納得しているケンスケである。
「あんたね!、シンジの昔の女に情報流したって変態エロメガネザルは!」
「なんだよそれ!?」
 くすくすとレイ。
「だってあっちの学校の女の子はみんな言ってたもの、相田君は目で人を犯すとか、相田君が近くに居ると身の危険を感じるとか」
「アヤシイ奴……」
「うう、そこまで言うことないじゃないか……」
「だって相田君は盗撮小僧だもの、カメラを仕掛けたり、写真を売ったり」
「うわっ、ますますサイテー」
「だから相田君がこの辺に居ると思ったの、だってこの方角に不吉なものを感じたから」
「こりゃもう言い訳のしようがないわね」
 うわーん、と泣きながら駆け出すケンスケである。
「あ、行っちゃった、ってこんなことしてる場合じゃないわ!」
「そうね」
「そこの変態エロメガネザルの盗撮写真販売の片棒担いでるらしい共犯!」
「ワシはそんなことしてへん!」
 ──トウジ、裏切る。
「そんなことはどうでもいいのよ!」
 ──しかし弁解の余地は潰される。
「あんた達がシンジにあの女をあてがったってのは分かってるのよ!」
「女ぁ?」
 レイが補足する。
「山岸マユミよ」
「ああ?、おお、そういうたらそんなこともあったなぁ」
 腕組みをして、うんうんと頭を上下に揺する。
「学園祭でバンドやろう言うて、ほんまは綾波に頼んでもらおう思たんやけどなぁ、断られるのが嫌やったんやろうな、それで嫌われたらかなわん言うて」
「言ったの?、あいつが??」
「直接やないけど、そんな感じやったぁ」
 何故だか日本昔話口調で遠くを見て語るトウジである。
「それで目ぇ付けたんが山岸や、あいつ、どうせまたすぐ転校になるし言うて、どこの仲間に混ざろうとせんかったからな、迷惑になるし言うて、そういうとこがシンジと似ててなぁ、だからやろうな、変に意識し合っとったんは」
「碇君が、あの人に?」
「両方や、両方」
 うん、そうやった、とトウジ。
「端から見とったら面白かったでぇ?、シンジは嫌われたらかなわん思て腫れ物触るようにしとったけどな、ワシらが忙しゅうしとった分、あいつら二人きりになるん多かったし、トイレやなんや言うてすぐ逃げるんや、山岸が、ほんで隠れて顔から赤いんが引くの待っとるんや、可愛かったでぇ」
 ピクリと反応したのは、背後で黙って聞いていた彼女だった。
 その立ち上るオーラはさしものアスカもやめさせようと思った程だ。
「あ、あのさ……」
「両手で頬挟んで、じっとしとるんや、あれは……」
 ──バン!
 アスカは見た、ヒカリの右足がトウジの側頭部を打ち抜き、その衝撃が逆側に抜けるよりも早く左足が反対側を打ったのを。
 それはあたかも背後から左右同時に蹴ったように見えた。
 ふう、っとパンと風を孕んで膨らんでいるスカートをはたき、整える。
 その前にぐしゃりと崩れ落ちるトウジ。
「やるわね」
 引いているアスカだ。
「行きましょう」
「え?」
「もうここに用はないわ」
「あ、そうね、んじゃ!」
 シュタッと手を挙げてサヨナラを告げる。
 俗に逃げるとも言う。
 ヒカリは委細構わず鼻息荒く肩を怒らせて歩いていってしまった、ガニマタで。
 ……トウジの骸を拾うものはおらず、ただその三角形を描いて山となっているお尻にとまったカラスだけが、彼を憐れんで股間をつんつんとつつき回して上げていた。


 バンッと閉じた扉に、ミサトは目を向けて訊ねた。
「もういいの?」
「ええ!、シンジの捜索を再開よ!」
 エンジンを掛けて車を出す。
「で、ミサト」
 彼女の車は2ドアである、アスカが助手席でシートベルトを締めているということは、レイはどうなっているのだろうか?、居た、アスカに後部座席に投げ込まれて、上下逆のままもがいている。
「あの女のパパが国連のお偉いさんだってのはホントなの?」
「ええ、間違い無いわ、さる情報筋からの確かなネタよ」
 別名、彼氏とも言う、その認識の隔たりにどれ程の境があるのかは秘密だが。
「国連からの牽制みたいね、政略結婚って奴よ」
「……アタシが言うのはなんだけどさ」
「ん?」
「酷い話しね」
「アスカが言う?」
「だから言ってるじゃない」
「アスカ?」
 ぶすっくれて。
「それって、あの子が自分から望んでる訳じゃないって事でしょ?」
 あ、とミサトは盲点を突かれた顔をした。


「お母さん、この人が前に話してた碇君です」
 なんてことを墓前でやられた日にはどうしていいものやらわからない。
 いくら中学生でも今の状態がただならぬことぐらいはわかる。
 結局硬直してしまっている間に時間だけが過ぎ去って、後になって僕も手を合わせておけば良かったかな?、なんて墓穴を掘ってはまって埋まってボケツの芽が出てつぼみが花咲くようなことになっていた。
 なんとか体勢を立て直したのは、花が実を付けて種を飛ばそうとした頃であった。
「山岸さん」
「はい」
 墓から街に戻ろうとすれば、とりあえず電車に乗る事になる、というわけで、今はホームだ。
 ベンチに座って待ってる途中。
「どうして、僕を?」
 意を決したか、と思えばそうでもない、現に右手はぐっぱとしている。
「おかしいですか?」
「少し、ね」
「わたしは変だとは思いませんが」
 コワイ笑顔だ。
「紹介したかったんです、お母さんに」
「そう……」
「はい」
「あの」
 シンジはもう一つ思い切った。
「山岸さんのお母さんは、どうして?」
 初めて『仮面』にヒビが入る。
 ごめん、話したくなければ、そう言いかけて、シンジはおかしいと感じ取った。
 言いたくないのならそれでも良い、話したくないと言えば済むのに、どうして硬直し、動揺する必要があるのだろうか?
 説明する覚悟も無いのに、墓前に誘ったのか?、そんな素朴な疑問が、言葉には出来なくとも沸き起こる。
 どこかちぐはぐに感じられたのだ。
「山岸さん?」
 俯き、彼女は髪で顔を隠した。
 シンジは膝の上に揃えられている小さな拳が震えている事に気が付いた。
「山岸さん……」
 困惑するだけのシンジを置いて、彼女は立ち上がるなり笑顔を見せた。
「今日はありがとうございました!」
「待って!」
 駆け去ろうとしたマユミの手首を掴み取る。
「山岸さん、言ったよね?、似た者同士は恋人にはなれないって」
 マユミの体から、抗おうとする気力が抜けていく。
「……あれから色々と考えたんだ、今ならわかるよ、似てると自分が重なっちゃうんだ、自分の嫌な所を見せられてるみたいで、だから堪えられなくなって来る」
 シンジは瞼をつむると、母親に呼び出されてからの一連のことを思い浮かべた。
「……言ってくれなくちゃ、わからないよ」
 それに。
「ザワザワするんだ、落ち着かないんだよ、勝手に自己完結して、勝手な気持ちだけぶつけて、解消して行っちゃうなんてズルいよ」
「けど!」
 マユミはシンジが愕然とするような刃を投げ付けた。
「わたしは人殺しの子供なんです!」
 一瞬、時が静止した。


 山岸マユミの家庭が崩壊したのは、彼女が幼稚園から小学校に上がってすぐの頃だった。
 理由など知る由も無い、また彼女に教えようとする人間も居なかった、それが善意であるのか、それとも忘却してしまいたい恥であったからかは確実であったが。
 それでも彼女の記憶の中では、なんのいさかいも無い、円満な家庭であったのだ。
 あるいは仲が良過ぎたのかもしれない、ほんのちょっとした行き違いだったのかもしれない。
 夫は見知らぬ男と喫茶店に居る妻を見た、妻はそれが偶然出会った旧友であったから、親しく話しただけだった。
 自分に問題が見つからなかったからこそ、一方的に相手のせいにしてしまったのだろう、そうして夫は妻を殺した。
 妻の弁解を聞き入れずに。
 血まみれになって崩れ落ちている母と、包丁を手に狼狽している父を、その時はキョトンとして見上げてしまっていた。
 そのことが今になって響いて来る。
 夢に出る。
 また周りもそのことで苦しめようとする。
「わたしが引っ越したのは……、わたしが碇君を好きになったから」
「え……」
「恥さらしって、人殺しの子供が『ネルフの総帥の御曹司』に何を考えてるんだって、そんな子供、面倒見ていられないってたらい回しにされたの」
「そんな……」
「どこまで恥をさらすんだって、そんな恥さらし迷惑なのにって、あんな暗い子、余所にやってしまおうって、……そうして、今のお父さんに拾われたの、わたしなら碇君に近付き易いだろうって」
「だから……、会いに来たの?、急に」
「嫌だったから……、そんなの嫌だったから、だから早く嫌われようって思ったけど、でも」
 意を決したように。
「お母さんに会わせたかったのは本当です……、『最後』にお母さんに、この人がわたしの好きになった人ですって」
 シンジはギョッとした、揚げ句、タイミング良く電車が入って来る。
 立ち上がったマユミは、その光をバックにあまりにも透き通った微笑みを浮かべた。
「やっぱり、碇君なんて好きになるんじゃなかった」
 まさか、と思いシンジは身構えたが、さすがに飛び込みはしなかった、だからほっとした、が、まだ早かった。
「早くこうすれば良かったと思います、わたし、施設に入る事にします」
「良いの?、それで……」
「はい、全部を話せば、……葛城さんなら、聞いてもらえそうだから、碇君にも会いたかったけど、お父さんには……、お父さんの周りの人達には『監視』されてたから、ネルフの人に会うなんてどうすれば良いかわからなかったけど、だから今度のことはチャンスだと思ったんです」
 あの、とマユミ。
「一つだけ、良いですか?」
 二人の耳には聞こえなかったが、駅の外に車のブレーキ音が響いた、青い車から駆け出したのは、赤と青の二人の少女だ。
「……」
 マユミは何も言わず、瞼を閉じて、顎をやや上向けた。
 それが何を望んでいるかはわかる、けれどシンジは嫌そうにした。
 動かないマユミ、彼女もまた辛そうに、堪えているように見えて……
 肩に手を置く、びくりと震え、それを無視してシンジはわりとあっさりと彼女の額に唇を当てた。
 余韻を与えることもせずに離してしまう。
 悲しげにするマユミに、シンジは目を背けた。
「ごめん……」
「どうして……」
「だって……、なんだかもう、お別れだからって、そんな感じだから」
 マユミははっとした、シンジがそんな風に洞察出来るとは思っていなかったのかもしれない。
 しかしシンジも彼女が知っているシンジとは違ってしまっていた、レイや、アスカと色々とあって……
 さよならは、一番嫌いになっていたから。
「碇君も、変わってしまったんですね」
「嫌なんだよ……、もう!、何もしないで後悔するのは絶対に嫌なんだ!」
「碇君……」
 シンジが思い出しているのはアスカを見放してしまった時のことだった、知らない男性に連れていかれるアスカの悲しそうな顔だった。
「だから、ごめん……」
 言葉足らず、それでも『僕を踏ん切りをつけるための理由にしないで欲しい』、そんな訴えは十分に通じて……
 マユミは涙をこぼしながら微笑した、小首を傾げるようにして。
「残酷ですね」
「ごめん……」
「やっぱり、碇君なんて好きにならなければ良かった」
「あ」
 マユミは電車に飛び乗った、間髪入れずに扉が閉まる。
「山岸さん!」
 背を向けたまま震えている、出て行く電車を追いかける事は出来なかった。
 ただ見送っただけ、でも。
「何やってんのよ!」
「アスカ!?、……綾波まで」
「女の子泣かせたのよ!?、追いかけなさいよ!」
「え?、で、でも……」
「良いから!、話しは車の中で聞くわ!」
「車?」
「ミサト!」
 駅の外では、オッケーとミサトが腕まくりをして待っていた。


 ──はっきり言ってしまえば、各駅停車の普通電車がミサトの駆るアルビーヌルノーに勝てるはずが無かった。
 道すがら聞いた話しに、アスカは仏頂面をして、それでも褒めた。
「あんたにしては、よく気が付いたわね」
 マユミがどういうつもりであったかなど、アスカにはわかり過ぎるほど良く分かった。
 自分も親に捨てられた子供だから、施設に逃げ込んだ子供だったから。
 だから怒れないし、ギリギリのラインを守ったシンジも評価出来る、しかし。
 ──面白くない。
 聞けば聞くほど自分に似ているからこそ面白くない。
 結局、次の駅でマユミをあっさりと捕まえて、アスカは彼女の頬をはった、自己完結するなと、残されたシンジがどれだけ苦悩する事になるのか考えろ、と。
 マユミは泣きながら喚いた。
「だったらどうすれば良いんですか!?、これ以上迷惑なんて掛けられない」
 その言葉を遮るアスカの声には、経験者のみが含ませられるものがあった。
「祈っても願ってもカミサマは助けてなんてくれないのよ!、わかる?、人に迷惑懸けて騙して上手くやって、そうやってズルく『支え合って』いかなくちゃ!、人間が生きて行けるはず無いじゃない!」
 だから、と。
「シンジの気持ちを持っていかないで!、シンジの心を縛り付けないで!、あんたみたいなやり方は絶対認めない!、他のやり方がわからないならアタシが考えてやるわよ!」
 目を剥き、ぼろぼろと涙をこぼすマユミとアスカには、何か共通するものがあったのかもしれない。
 アスカもアスカで、あの親にして、と口さがなく陰口を叩かれて来た口だから。
「どうするの、シンちゃん」
 にやにやとミサトは口にした。
「ま、なんとかしたげても良いけどさ」
「なんです?」
「晩ご飯一ヶ月で手ぇ打ってあげるわ」
 わかりました、とシンジが答え、そしてミサトはよっしゃと浮かれた。
 えびちゅと叫んだ事からも、浮いた食費が酒に回せるとでも思ったのであろう。
 レイは浮かれるミサト、泣きじゃくるマユミを抱きあやすアスカ、そしてにこにことしているシンジと目をやって、それから中天に上りつつあるまぁるい月を見上げたのだった。


 ──はっはと息を切らして走る少年と、その左右を固める少女達。
「今日、転校生が来るんだって、聞いた?」
「なんであたしがアンタのクラスのことなんて知ってるのよ!」
「女の子かなぁ?、可愛い子だと良いなぁ」
 むぅっとアスカ。
「まぁったアンタのお手付きなんじゃないでしょうねぇ?」
「なんだよそれ」
「マユミとかマナとか、まだアンタ隠してんじゃないのぉ?」
「ギクッ」
「ギクッてなによー!」
「……わたしも聞きたい」
「誰も居ないよ!、うん!」
「……こいつは」
 相変わらずだと拳を固める。
 直情的に振り回して顔面に。
 ゴン!
「行くわよっ、レイ!」
「そうね」
「うう、酷いじゃないかぁ……」
 轟沈したまま見放されるシンジである。
 そしてそんなシンジを双眼鏡で覗いている少女が居た。
 マナだ。
「……違うのかな?、ううん!、あれは偽装かもしれないわっ、ああ!?、やっぱりモーホーなのかも!?」
 どうやら疑ってストーキングに精を出しているらしい、電柱に隠れて双眼鏡を覗いている姿は限りなく怪しいのだが、そんな彼女の双眼鏡のガラスには、カヲルにズボンを脱がされながら、何とか逃げようとする尺取りシンジが映り込んでもがいていた。
 マナの手に手榴弾が握られる。
 ──一方。
「いいの?」
「なに?」
「……アンタ、怖いからさ、最近、ずっとよ?、マユミのこと、気に入らないんでしょ?」
 学校が見えて来たからか、二人は走るのをやめて歩き出した。
「気に入る、入らないじゃないわ」
「じゃあなんなのよ?」
「はっきりとしてくれない碇君が嫌なだけ」
「あ、ちょっとぉ!」
 また走り出したレイの後ろ姿に溜め息を吐く。
「それは言えてるんだけどね」
 シンジの言っていた転校生が誰なのか。
 実を言えば知っていた。
 当人から電話で直接聞いたから。
「施設に一旦逃げて、これで転がり込んで来たらほんとにアタシのパクリじゃない」
 アタシとマユミ、どっちがシンジの好みなんだろうと考えて、アスカはレイ寄りの自分の性格にげんなりとした。
「結局選ぶのがシンジってのが気に食わないのよね!」
 むんっと気合いを入れ直す、何も選ばせてやる必要など無いのだから、決まり、絶対に決まり、これはもう確定事項、シンジは、あ、あ、アタシと夫婦にって、きゃーっと悶絶、頬を手のひらで挟んで身をくねらせたために落ちた鞄の中で端末ががしゃりと悲鳴を上げた。
 そして。
「アスカ、早くしないと遅刻しちゃうよ?」
「え?、って、ナニ考えてんのよっ、あんたわぁ!
 ぶわっちぃんっと派手に平手が炸裂する、シンジはかちゃかちゃとベルトを閉め直そうとしていたまま再び轟沈、どうやらアスカは路上でパンツを脱ごうとしていると思ったらしい。
「こぉの変態がぁ!」
 ぷりぷりとアスカ、行ってしまう、そしてエンドレス。
「ややっ、シンジ君!、そうか、君は無理矢理脱がされるってシュチュエーションに燃えるんだね、奇遇だよ、ではさっそく!」
 うーわーあー!っと悲鳴が轟く、人に好かれるということは良い事なのであろうが、微妙に幸薄いシンジであった。






 ──余談。
「碇君……」
「山岸さん」
「ってなに良い雰囲気になってんのよアンタ達!、特にアンタ!」
「はい!?」
「ちょっと優しくしてあげたからって調子に乗ってんじゃないわよ!、アンタは一生アタシに恩に着て仕えるのよ!」
「ええ!?、そんな!」
「アンタなんて下僕下僕下僕下僕下僕って言うか、下僕なんだからね、わかったわね!」
「奴隷なのね……」
「そうよ!」
「愛の」
「ええ!?、アスカってそんな趣味があったんだ!?」
「ええ!?、そんなの」
「って山岸さん、なんで赤くなるの?」
「あ……」
「……」
「いいやぁああああ!、なんでモーホーとかズーレーとか、こんな奴ばっかりなのよぉ!」
「あなたもその仲間だから」
「違うっつうの!、笑ってんじゃなぁい!」
「……十分変だもんね、アスカも」
 その後、彼が酷い目に合ったことは言うまでもない。



終幕



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元にでっちあげたお話です。