赤く染まる施設。
 鳴り響く警告音。
「実験中止!、回路遮断、塞き止めて!」
「だめです!、自我境界線が維持出来ません!」
「コントロール不能!」
「液状化が始まっています!、ガスの発生を確認っ、解析出来ません!」
「換気を停止だ!、隔壁を閉鎖っ、完全封鎖を!」
「ユイ!」
 −2004−
 一人の女性が死に……
 そして全てが動き始めた。


LOST in PARADISE
EPISODE07 ”使徒”


 −2015−
「ここに居たのか、碇」
 先日、シンジが見せられた巨人の前にゲンドウは居た。
 話しかけたのは冬月コウゾウだ。
「第三区画の発掘現場から報告があった、『生きて』いるそうだ」
「ああ……」
「どうする?、レイを呼ぶか?」
「……」
「万が一のこともある、未だエヴァの起動には至っていない、延期するべきではないかね」
 ゲンドウは肩越しに告げた。
「時間が無い……」
「わたしは焦り過ぎだと思うがな……」
 ズゥウウウンと、震動が響いた。
 次いでコウゾウの携帯が鳴り始める。
「どうした!」
『第三区画にて爆発事故発生!、原因は、不明ですっ』
「碇!」
「ああ……」
 ゲンドウは振り返り、くいっと眼鏡の位置を正した。
「発令所へ戻ろう」


「状況の報告を!」
「発掘現場からの応答はありません!」
「未確認生体反応移動中!」
「隔壁閉鎖!、非常用ハッチも閉じて!」
「了解!、……駄目です、突破されました!」
「映像っ、出ます!」
 それを見た瞬間、ミサトは惚けるようにして唖然とした。
「なんなのよ、こいつ……」


 ……緑色に、全体がのっぺりとした怪物だった。
 骨が直接露出している様な顔、その眼窟の奥で赤い光がちらちらと瞬いている。
 指の間には水掻きがあった、脇腹にエラがある、直接肺を覗く事が出来た。
「全体、整列!」
 割と広い通路だ、曲がり角から姿を現したそれに、警備隊らしい男達は銃を構えて二列に並んだ。
 前列の男達は膝立ちにライフルを構え、後列の男達はもう一つ凶悪な銃器を構えている。
「撃て!」
 ──ガガガガガ!
 銃声と硝煙が目と耳と鼻を痛ませる。
 シュコンとグレネードを撃つ音が続く、通路の奥で爆発、噴き付けて来る爆風に男達は銃撃を中断した。
「どうだ?」
 だれかがそう口にした、直後。
 ──ドン!
 先のグレネードに数倍する爆発、煙ではなく炎が通路を噴き走った。


「人的被害は甚大ね」
「保安部を下げさせてっ、誰が動かしてるの!」
「勝手にやってるに決まってるでしょ」
 ミサトは一々むかつく事を言うリツコに歯を剥き出しにしようとしたが、思い直した。
「B5、8、12を閉鎖、CラインからDブロックへ流れる通路を作って」
「は?」
「水を流して、ジオフロントに誘導するわ、構いませんね!」
 ミサトはちょうどやってきたゲンドウ達に確認を取った。


 ジオフロントには森があれば湖もある、自給自足が行えるプラントとして存在している以上、その程度の自然環境はあって当たり前なのだろうが。
 その湖の水がにわかに泡立ち、そして噴き上がった。
 ──ザァ!
 ザァザァと噴き上げる水がシャワーとなって降り注ぐ、深い湖の中央に居るというのに、『ソレ』は立ったままで膝の位置まで湖面に浮き上がった。
 その映像を見て戦慄したのはミサトだけでは無かっただろう。
「成長……、してるの?」
 発見当初は二メートルあるかなしかのサイズであった『ソレ』は、今や五メートル大にまで達しようとしている。
 シャワーがやむと、状況はより騒然とした、『ソレ』の足元の水がえぐれるようにへこんでいたからだ。
「重力制御!、凄い、水の侵入を拒絶してるの!?」
「パターン青!、反応確認しました、ATフィールドです」
 そして司令と副司令が口にした。
「使徒だな」
「レイを呼ぶ」
「間に合うのか?」
「間に合わせ……」
 カッと閃光。
 何を考えたのか『使徒』は眼窟から光を放ち、ジオフロントの森を薙ぎ払った。


 ──夜景を見ていたレイが見たのは、ジオフロントへ太陽光を取り入れるための集光口からの光であった。
 それ程豪快に燃え盛っていると言う事だ。
 もちろん、その混乱は地上全域に波及する、地下からの熱は確実に地上を焼いた。
「なんだ?」
 シンジはにわかに焦り始める人々に首を傾げた。
 この地に住んでいる人間にとって、足の下にも土地があるのは常識だ、だからこそ地下の火事が自分達にも降りかかるのではないかと危機感を抱きもする。
 しかしシンジは違っていた、来たばかりで実感が薄く、すぐさまジオフロントと空を照らす灯の正体を括り付ける事が出来なかった。
 警報が鳴り響き、アナウンスが流れる。
『ジオフロントにて発生した火災は……』
 ふうんと、シンジはそれで済ませようとして……
 出来なくなった。
 ドクンと鼓動が大きく跳ねる。
 目の前に開ける謎の光景。
 森が燃えている、火の粉が散っている、煙がもうもうと立ち上っている。
 その中に赤黒く照り返している化け物が居た、その顔が……、シンジへ振り向く!
 ──カッ!
 目から閃光、その光にシンジはびくりと怯えて身構えるように両腕で身を庇った。
 ガシャンと、手に持っていた袋が落ちて、CDケースが悲鳴を上げる。
 ざわざわと雑踏の音が返って来た、シンジの奇行に奇異な目を向ける人間も居たが、皆それどころではないと流れていく。
「……なんだよ、あれ」
 再び鼓動が響く、左腕が疲れたように感覚が鈍くなっていた、肩甲骨辺りに激痛が走る、心臓から流れ出る血が血管をおかしくして圧迫しているのかもしれない。
「なんだよ、なんだよなんだよ!」
 引きずられるような感覚。
 左腕、手の甲に何かを感じる、何かが触れている様な、『導かれている』ような。
 引かれるままに手の甲で風を探って、シンジは余計に混乱をした。


「何もかもが唐突だな」
 コウゾウは呻くように口にした。
「セカンドインパクトに始まり、エヴァの発見、あの日……、あの時の、ユイ君の死、そしてこれか」
「……事態は全て予測された事ですよ、冬月先生」
 ゲンドウは冷ややかに揶揄した。
「唐突に思えるのは心構えが出来ていなかった、それだけですよ、しかしいつ、何が起こるかわかっていて生きている人間など居はしない、だから唐突と言う言葉で逃げようとする」
「……お前はよくもまぁそう落ち着いていられるな」
 呻くコウゾウだ。
「使徒……、先史文明の遺産、自動、自走、自考する、自己進化能力まで備えた単独兵器、あらゆる物理的兵器を跳ね返すATフィールドを持つ無敵の怪物を相手に、どうするつもりかね?」
「ファーストチルドレン、到着しました!」
 ゲンドウは振り向かないままコウゾウに告げた。
「レイに頼む」
 それが今の彼らの精一杯なのだろう。
 だからコウゾウは、特に反対はしなかった。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。