「レイ!」
愕然とするミサトだ、唇を噛み、堪えようとするが出来ないでいた。
レイの粗い息遣いがスピーカーを通して聞こえて来る、ぜぇぜぇと。
「パイロット、血圧が下がっています、危険です!」
「くっ、戦闘中止、下がらせて」
その指示を出した時だった。
別の警告音が鳴り響く。
それは聞き慣れた警告音だった、最近ではレイが頻繁に使うようになったので、報告しないようにしていた『力』に関する警告音だった。
「本部施設……、え?、01格納庫に新たなパターンが発生!、生命反応あり!」
「うそっ!?」
「モニターに出します!」
「え!?」
ミサトは仰天した。
「シンジ君!?」
ぼんやりと突っ立っていたシンジが、急に驚愕し、驚くように後ずさった。
無音のために何に驚いているのか理解が遅れた。
零れ落ちる石岩。
巨人が……、動いて、鎧であった物が剥がれ壊れ始めていた。
「エヴァが……、動いてるの?」
「碇」
「ああ……」
司令と副司令が悪く企む。
「通信回線を開け、シンジ、聞こえるか」
『父さん?』
「そうだ」
ゲンドウは緊張を示すように息を継いだ。
「乗るなら早くしろ、でなければ退避しろ」
「司令!?」
喚く部下を無視する。
シンジは困惑しているように見えたが、恐れてはいないようだった、いや。
どこか理解している顔をしていた、怪訝そうにしているのだ。
自分が感じている奇妙な感覚の正体を。
知っているのではないのかと。
画面の中で、エヴァが座り方を変えていた、左膝を立て、右拳を地につき、まるで騎士が頭を垂れているような姿勢を取っていた。
『僕に……、力を貸せって言うの?』
シンジと巨人は、その視線を交わし合っていた。
『わかったよ』
ザッとノイズが走って画面が消える。
「どうしたの!」
「だめですっ、断線したようで」
くっと好奇心を抑え込む。
「レイは!」
敵の剣を躱す事に、必死になってしまっていた。
「きゃあ!」
突き出していた剣を横に払われて、咄嗟に対応出来なかった。
転がされる零号機、使徒を見上げてレイはひきつった。
大き過ぎる、全高十五メートルを越えている。
のしかかるような巨大感に圧し潰されて、レイは自分の『死』を視てしまった。
使徒の眼窟が瞬く、ガンッと音、目を開けば……
「えっ……」
侍が立っていた。
石の鎧を纏った。
使徒がよろめいていた、侍が肩からブチ当たったからだろう。
「エヴァ?、……だめ!」
踏ん張った使徒の剣が突き出される、首を捻って躱すエヴァ。
しかし頬には触れていた、兜が壊れ、ひきつり引っ張られて頬が裂ける。
エヴァの生々しい歯が剥き出しにされた。
──フォオオオオオオオ!
雄叫びを上げて拳を振るう、しかしガコンと金色の光に弾かれた。
「ATフィールド!」
カウンターで閃光を顔面に食らうエヴァ、今度こそ仮面が完全に吹き飛んだ。
しかし。
──ォオオオオオオオ!
その下の素体は無傷だった、右拳を引いて左を繰り出す、手刀は容易く黄金色の壁を貫いた。
「うそ!、ATフィールドを」
境界面を境に肉体を覆っていた石屑だけが剥がれ落ちる、届いた爪先は使徒の顔面をざっくりと裂いた。
──キシャアアアアアア!
悲鳴を上げる使徒に追撃を掛ける、横蹴りだ、股間部を覆っていたパーツが割れ落ちる。
ドン!
今度はATフィールドの抵抗もなく使徒は滑るようにして転がっていった。
ふぅううう、と肩で息をするエヴァ、その口から蒸気を吐いて、両腕を高く上げた。
「なにを……」
レイの見ている前で、炎がそこへと吸い込まれていった、集まって玉となっていく、周囲の熱が下がり出した。
業火は集中する事で熱量も上げているようだ。
──コウ!
白色の閃光、爆発的な熱量が解放されて、ジオフロント全体がずしんと揺れた。
「くっ、は!」
レイのエヴァも爆風にあおられて軽く転がる。
「あ……」
唖然としてしまったのは、発令所の面々も同じであった。
「エヴァは……」
再び解放された熱波に火事が再発している。
その業火の中からゆっくりと歩み出して来たのは……
エヴァ。
ミサトが呻いた。
「あれが……、エヴァの」
──本当の姿。
そしてその中に収まっているのは。
──碇シンジ。
彼であった。
続く
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。