エヴァ01よりもたらされたエヴァの真実は、その関係者一同を慄然とさせた。
 その一方で、ネルフ本部との直通ラインを使用した擬似会議場において、ネルフ総司令と、その上位者達との間で極秘の会議が開かれていた、今集まっているのは六人だ、ゲンドウを含めてである。
「しかし碇君」
 そのゲンドウに対し、一人が手元に届けられている資料を叩いた。
「現状において危険なのは一機のみではないのかね?」
 その言葉は、どこか難事が懸念で終わる事を期待していた。
「その他の機体は機械的なサポートを入れ、ノイズを混ぜる事で対処出来ているとも読み取れるが?」
 ゲンドウは手で作った橋の影から、一同を威圧的に見ていった。
「03専属パイロットにおいては、肉体強化型でしたが、現在では弱小ながらATフィールドを生身で発現させるに至っています、効果のほどはその程度のものです、これ以上の『進化』は促すべきではないと」
「しかしそれは愚か者の言葉だよ」
 誰かが示唆した。
「そう、人はいつか進化する、それを手に負えぬからと恐れ、流れを塞き止めようとするのは……」
「ですが」
 先の男が反抗する。
「未だ黒き月の中心核には遠い状態です、この覚醒は早過ぎます」
 何に早いのか?、それはもちろん、事態が自分達の手を離れるのを怖れているのだ。
 その裏側にあるものを見越してか、議長格の男がジロリと睨んだ。
「我々は政治家ではないのだ、個人の利益、あるいは未来を論じる必要は無い」
 ぴしゃりと締める。
「必要なのは滅びを如何にして免れるかだよ」
「彼らの力は来たるべき時を乗り越えるために与えられた神の慈悲である」
 一同はうむと頷いた。
「現状において、全ての情報を非公開とする、データは破棄だ」
「……わかりました」
「碇」
 念が押される。
「お前が未来のシナリオを作る必要はない、わかっているな?」
「はい」
 表情を全く動かさずにゲンドウは答えた。
「全ては、ゼーレのシナリオ通りに」


LOST in PARADISE
EPISODE12 ”真相”


 明らかに寝不足の顔で二人同時に登校して来たレイとアスカであったが、眠った場所は別々だった。
 流石に夕べは同じ部屋で寝る気分にはなれなかった、考えたい事が山ほど有り過ぎたからだ、だからアスカは自室に、レイはシンジの部屋へと帰宅した。
 ──シンジは未だ病院で眠ったままである。
 ガラッと開いた扉にクラス中の視線が向けられた、思わず驚くアスカとレイ。
「な、なに?」
「アスカ、レイ!」
 ヒカリが真っ先に訊ねた。
「碇君は!?」
「あいつ?、まだ病院だけど……」
 ちょっと考えて。
「ううん、ずっと病院、になるかもしれないわね」
「アスカ」
 レイが肘でつつくが、アスカは無視した。
「死ぬような事はないけどね」
「そう……」
 残念がる空気にアスカは首を傾げた。
「なによ?」
「あ、ううん……、あのね」
 ちらりと背後の数人を見やる。
「あの子達が、昨日、碇君が鈴原にヒーリングをかけるの、見たって言うのよ」
「シンジが?」
「うん……、でも信じられなくて」
 アスカは溜め息を吐くと、頭に手櫛を入れてガシガシと掻いた。
「あいつ……」
「アスカ?」
「ま、あいつならそれぐらいやれるでしょうしね」
 ねぇ?、っとアスカ、レイは神妙な面持ちで頷いた。
「うん……」
「レイ、何か知ってるの?」
「あたしも分かってる訳じゃ」
 とりあえず、と席に着く、何となくだが、周囲に人が集まった。
 レイはあまり話したくないと思っているようだったのだが……
「……あたしに分かってるのはね、シンジクンが『力』なんてどうだって良いって思ってることと、その力が桁違いって事だけで」
「どうだって良いって……」
「だってそうでしょ?、こんな力があったって」
 半眼になり、目の前に鬼火をぼうっと生み出した。
「……友達が出来るわけじゃないでしょう?」
 みんな、呻くように顔を見合わせた、それはそうだからだ、レイが口にすると必要以上に説得力がある。
 友達が出来なかったレイ、友達にならず敬遠したのは自分達だから。
 そんな輪の外ではケンスケが顔をしかめていた、自分の力もレイと似通ったタイプのものだが、同じタイプの奴が羽目を外して人に嫌われ、今では苛めの対象になっているのを知っている。
 自業自得、因果応報とも言えるだろう。
「あたしがそうだったもん、こんな力のせいで敬遠されてばっかりだった」
「レイ……」
「そりゃね、ヒカリみたいに友達になってくれた子も居たけど」
 目で礼を言う、微笑んで。
「シンジクンはそれがずっと酷いって言うか……、シンジクンは基本的に独りが好きなのよ、一人で居たがるの……、だから力なんてどうだって良いって思ってる、独りになるには……、むしろ邪魔だから」
 その先はアスカが引き継いだ。
「アイツって馬鹿なのよ」
 遠くの席のアスカに全員が目を向ける。
「人と居ようとすると、付き合い方を考えなくちゃいけないからって、面倒臭がって……、そのくせ嫌われたい訳じゃないからって、頼まれた事は引き受ける、チルドレン、エヴァ、全部そうよ、乗りたい訳じゃない、けど頼まれたからやってる、……だったら命まで懸けること無いのに」
 苛立たしげに。
「あ〜あ、チルドレン、やめようかなぁ……」
 皆一同ギョッとした。
「アスカ!?」
 驚き詰め寄るヒカリである。
「それ!、本気なの?」
「べっつにねぇ、シンジがチルドレンになるって言うからアタシも付き合ってみただけだし……、第一、レイの次にはっきりと力……、エヴァを発現させたのがあたしってだけで」
 ちょっと悔しそうに。
「言われちゃったのよね、アタシの力は、珍しくないって」
「へ!?」
「レイやシンジと違って、規模は大きいけど、似たような力を持ってる子は他にも居るって、そこまで言われちゃあね、……でもまあ、やるしかないんだけどさ」
 縁とは両方が結び合おうとしてはじめて結べる物である。
 それがアスカの、この二年間で得た結論だった、そして、未だにシンジとの縁は結べていないのだ、シンジに結ぼうとするつもりがないから……
 だからその気にさせるまで離れるわけにはいかない、それがアスカの行動原理だ。
「レイ」
「なに?」
「シンジの力のこと、なにか聞いてるの?」
 レイはアスカの問いかけに首を横へ振った。
「ううん、リツコさんはみんな分かってるみたいだけど」
「そっか……、じゃあ、あれ以上は聞き出せないわね」
「あれ以上って?」
 訊ねたヒカリに、目だけを向ける。
「シンジが倒れて、さ……、ちょっとね」
 レイに目配せ。
「覗いて……、聞いちゃったの」
 そう言って、レイはその時の会話をかいつまんで話した。


 ここはミサトの車の中だ。
 夜である、帰宅途中なのだろう。
「全ては二年前のことが、シンジ君を」
 ミサトの声は重かった。
「変えてしまったのね」
「リツコ……、あんたわかってたの?」
 隣でリツコは前だけを見ていた。
「……想像はしていたわ、推論を立ててね」
「……話して」
 ちらりと横目に表情を見やる。
「……聞いたって、先入観になるだけよ?、正解ではないかもしれないし」
「いいから」
 フォンと対向車の音が流れる、沈黙のとばりをややあってリツコは上げた。
「……根本的に、チルドレンの力は同じものに根差しているわ」
 唐突な切り出しにミサトは困惑した。
「力って、エヴァ?」
「そう……、例えば、エヴァの組織、説明したでしょ?、チルドレンはエヴァの搭乗者の子孫なのかもしれないって」
 ミサトはぎょっとした。
「それって!?」
「そう、……人もまた使徒である可能性があるわ、使徒と呼称されている生命体を祖としている可能性が……、その因子が彼らの力の素になっている、発現の仕方が違うだけでね……、でもそれは同時に、もっとずっと『進行』すれば」
「つまり……、シンジ君は」
 一拍の間。
「そうね」
「そんな!?」
「シンジ君は……、いえ、チルドレンは間違いなく先祖返りを起こしているわ、その中でもシンジ君の力だけが桁違いに見えるのは、それだけ犯されていると言う事なのよ、二年前、そして今回、シンジ君は炎を操って見せたでしょう?、時折シンジ君はレイ以上に物事の展開を洞察して見せるわ、そしてこの間の鈴原君との争い、覚えてる?、あの時シンジ君はATフィールドを張らずとも拳を躱していた……、強化された肉体でふるわれた彼の拳を、それに匹敵する反射神経と速度でね」
「それって……」
「そう、防戦一方でやり返すつもりが無かったから追い詰められてしまったけど……、シンジ君の力は『根源』に近い物だもの、つまりわたし達が確認している力は全て使えると見て良いわ」
「じゃあ、どうして……」
 リツコはタバコに火を点けた。
「それを知ってたら、あなた、もっと便利に彼を『使って』たんじゃない?」
「リツコ!?」
「だってそうでしょう?、レイ、アスカ、鈴原君、ことによるとナンバーズ全てを合わせても彼の方が上となれば、なんだってさせられるもの、彼の気持ちなんて関係無く、良いじゃない、ちょっとぐらい、そんな気持ちでどれだけの『雑事』を押し付ける?、……大小の差はあっても、わたしもそんな気持ちになることはあるもの、仕事を押し付けられてね?、多少コンピューターに強いからと言って、この程度のプログラム、とね?、考えたい事があるのに、暇をしているようにしか見えないから、ちょっとぐらい……、シンジ君にとっては何よりも一人になれる時間こそが安らぐのに、今までだってそうだったでしょう?、彼は本気で乗りたい訳じゃない、ナンバーズになりたかった訳でも無い、ただ生活を盾に強要されただけ、そのまま流されているだけなのよ、今更積極的になって、自分から明かしてくれるはずが無いわ」
「……」
「まあ、この辺もわたしの憶測がほとんどよ、想像交じりのね」
「だけど……」
「そうね、わたしは限りなく正解に近いと思ってる、だから……、注意した方が良いわね」
「注意?」
「ええ」
 リツコは重い声を発した。
「上がどう判断するか、わからないもの」


 シン……、と辺りは静まり返った。
「なんだよ、それ」
 誰かが何かを口にしようとした……、が、上手くいかなかった。
 問題は幾つもある、シンジがかなり高位の力を隠していたこと、自分達が浮かれていたものの正体、他にもだ。
 そして……、チルドレンなどと褒められていて考えなかったこと。
 それが便利な道具と言う言葉と同義であったこと。
 おだてて、乗せて、都合よく扱うための……
「エヴァに乗ったって好い事なんてない、どんどん人間から離れていくだけだから……」
 レイの言葉が呪縛を解いた。
「けどね、あいつら……、ミサトとかリツコってんじゃなくて、もっと上だけど、そのことを隠すつもりよ」
 アスカの暴露にどよめきが起きる。
「なにそれ!?」
「冗談じゃねぇぞ!?」
「そうね……」
 アスカは冷めた口調で語った。
「実際、わたし達にも正式な説明は無いままよ、エヴァへの搭乗も続行、今降りられたら困るからって、危険性については隠したままよ、隠せていると、思ってるわ」
 何故だかちらりと、教室角の柱、天井際へと目をやった。
「けどっ、エヴァって使徒なんだろう?」
 アスカは鋭い目を向けた。
「ええ、だから……、エヴァに取り込まれた時」
 ぞっとするような言葉だった。
「使徒として処理するために、エヴァに自爆装置なんて仕掛けてるのよ、あいつらはね」



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。