「なんだろ?」
登校して来たシンジは、騒がしいことに気がついた。
流れは教室にではなく、講堂へと向かっている、それでああと気がついた。
「そっか、今日、投票なんだ」
それで騒がしいのだろうと当たりを付ける、まあ、関係ないな。
そんな態度で教室へ向かうシンジは酷く目立った。
「おや、碇君、今日は来たんだね?」
「渚君……、おはよう」
「おはよう、そうか、今日は投票日だからね、それで来たのかい?」
シンジはそうじゃないよ、と簡単に告げた。
「僕には関係の無い事だからね」
「関係が、無い?」
「うん……」
怪訝そうなカヲルの前を横切り、自分の席に着く。
カヲルは続きの会話を欲したのか、席を立って追いかけた。
「……君はいつも一人だね?」
シンジは気乗りしない様子で答えた。
「そうだね」
「寂しくは無いのかい?」
「……慣れたよ」
「本当に?」
「……」
「僕は……」
カヲルは嫌いな自分を語り上げた。
「僕の仕事は、嫌われる事だよ、そうだろう?」
「渚君?」
「力が力だからね、『仲間』には恐れられ、それ以外の人には何の力も無いから、よく生贄的に苛められたよ、他のナンバーズは恐ろしいからね、どんな形で報復されるか分からない、だけど僕ならそう大したことは出来ない、そうだろう?」
「……」
「それでも、そんな中にも僕に対して優しくしてくれた人は居たよ、だけどね、僕を疎ましく思っていた他のナンバーズは、僕に直接何かをせずに、そのような人達を狙ったのさ、……だから僕はナンバーズを憎むようになった」
「そう……」
「力がある者はその力を使いたがる、勝手になり、自分の正義を押し付けたがる、……違うかい?」
さあ?、とシンジは正直に答えた。
「僕にはよく分からないよ」
「そうなのかい?」
「うん……、だって僕には、そんな風に守りたいって思う人は居ないから」
カヲルの目が細まった。
「本当に?」
「ん?」
「なら、何故惣流さんと綾波さんを守るんだい?」
それなら、とシンジは苦笑した。
「違うよ、守ってるんじゃない、渚君のように立ち直れる自信が無いんだ、だから落ち込みたくなくて、そうしてる、それだけだよ」
シンジは本当のことを語ったつもりだった。
しかし。
「嘘だね」
「え?」
「嘘だと言ったのさ」
カヲルの顔から表情が消える。
「君はこの間、語ってくれたじゃないか……、最悪なことになって欲しくないから、そのために力を使っていると、あの話と、今の言葉と、同じようであっても意味は違う、そうじゃないのかい?」
「……」
「認めるね?、君の言葉はその時の話の流れによって変わっているような気がする……、それはもしかすると」
「なに?」
「……作り事だからじゃないのかい?、そうするように、言われての」
シンジは非常に正直だった。
困ったように目を伏せたのだ。
「君は……」
そうか、と。
柔らかく……
「君は、好意に値するね」
「え?」
「あれぇ、シンちゃんが居るぅ」
「シンジ!、あんた投票したの?」
会話を切り上げ、微笑しながら離れていくカヲル。
後にはアスカとレイに囲まれて、困惑するシンジが残された。
「そう言えば……」
シンジは無理矢理引っ張られて、講堂の投票所へと連行された。
そこで一応票は入れた、ただし、白紙であったが。
「鈴原君、見ないね、どうしたの?」
「あんた知らないの?」
「え?」
はぁっと溜め息。
「あいつなら、ずっとネルフよ、訓練漬け、自分を叩き直すんだってね」
「ふん!」
トウジは鉄塊を両腕に抱えて持ち上げていた、その重さはトン単位だ、普通の人間には抱え上げるなど不可能である。
「ふっ!」
放り出す、ドシンと揺れた。
はぁはぁと粗い息を吐く、そんなトウジをじっと見ていたのはミサトであった。
「鈴原君?、前にも言ったけど、そんな訓練で身につく物なんて何も無いわよ?」
トウジは身を強ばらせた、分かってはいるのだ。
『エヴァ』によって強化された筋肉は、その物理的な限界点まで引き上げられている、それがこの異常な力を生み出してくれている。
だから鍛えたからと言って、コンマ何パーセントも成長することは無い、蛋白質は蛋白質のままだ、そしてその蛋白質は既にエヴァによって限界にまで強化されているのだから、成長する余地など無い。
「ただ疲れるだけ、自分を苛めて罰しているのは分かるけど、それじゃあいつまでたってもシンジ君には追い付けないわよ」
トウジは背中越しにミサトへ訊ねた。
「ミサトさん」
「なに?」
「わしには分からんのです、なんで碇の奴は堪えられるんか」
怪訝そうにミサトは眉根を寄せた。
「堪える?」
「そうです」
トウジは振り返った、その表情はやはり暗いものだった。
「わしは……、ずっとこの力は自慢するためにあるもんや思てました、『使徒を倒して』、自慢するために」
「……」
「そやけど、そやけど」
唇を噛んだ。
「この間、ナンバーズの子が、番外の奴に苛められとったんです、そん時、わしには力の使い方が分かりませんでした」
「そう……」
「恐なったんです、話が通じんようやったら力付くで止めなあかん、そうなるやろ思たんですけど、これだけの力や、下手したら殺してまう……、そう思たらどんどん恐なって、普段でもちょっとした時に、思わず力入れてしもたらどうしようとか」
息を継ぐ。
「わし、妹がおるんですわ」
「知ってるわ、ハルカちゃんでしょ?」
「はい、あいつの頭撫でたろ思て、出来んかったんです、間違って、首折ってしもたらどないしよ思て、自分が恐いんですわ、どうしたらええんかわからんのです」
ミサトはなるほどと頷いた。
「自分の力と付き合っていく自信が無くなったのね?」
「はい……」
「だけど、なら自分以上に力を持っているシンジ君が何故ああも平然としていられるのか、それが気になってしようがない?」
「はい」
縋るような目を向けた。
「あいつは……、なんで」
「それは、きっと」
ミサトはシンジとの会話を思い起こした。
「あの子は、迷わない様に……、いつ、何のために使うか、決めてしまっているから、そうだと思うわ」
──そして、生徒会長選の結果が発表された。
続く
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。