「はぁ!?、なんであたしが出ちゃいけないのよ!」
 勇んで来てみれば待機命令である、肩透かしを食らったのでそう口にしてしまっただけかもしれないが、それにしてもいつものアスカらしくない言葉に、ミサトはやや目を丸くした。
「落ち着きなさいって……、第一、まだ使徒と決まったわけじゃないのよ?」
「うっ」
「シンジ君ならレイほどじゃなくても『透視』を使えそうだし、……使える?」
 シンジはぽりぽりと頭を掻いた、ちなみに二人ともプラグスーツに着替えている。
「やったことないから、たぶんとしか……」
「頼りないわねぇ、今できないの?」
「今ですか?」
「……なに?」
「……初めて使う力って、加減利かないんですよね」
「それが?」
「だから、こんなところで透視しちゃうと、ちょっと……」
 やだっ!、っと身をよじったのはマヤだった。
「ああ、納得……」
「……しないでくださいよ、そうじゃなくて、服だけ透けるならまだ良いですけど」
「なに?」
 はぁっと溜め息を吐いて。
「黙ってましたけど、僕の力ってそうとう不安定なんですよね、コントロールが利かないってこともあるし」
「へ?」
「利かないんじゃないか、出来ないんですよ、仕切れないって言うか」
 アスカが訊ねる。
「どういうことよ?」
「ん?、ん〜〜〜、例えば透視を使ったとするよね?」
「ええ……」
「服を越えて人間の内臓が見えてしまうかもしれない、そうなると僕はショックで『何を思うか』わからない」
「……」
「この足場が透けて見えてしまったなら、怖くて浮かび上がろうとするかもしれない、けれど実際には天井がある、ぶつかる、その時僕はどんな速さで飛び上がってるか分からない、怖ければ身を守るためにフィールドを張るかもしれない、そうなれば天井を壊すかもしれない」
「物騒な奴ぅ……」
「精神力の鍛錬とか、そういう話になるんだろうけどね、だからなるべく普段は使わないようにしてるんだよ」
 ミサトはリツコへと話を振った。
「そうなの?」
「わたしは指示してないわ」
 目が鋭い。
「それ、シンジ君の考えなの?」
「はい」
「それならそれで相談して欲しかったわね」
「すみません……」
 しゅんとするのではなく、ただ押し黙ってしまう、そんな態度にリツコはミサトへと頷いた。
 間違いなく、シンジが自分から思い付いてやっていることではないと分かったからだ、罪悪感を感じていないと言うことは、都合が悪くて黙したと言う事だから。
「ま、この際……、その辺のことについては目をつむるわ、それはそれとして、何が起こるか分からないなら、一番防御力の高いシンジ君に防衛線を張ってもらう、そういうことなの、納得してくれる?」
「……まあ」
「真打は後から飛び出すものよ、そういう訳だから、みんな配置について!」
 ぱちぱちぱちと、ややからかうような拍手が聞こえた。
「いやぁ、凛々しいなぁ」
 ミサトはその声にげぇっと発した。
「加持ぃ!?、あんであんたがここに!」
 その加持の隣には、カヲルはそっぽを向いて突っ立っていた。


「迂闊だったわぁ、渚君がドイツから来てるなら、当然向こうの支部に居た加持と知り合いでもおかしくないのよね」
 ぶちぶちとミサト、その傍らにはカヲルが居る。
 リツコは忙しいらしく、マヤと何やら話し合っていた。
 加持の姿は消えている。
 メインモニターにはマップと移動中の光点が表示されていた、移送中の初号機のポイントだ。
「僕も出来れば、あの人とは二度と会いたくありませんでしたよ」
「そう?、気が合うわね」
「ですね」
 二人は何故か気持ちが通い合ったようである。
 急に親近感を漂わせた。
「しかし……」
 カヲルは訊ねる。
「使徒であった場合、これはかなり問題ですね」
「初の水中戦……、というよりも、まさか水中戦が有り得るとは思わなかったわ」
「古代人……、遥かな祖、彼らはどうだったんでしょうか?」
「……」
 ミサトには答えられない。
 だから聞き耳を立てていたリツコが答えた。
「水に潜る能力……、水から酸素を作り出す能力者が確認されているわ」
「……それに特化したエヴァもある得る、か」
「これだけ巨大な『移民船』だもの、そういう階層もあったんでしょう?」
 ──格納庫。
 苛着きながら腕を組み、右足でリズムを取っているアスカが居た。
 その隣に、レイ。
「なぁに苛着いてんの?」
 だんっと足を踏み下ろす。
「おいてけぼりってのが気に食わないのよ」
 正面では零号機の搭載が進められている。
「あたしだってやれるのに……」
 苦笑するレイである。
「やれるんじゃなくて」
「……?」
「シンちゃんが心配なだけなんでしょ?」
 赤くなるアスカである。
「悪い?」
「べっつにぃ?」
 にたにたとして。
「……加持さん」
 ぶぅっとアスカは吹いた。
「なっ、なによ……」
「ふふぅん」
 いやらしい目つきで舐める。
「アスカの弱点、見っけ」
「……なんだっての」
「アスカって、男の人とまともに付き合った事ないでしょ?」
「……それはあんたもでしょうが」
「そういう意味じゃなくてぇ」
 もったいぶって。
「男の人で知り合いが居ないって事」
「そんなこと……」
「ないでしょ?」
 うっとなる。
「……うっさいわねぇ」
「アスカってさ、鈴原君くらいなもんだもんねぇ、シンジクンを除くと、後は……、第二に居た時はつっぱってたから人なんて見下してたし、こっちに来てからマシになったって言っても、シンジクン優先だもんね」
「……」
「アスカぁ、煙草の臭い、移ってるよぉ?」
「うそ!?」
 レイが人の髪の房を弄るので、アスカも自分で香ってみた。
「……しないじゃない」
「でも意識はしてるみたいね」
「うっ」
「アスカぁ」
 レイは一転して、心配そうな目を向けた。
「慣れてないせいで緊張してドキドキしてるのか、本当に好きになってるのか……、それはアスカにしか区別付けられない事だから何も言わないけどね」
「……言ってるじゃない」
「けどね!」
 びっと指を突きつける。
「それ、迷ってるのシンちゃんに見抜かれたら終わりだからね」
 アスカはぐっとなった。
 それはいつも注意して来たことだからだ。
「わかってるわよ……」
「なら良いんだけどね」
 なぁんで塩、送ってるんだろとぶちぶちと。
「じゃあ、あたし、先に……」
 そう告げて歩き出そうとしたレイであったが。
 ──ビィー!、ビィー!、ビィー!
 非常警報が重なった。
 ──発令所。
「レイ!、アスカ!、急いで!、レイは輸送班と一緒に!、アスカ!、許可するから『高速機動』で先行して!」
 ミサトが金切り声で指示を出す。
 そして主モニターへと。
「シンジ君!」
 画面の中では01がナイフを構えていた、その正面、湖面には白い航跡が生まれていた。


続く



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。