「全隊配置に着きました」
 報告が入る中、レイは腕を組んで不安げに主モニターを見上げていた。
 ──ネルフ本部発令所。
「アスカ、聞こえる?」
『ええ』
 ミサトはよしと、気合いを入れ直すように呟いた。
「それじゃあ、作戦伝えるわね、アスカは……」
『待って下さい!』
 トウジが喚く。
『わしが行きます!』
「はぁ?、ちょ、ちょっと待って!」
『鈴原、あんたねぇ』
『わしかていつまでもお荷物やないで!』
『あっ、ちょっと待てって!、ミサト!』
「しようがないわねぇ……」
 本当に仕方なく、と了承する。
「アスカはバックアップに回って、トウジ君はオフェンス」
 了解!、っと声が重なる。
 画面の中の使徒の姿は、どこか『サキエル』に似た形状をしていた。


LOST in PARADISE
EPISODE20 ”すれ違いと通い合い”


「うぉりゃあああああああ!」
 拳を振り上げ黒いエヴァが突進する、一蹴りごとに異様な硬さを誇る『遺跡』の床が揺れるのだから、その勢いには息を呑ませるものがあった。
「だから!、そこが変わってないって言ってんのよ!」
 アスカはトウジが持つはずであった銃器を構えた、センスが根本から違っているのだろう、03の背を器用に避けて、その向こう側に居る使徒へと砲火を集中させる。
 ──ガガガガガ!
 パレットガンと呼ばれるエヴァ専用マシンガンの弾丸は、おおむね使徒を捉えたかに見えた、しかし……
「くっ、やっぱ中和距離外じゃ無駄か、鈴原!」
「おおおおお!」
 トウジは弾着の波紋を広げるATフィールドへと拳を叩きつけた、バキン!、一撃で金色こんじきの壁はくだけ散る。
「もろたで!」
 右拳を引きつつ左の手刀を叩き込んだ、ゴキン!、ブロックした使徒の腕が奇妙に折れる。
 ちかちかと仮面の眼窟の奥で発光現象が起こった、業火で『敵』を焼き尽くすつもりなのだろう、だが、遅い。
「りゃあ!」
 高々と上げられた03の踵が、脳天から鳩尾辺りまでを真っ二つに引き裂いた。
 足を引いて、一歩下がり、トウジは小さくガッツポーズを決めた。
「どや!」
 自慢気に振り返る。
「わしかていつまでもお荷物にはなってへんで!」
 しかしアスカは聞いていなかった。
(なによあれ?)
 突っ立ったまま動きを止めてしまった使徒。
 アスカが注視しているのはその腹だった。
(コアが二つ在る)
 そしてトウジの蹴りが破壊しているのは、その一方だけ。
 ──ぞくりと背筋を悪寒が走った。
「鈴原!」
「はぁ?、なんや……、のわ!」
 ブンッと足を掴んで放り上げられた、何が起こったのか分からないまま床に叩きつけられ、苦痛に喘ぐ。
「鈴原!、くっ」
 身を捩って炎の翼を展開する。
「ミサト!」
『なんてインチキ!』
 敵……、使徒は二体に分離していた、裂けた部分から一瞬でわかたれ、足りない部分を再生して。
『どういう構造してるのよ!、アスカ!、トウジ君を回収して!』
「くっ!、簡単に言わないでよ!」
 胸を張り、大きく翼を広げる。
 ──炎の羽が刃となって無数に飛んだ。
 ザッ!、身肉を削られ、切られ、怯む二体の使徒、しかしすぐにまた再生してしまう。
「きりがない!」
『アスカ!』
 叫んだのはレイだった、また未来予知を忘れてしまった、そのことが悔やまれる。
 いや……
 まだ間に合うと歯噛みして、急いで『第三眼』を起動する。
「レイ!?」
 ミサトは突如背後から起こった『閃光』に慌てた、それほどにこれまでに無い輝きを放って、レイの『眼』は巨大に姿を現していた。
「視える……」
 呟く、レイ。
「傷つけられた部分が……、再生していく……、でもしていない部分も在る、両方に同じ傷が生まれてる?」
 はっとしたのはデータ収集に追われていたリツコであった。
「補完し合っているの!?」
「リツコ!?」
「ミサト!、早く二人を引かせて、あのままじゃ絶対に勝てないわ!」
「え!?、けど……」
「『同一異相体』、双方がオリジナルとバックアップを兼ねているのよ、欠損した情報を修復するためのね」
「アスカ!」
 ミサトは叫んだ。
「何とかトウジ君と退避して!、あらゆる武器、武装、能力の使用を許可するわ、司令!」
 ともすれば存在を忘れがちな最高責任者へと許可を求める。
「遺跡の一部破壊許可を求めます!」
「許可する」
「アスカ!、そこを破壊しても構わないわ!、生き埋めにしてでも動きを抑えて撤退して!」
『逃げろっちゅうんですか!?』
「肉弾戦が主なトウジ君には倒せないわっ、アスカ、焼き尽くして!」
『了解!』
 言ったものの、アスカは邪魔をするトウジに苛立っていた。
「下がれってのよ!」
「そやけど!」
「そうやって邪魔をして!、何にも成長してないじゃない!」
「くっ」
「どれだけ力をつけたって、無駄に振り回してるんじゃ同じでしょうが!」
 両腕を広げる、翼は腕に巻き付き離れた。
 炎が渦を巻く両腕を前に突き出す。
「いっけぇ!」
 加速された炎は光に変わって使徒を直撃した、しかし二体に分離したのは伊達ではないのだ。
 ATフィールドがその光を減退させる、爆発、03が爆風に転がる。
(まだ!)
 アスカは03を踏み付けると、その体から予備の弾丸を奪い取った、炎を基本とするアスカには危ないとの事で、02には搭載されていなかったからだ。
「こんちくしょうー!」
 自棄になって、爆風の向こうへと放り投げる、ドドドドドン!、誘爆、銃弾が跳ね回る。
「もういっちょう!」
 両肩のバックパックを排除し、落とす、それを天井へと蹴り飛ばした。
 ──電源パック。
 エヴァンゲリオンを起動させるために蓄え込まれている膨大な電力を、アスカは『力』で暴走させた。
 シンジに言い諭されて知った本当の使い方で。
 加速された電気は膨大な磁場を発生させて、やがては空間ごと崩壊を迎える。
 ドン!、激震、自分でやったことながらアスカは悲鳴を上げてしまった。
「きゃああああああ!」
『アスカ!』
 レイの悲鳴がなんとか意識を繋いでくれた。
(くうっ!)
 03の腕を取って『加速』する、ドムッと空気の壁を突き破って撤退、後にはがらがらと崩れ落ちて来る瓦礫に埋もれた空間だけが残された。


「なんとかなったみたいね」
 ふうっとミサトは息を抜いた。
「リツコ」
「ええ……、使徒は生きているわ、エネルギーも感知している、けど動くつもりは無いみたいね」
「どういうこと?」
「……推測だけど、片方だけが傷を負った場合には、もう片方が『欠損情報』を補填する形で修復を試みる、けど両方に同じ傷が出来たなら?、通常通りの自己修復に頼るしか無くなる、そういうことなんでしょうね」
「……炎で焙ったのは正解だったわね」
「けど二度目はないわね」
「どういうこと?」
「これを見て」
 それは最初のアスカの攻撃に曝された時と、その後の弾倉の暴発に対処した時の二度の爆発に対する使徒のATフィールドの展開パターンだった。
「……強くなってる?」
「共振作用よ」
「え?」
「同じ性質のものがぶつかり合えば反発が起こるわ、それは一種の爆発、エネルギーの発生よ、そして二体の使徒は元は一体……」
「音叉以上に誤差は少ない?」
「……どこまでATフィールドが強化出来るのかはわからないけど、下手をすればこちらの中和限界を越える可能性があるわね」
「その上で、修復能力?」
 頭が痛いわ、とミサトは唸る。
 そちらにばかり気を取られてしまっていたからだろうか?、ミサトはレイがいなくなっているのに気がつかなかった。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。