「!?」
「!?」
アスカとレイが同時に振り向く。
「早くしろよ!、何やってんだ!」
ムサシの苦痛を交えた声にも動こうとしない。
「いま」
「うん」
二人は同じく、胸を押さえた。
LOST in PARADISE
EPISODE41 ”吹き荒れる嵐”
「カッ、ハッ……」
吐血。
絶息に混じって、細かな血の飛沫が吐き出される。
「司令!」
信じられないと、口元を手で被いかけた仕草のまま、リツコは目を見開いて硬直してしまた。
──手が出せない。
ゲンドウはそんなリツコの存在を無視したままで、両手で握ったものを、より一層押し込んだ。
「……!」
瞳孔が開かれる、シンジの視界には、腹に突き立った、いや、貫通しているねじくれた枝のようなもののみが映り込んでいた。
──ドクン!
体が跳ねる。
──ドクン!
体が膨れる。
何より恐ろしかったのは、痛みを感じていないことだった。
鼓動が大きく頭に響く、ジュルジュルと音を立てて槍の捻じれがささくれ立って、逆剥け、生き物のように伸び出した。
シンジの体を侵食していく。
葉脈のように、犯し始める。
「あ、あ……」
リツコはぺタンと尻餅をついた。
手を離し、ゲンドウは後ずさる。
「くっ、あ!」
シンジは体をのけぞらせた、だが倒れることはできなかった。
『枝』は『幹』となって『木』へと成長していたからだ。
(取り込まれていく!?)
碇シンジと言う少年が。
天に根が、そして地に枝葉が広がっていく、逆さの樹、シンジの体はその中心たる幹のうろにおさまるように位置付けられた。
「司令!」
リツコはさらになにかを手に持ったゲンドウに叫びを上げた。
彼が持つもの、それは二股に別れた槍だった。
──ロンギヌスの槍!
それだけはだめだと悲鳴を上げる。
「司令!、シンジ君を、自分の子供を殺す気ですか!」
組み付くが、小揺るぎもしない。
ゲンドウの目は息子の変化を見据え続けて、外れようとしない。
「その槍は!」
「知っている」
「なら!」
「だからこそだ」
ゲンドウは一瞥を投げかけた。
リツコの形相に説明をする。
「これが真実だ」
「真実!?」
「そうだ」
再び息子だったものへと意識を戻す。
「『南極』の、君が知りたがっていた真実だよ」
リツコは再び、固まった。
●
──西暦二千一年。
「接触実験などと」
南極。
「あれはこの世界に張り出している剥き出しの中枢神経素子ですよ、我々の自我意識など」
「そのためのReiシリーズだ、違うか?」
隠しマイクによって、話を拾い、聞いていた男達は皮肉った。
「科学者というものは、どうしても自分の考えを信じ過ぎる生き物だな」
返事が戻る。
「見えないのでしょう、目に見えない法則があることに気付こうとしない、そしてそれを探求することに余念がない」
「見えないものを見つけるために、目に見えるものだけで探ろうとする、わかろうとする」
「……」
「この実験は、失敗するな」
「……そして我々はそれをとめることができません」
「くうううう!」
アスカは歯を食いしばって堪えた。
「やぁあ、もう、いやぁあああ!」
喚いているのはマサラである、どこか楽しそうだった。
ムサシが力尽きると同時に敵は動いた、『空間』を掻くように削り取ったのだ。
削られた空間を元に戻そうとして、世界はそのポイントへと『流れ込んだ』、巻き込まれたアスカたちは、無防備な姿を晒すこととなってしまっていた。
『撤退して!』
「でも!」
『作戦は失敗よ!』
ミサトはなにやってるのよと口中で毒づいた、さすがに今批難することではないと判断したからなのだが、表情には出てしまっている。
苦り切っていた。
(レイもアスカも、こんな時に)
このような凡ミスをする子じゃないはずなのにと、戦士としての評価を下げる。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「早くしてよぉ!、このお兄ちゃん死にかけぇ〜」
「死なさない!、ケイタ!」
「わかってる、マナ!」
二人は声を掛け合って、ムサシの機体の左右を固めた。
引きずりながら、下がり出す。
(アタシのせいで!)
だが、逆にアスカの弐号機の足は前に出ていた。
「アスカ!」
アスカはちらりと振り向いた。
正面からの、怪物が放つ正体不明の圧力は増している。
「レイは、逃げて……」
信じられないと目を剥いた。
「なに言ってるの!」
微笑する。
「だって……、誰かがやんなきゃ、逃げられない」
「アスカ!」
「弐号機のね、エネルギー……、もう切れそうなのよ」
ゾッとした。
忘れていた。
零号機と違って、外部電源を必要としている弐号機がこれだけの出力を搾り出し続けているのだ。
そろそろガス欠に陥って当然である。
「だったらあたしが!」
「ダメよ!」
「アスカ!」
「ダメよ……、だってここを抜かれたら本部はどうなるの?、そうなれば後を託せるのは零号機だけじゃない」
乗っているあなたはともかくとアスカは諌めた。
零号機を守れと。
「……」
レイは悔しさから歯噛みした。
この場で自分には役立つものなどなにもない。
役立つ能力などなにもない。
だが零号機だけは別だった、うまくすれば誰かが代わりに乗ることのできるものである。
死んでもかまわないと訴えることは簡単だったが、零号機を守れと口にされればそれはできない。
(ズルい!)
激しく喚く。
胸の内で。
初号機が失われた今となっては、エネルギーの補給の必要のない零号機の付加価値は、計り知れないものとなっている。
『ダメよ……』
通信が割り込んだ。
『二人とも、下がりなさい』
「うっさい!」
拒絶する。
「ミサトは黙ってて!、これはアタシの仕事よ!」
『違うわ!』
「あたし以外の誰が!」
『違うってのよ!、さっきのはあたしじゃない!』
「え!?」
思わず気を抜いてしまう。
「しまっ!?」
当然、その隙を突いた攻撃が来るものだと思い、アスカは両腕で体を庇った、しかし……
「え?」
敵は……、動かなかった、いや、動けなくなっていた。
何を気にしているのか、ゆっくりと首をめぐらせている。
捜しているのだ。
『……とは』
(ノイズ?)
『あとは、あの子が……』
続きは消える、しかしアスカには、処理するわ、と聞こえたような気がしてしまった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。