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Evangelion another dimension:LOVE ME MORE
──宇宙歴121・火星。
「カヲル」
彼、渚カヲルは不機嫌そうに自分を睨む少年に嘆息した。
「また君か……しつこいね、君も」
「じゃかましいわ! オノレ……行くんか?」
「ようやく密航できそうな船が見つかったんだよ」
あれから各惑星間の行き来は規制され、それ故に貧困は広がりつつあった。
「君は?」
「わしも行く」
「でも君は……」
「わしは……納得できんのや」
「トウジ君?」
「なにを考えてシンジがこないな世界作ったんか、わからんのや」
カヲルは目を丸くした。
「そうか……君は」
トウジはバチンと左手に拳を打ち付けた。
「こないな酷い世界を作っておいて、後は知らんふりか? もしアスカといちゃついとるだけやったら」
カヲルは面白そうにして問いかけた。
「どうするのかな?」
決まっとるやろとトウジ。
「わしがパチキかましたる!」
──金星。
そこにはエンジェルキーパーたちが集っていた。
物不足から寂れ、潰れてしまった、そんなバーの中にたむろしている。
紫色の、フランス人形のような出で立ちの女の子がいれば、おかっぱ頭の童女がまりを手に腰掛けているし、白髪の青年や、あのアスカに似せて作られた少女まで揃っていた。
どこかシンジに似た造詣を持つ藍色の髪の少女は、赤子を胸にあやしている。そしてメテオやミサキまでも揃っていた。
「イスラフェルはどうした?」
ミサキが肩をすくめた。
『我々は地球に対し、この不当な!』
テレビからは政府のプロパガンダ放送が送り届けられている。
廃倉庫の片隅の部屋には、年代物の映りの悪いテレビが据え置かれていた。
コンクリートの上に、拾ってきたと一目でわかるベンチがあり、少年はその上で体を伸ばしていた。
けたたましいコールサイン。
そしてスピーカーからがなる声が聞こえてきた。
『シンジ! 外! 軍警察が囲んでる!』
飛び起きて、そこにあったフライトジャケットに袖を通す。
「レイ!」
青い髪の少女は似たようなジャケットを羽織りながら無線機を投げよこした。
「マナは先に出て!」
地球との交易が途絶えたことから、幾つかのドームは閉鎖へと追い込まれてしまっていた。
ここはそんな理由から、無人となったドームへと向かう途中の、放棄された施設倉庫であった。
フェンスに囲まれた巨大な倉庫で、辺りには寂れた荒野が広がっているだけである。
そんな大地のわずかな起伏に、武装した兵士たちが身を潜めて前進していた。
隊長格の男が手を振って指示を出した。
──同時に倉庫正面が爆発した。
横に開かれるはずの扉が内側からはじけ飛んだ。高さにして五・六メートルはある。そんな扉が頭の上から振ってくる恐怖に、兵隊たちは逃げまどった。
──ドン!
扉が落ちるのと、内部より飛び出したものがジャンプし、落ちるのとが同時であった。
「撃て! 撃てぇ!」
金切り声に、トレーラーに向かって発砲が始まる。
巨大な赤いコンテナ車だった……まるでジェネシス初号機の下部のような。
「ちょっとちょっとちょっとぉ!」
ハンドルを操っているのはマナだった。
後部カメラでロケットランチャーを構えるのを見ている。
「本気ぃ!?」
ドンとロケットは発射され、トレーラー後部に直撃した。
普通であればその衝撃に浮かび上がって横転していてもおかしくはない……が、このトレーラーは普通ではなかった。
「ととと!」
ほんの少し、ハンドルを取られただけで済んでしまう。
「ちっ!」
追撃準備をと叫ぼうとした司令官を、衝撃波が空にさらって地に落とした。
「隊長────!」
気を失った司令官に兵隊たちが集まっていく。
ばらばらに砕けた倉庫の残骸が降り注ぐ。
倉庫を破壊して飛び去ったのは、やはり赤でペイントされた機体であった。
戦闘機である。
「ジェネレーター出力安定」
「ドッキング!」
パイロットシートは複座式となっている。座っているのはシンジとレイの二人であった。
「マナ!」
「りょーかい」
よいしょっと。そんな軽さでギアを変形合体にたたき込む。
コンテナ部分が前後に伸びて、膝関節を生み出した。
そして膝関節を軸にふくらはぎのカバーが開かれ、巨大なエンジンノズルが姿を現す。
──噴射。
荷重に耐えるマナ。ロケットの勢いにコンテナ車は浮かび上がった。
──その先にシンジたちの乗る機体が待っている。
「ドッキング!」
マナは恐いなぁと、迫ってくるジェット機の後部ドッキングブロックに引きつった。
なにしろ視界いっぱいになるのだ。やがてドッキングは果たされた。
「このまま変形するよ!」
腰ブロックで回転し、上半身を形成するために機体のノーズが中へと折れる。
宇宙空間では足として使用されるのであろうパーツが腕となり、そして『四つ目』の複眼頭部が現れた。
「着地!」
大地を噴き上げ、砂埃の中に立つ。
「ジェネシス『弐号機』!」
シンジとレイの席がやや離れる。
レイの席は上部後方に、シンジの席は下部前方に、そして間にマナの席が現れた。
「レーダーに反応……囲まれてる!?」
迷彩シートを被っていたらしい。マントを外して姿を見せたのは、ジェネシス初号機に似た機体であった。
「金星軍……やっぱりコピーしてたのね」
「バージョンはこっちの方が上よ」
「そういうこと!」
右腕を前に出す、その手がグリップを握れるように、背部より巨大な砲身が移動した。
「ランチャー準備」
「S
2
機関作動」
「戦争なんて、やらせるもんかぁ!」
シンジはゲンドウと母の遺産に対し、自らがケリを付けると引き金を弾いた。
●
波が押し寄せ、引いていく。
夜の浜辺に腰掛ける二人がいた。
「そっか……そんなことがあったんだ」
少年は少女の語った冒険譚に、へぇっと目を丸くして驚きを発した。
「大変だったんだね」
「あんたねぇ……」
はぁっと嘆息。
「もともと、あんたが作ったんでしょうが」
「でも僕は神様じゃないからね。なんでもかんでも決めることなんてできないさ」
「そうなの?」
「そうだよ……僕はただ、アスカが満足できるような、そんな世界をって、そう思っただけだったから……イテッ。アスカ?」
こづいた拳をそのまま見せる。
「あんたあたしをなんだと思ってんの?」
「へ?」
「あたしはインディージョーンズじゃないんだからね? 冒険なんていらないの!」
「そうなの?」
「そうよ!」
「じゃあ、アスカにはなにが必要だったの?」
「ばぁっか」
頬を赤くし、そっぽを向いた。
「そんなの……自分で考えなさいよね」
空を見上げると、星が流れていた。
天を覆う星々の瞬きに、アスカはあの世界で出会った人たちの煌めきを見た。
まだ争っているのだろうか? まだ笑っているのだろうか?
あの輝きは、そうした人たちの息吹なのかもしれない……そう感傷に浸ったときだった。
ふっと、なにかに視界を遮られてしまった。
しかし……少女は避けたりはしなかった。
ただ、満点の答えを返した少年に、もう一度、とお願いをした。
「やり残したことがあるような気がするから……今度はあんたも一緒に、さ?」
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。