Episode:11A





「おだいりさーまと、おひなさまぁ♪、この子の七つのお祝いにぃ〜」
「なんかちがうー!」
 と、ケチをつけたのは言わずと知れた碇シンジである。
 まあそんなこんなで三月三日の金曜日、シンジは学校に来るなり体育館で縛り上げられていた。
「悪いなぁ、シンジぃ」
「すまん、これも友情のため、しんぼうしてやぁ」
「こんな友情嫌だよぉ!」
 長椅子を器用に積み上げているケンスケとトウジ。
「いったい何しようってんだよ!」
「昨日のLHRで決めたやないか」
「まあシンジは寝てたみたいだから知らないとおもうけどな」
 長椅子で作ったピラミッドの上に、赤い布を被せる。
「よっしゃ完成や」
「うん、なかなかのデキじゃないか」
 満足がいったのか、続いてぼんぼりなどを並べていく。
「今頃女子は大変やろなぁ…」
「ああ、誰がおひなさまやるかで、相当もめてたからね」
 サーっとシンジの顔から血の気が引いた。
 約三名、力づくと言うことにかけては群を抜いている女の子の顔が、鮮明に浮かんで消えた。
「ちょちょちょちょ、ちょっと待ってよ、それじゃ…」
「そや、お前がおだいりさまや」
「そんなの変だよ!、だってカヲル君とか、もっと他にもいるじゃないか!」
「いや、それがやなぁ…」
「シンジ君、シンジ君は僕が他の女の子といちゃいちゃしている方が良いって言うのかい?」
「か、カヲル…君?」
 白いハンカチを噛み締めているカヲル。
 何故か女子の制服を着ていた、しかもズタボロで。
「なんや、負けたんかいな…」
「うう、女の子でないとダメだって言うから、こんなものまで着たのに…」
 カヲルをズタボロにした犯人が誰か、三択問題をつきつけられるシンジ。
「まあ、誰が勝っても文句無しやさかい」
「そうだよシンジ、ちゃんと祝福してやれよ?、何しろ今日は女の子のための日なんだからな」
 …とカヲルに襲われかけているシンジを諭す。
 縛られているためうまく逃げられない。
「誰か助けて、助けてよぉ!」
 聞いてくれる人はいなかった。




第拾壱話

はじめの一歩





「あう〜ん、シンジ様ぁ、死んじゃ嫌ですぅ!」
「まったくもぉっ、人騒がせなんだから、あんたは」
 翌土曜日、シンジは自室のベッドの上で苦悶の表情を浮かべていた。
「ちょ、ミズホ…、お願い離して…」
 相当痛いらしい。
「お母さま、お医者さんはなんて言ってらしたんですか?」
 シップを山と積み上げているレイ。
「全身の打ち身はともかく、右手首の捻挫が酷いらしいの…」
 青ざめる三人。
 三人の足元には写真が散らばっていた。
 まずは勝ち誇った表情で即席の雛壇を駆け昇って行くレイ、片手で縛られたままのシンジを引きずっている。
 次にアスカとミズホ、ヒカリを交えての三人官女だ、二人は怒気をあらわにし、ヒカリは引きつった笑いを浮かべていた。
 んでもって雛壇全てを納めた写真、ここぞとばかりにレイがシンジの頬に口づけている。
 続いて雛壇最上部へ這いあがろうとするアスカとミズホ、クラスの有志一同は逃げにかかっている。
 最後に崩壊する雛壇の図、縛られたままのシンジは受け身すら取れなかった。
「…ごめん、ごめんねシンちゃん、あたしが調子に乗っちゃったから」
 しゅんとしているレイ、10分間隔でまめにシンジのシップを取り替えていた。
「別に…いいけどさ、いつものことだし」
 シンジは手首を見てから、時計に目を向けた。
「あ、もうこんな時間じゃないか!」
 そろそろお昼だ。
「ああ!、ダメですシンジ様ぁ!」
 ベッドから降りるのを押しとどめる。
「あんたねぇ、あたし達がなに心配してるのかわかってんの!?」
 凄い形相で睨みつける。
「わかってるけど、今日はちょっと用事あるんだよ」
「何よ用事って」
「…ちょっと」
「ちょっとってなによ?」
「……」
 黙って目をそらす。
「うえええええ〜ん、変ですシンジ様ぁ、最近一緒に帰ってくださらないしぃ、いったいどこで浮気なさってるんですかぁ!」
 途中から決め付けてる。
「何ですって!?、浮気って、シンジぃっ!!」
「うわぁ、誤解だよ違うって!」
 はたこうとした腕にレイが組み付いた。
「ダメだって、シンちゃんケガしてるんだから!、シンちゃんも今日ぐらいお休みしてもいいじゃない、ねぇ?、お母さま」
「そうねぇ」
 アスカとミズホは顔を見あわせた。
「レイ!、あんた何か知ってるの?」
「おばさま教えてくださいぃ!」
 ユイとレイは、困ったような顔をしてシンジを見た。
 シンジは恥ずかしいから黙ってて…、と目で答える。
「あーっそぉ、あたしたちには内緒ってわけね」
 シンジをきつく睨む。
「ふぇーん!、シンジ様ぁ、ミズホは、ミズホはぁ〜〜〜!」
 ぎゅうっと抱きつく。
「痛い痛い痛いってば!」
 とにかく引きはがす。
「別にそう大したことじゃないよ、ただちょっと、その…、恥ずかしいから」
 ああん?っと怪訝そうにするアスカ。
「シンジ様のなさることをバカにしたりはしませんん!」
 力一杯訴える。
「ほら…、「こんなことしてるんだぞ」っていうの、結果が出せなかったら恥ずかしいし…」
「まあいいわ」
 わりとすんなり引き下がる。
「だめです、よくありませんん!」
「良いの!、たまには聞きわけ良くしなさいよね!」
「いつも聞きわけがないのはアスカさんですぅ!」
 ぽかっと殴られた。
「いったいですぅ!」
「くだらないこと言うからよ!、シンジ!!」
 はいっとかしこまる。
「いいわね?、これは命令よっ、今日明日は安静にしてる事!、守らなかったらおしおきするかね!」
 今度はユイにお願いする。
「そういう事ですからおば様、シンジが何をしてるのか聞きませんけど…」
 ここでちょっと影がよぎる。
「ケガしてる時ぐらい休ませてあげてください、お願いします」
 といって頭を下げた。
「アスカ…」
 レイはちょっとだけ感動した。
「アスカちゃん…、いいわ、おばさん感動しちゃった、アスカちゃんの気持ちを無にはできないもんね、あ…、でもそうだ困ったわねぇ…」
 アスカは表情を曇らせた。
「って、やっぱりダメなんですか?」
 ユイは慌てて否定した。
「そうじゃないのよ、ほら、明日はお父さんとお芝居見に行く約束してたの、シンジがこんな状態じゃ、放っておくわけにもいかないし…」
「だったら!」
 レイが乗り出す。
「あたしが面倒見ます!、だってあたしのせいでこうなったんだもん、だからまかせてお母さま!」
 ぶーっ、っとミズホは頬をふくらませた。
「何だかそれってすっごくズルいですぅ!」
「あんたねぇ、看病にズルいも何も…」
「だってだって…」
 何やら妄想しはじめる。
「右手が使えないってことはぁ、お食事はどうなさるんですかぁ?」
 はい、あーんっと、レイがシンジの口に箸をむけている。
 どお?、おいしい?
 レイの微笑みは従来の三割増しだ。
「お勉強だって一人じゃ無理ですぅ」
 〜〜〜で、〜〜〜ね?、わかった?、じゃあ次のページね。
 シンジと並んで勉強机に向かっているレイ。
 さり気なく肩と肩が触れ合っている、教科書をめくる度に漂わせる髪の香り。
 どぎまぎとしているシンジ。
「お風呂だってどうなさるんですかぁ!?」
 シンちゃん髪洗ったげるね?、ほら、痒いところある?
 もう!、恥ずかしがってる場合じゃないでしょ?、前も洗ってあげるからこっち向いて!
 短パンに袖なしのシャツを着ているレイ、だがシャツは濡れて透けていた。
「あああああううん!、そんなシンジ様を誘惑するような真似をするなんてぇ!、あ、さらにおトイレなんてどうなさるんですかぁ!」
 18禁。
「はいはい…、もういいから」
 まだ一人で悶えているミズホ。
「いくらなんでも、そこまでするわけないでしょ、ねぇレイ?」
「え?」
 ぎくりとする。
「なによ今、ぎくっとしなかった?、ギクって、ねぇ?」
「さあねぇん、あはははは…」
 油断ならねぇ…とアスカはジト目で見る。
「でもそうねぇ、確かにレイちゃんだけじゃねぇ…、あ、そうだ」
 ぱんっと手を打つ。
「渚君に頼みましょう、男の子同士だしね」
「「「却下ぁ!」」」
 見事な唱和。
「あたしたち「三人」で面倒見ます!、いいわよね?、シンジ」
「い、良いけどさぁ、別に…」
 歯切れが悪い。
「なによ、あんたあたしたちじゃ不満があるっての?」
「そうじゃないけど…、アスカ、明日は洞木さんとどっかのケーキ屋のバイキングがどうのこうのって言ってなかったっけ?」
「…………ああっ、そうだったぁ!」
 頭を抱えこむ。
「そうでしたぁ!、千円で食べ放題があるからって、楽しみにしてたんですぅ」
 食べる量が尋常ではないためか、毎月の小遣いにはきついものがあった。
「ううっ、今回逃すと、またしばらく我慢しなくちゃいけないし…」
「千円って安いのは、滅多にありませんからねぇ〜」
 じゅるじゅると二人して涎を垂らす。
「行ってくればいいじゃない、ちゃんとあたしが面倒見るからさ」
 つつっと、さり気なくシンジによりそう。
「そうだね、別に心配してもらうほど酷いわけじゃないしさ」
 つーっと、ミズホの頬を涙がつたった。
「あううううん、やっぱりシンジ様はレイさんと二人きりになられたいんですねぇ…」
「いやだからあのね?」
「良いんです良いんです、シンジ様のお決めになられたことでしたら…、でも、でもミズホは生涯シンジ様のことだけをお慕いして…」
「いや、だから大袈裟だってば…」
「そんなことはありませんん、シンジ様が、「あの」シンジ様がたとえ相手がレイさんだとはいえ、二人きりでいいなんておっしゃられるなんて…」
「あのってなにさ、あのって…」
「うえええええん、そんなこと私の口からはとても言えませんん!、シンジ様がいじめるですぅ!」
「あのねぇ」
 結局このあとミズホを説得するためだけに、1時間と45分を要したのだった。






「ふむ…、それでシンジは何をしている?」
 ゲンドウはいつもの会議室で電話を受けていた、相手はユイだ。
「今アスカちゃん達に体を拭いてもらっているところですわ、シンジが一日二日お風呂に入らないぐらい、別に良いじゃないかって言うものですから…」
「ふ、シンジ、羨ましい奴め」
 ちょっとだけ妄想にふける。
「あなた、今なにか言いましたか?」
「ん?、何か言ったか?」
 シーンっと、無言、無音で時間が過ぎる。
「あなた?、帰ってきたらゆっくりとお話ししましょうね?」
 角を生やして微笑んでいるユイが見えた。
「ちょっと待てユイ!」
 ガッチャンっと切れる。
「ふ、大変だな碇」
 将棋をさす指が笑いで震えている。
「うるさいぞ冬月」
 耳まで赤い。
「それにしても、もう少しなんとかならんのか?、受験に失敗すれば計画も何もあったものじゃないのだぞ?」
「ああ、わかっている、スケジュールの遅延は認められんことだしな」
 ファイティングポーズを取る。
「全ては流れる時のままに…、だよ冬月、希望はしたいがな、強制や強要をするつもりはない」
「ならどうする、こいつは」
 ちらつかせるファイル。
 タイトルに「アイドルプロジェクト」とあった。
「いざとなれば彼だけで行う」
「そうか、ならもう何も言わんがな、せめて高校ぐらいはちゃんと行くように叱ってやれ、それも親心だ」
「ああ、そうする」
 自分の考えの中に埋没する。
「なにを考えているのだか…」
 当然のごとく、ユイの機嫌の取り方についてを思案していた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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