Episode:13A





 世の中は真っ暗闇で、シンジはミズホと向かい合っていた。
「お別れです、シンジ様…」
 ぶぼーーーーっと汽笛が鳴る、オレンジ色のついたての向こうで、影法師が動きだした。
「はううーーー!、シンちゃんが知らない女の子と並んでるぅ!」
「あんたバカぁ?しょうがないじゃない、クラスが違うんだから」
「だってだってだって、中学の時とは違うんだよ?、シンちゃんとあたし達のことを知らない女の子だっていっぱいいるのに、心配じゃないの?」
「う、確かに、変にもてるからね、あいつ」
「でしょでしょ?、その上自覚ないの、危ないったらないと思わない?」
「んー、でも大丈夫なんじゃないの?」
「え?、どうして?」
「だってさぁ、シンジってば初日から「ホモ」って噂がたっちゃってるし」
「そういやそうだね」
「もう全校中に知れわたってんじゃないかしら?」
「かしらかしら、御存知かしら?」
「あなたはホモだって御存知かしら?」
もちろん僕は知ってたさぁ!
 カヲルのドアップが飛び出した。



第拾参話「お引っ越し」



「はうあっ!」
 布団を蹴っ飛ばしておきあがる。
 ドキドキと暴れる心臓を気にしながら、シンジは右を見て、左を見た。
 カレンダーを見る。
「よかったぁ、夢かぁ…」
 昨日、入試がすんだばかりだ。
 時計を見る、10時、シンジは適当にタオルを出すと、顔を洗いに部屋を出た。
「おはよ〜」
「おそよ〜」
 居間、クッションを抱いてごろごろと転がっているレイ。
「…なにやってんの?」
「ん〜暇だなぁって思って」
「父さん達は?」
「出かけちゃったよ?、仲良く手を繋いで…」
「それはちょっと見たかったかもしんない…、で、アスカたちは?」
「引っ越しの準備してるよ?」
 へ?っと、きょとんとする。
「引っ越し?、誰の?」
「誰って…、もしかしてシンちゃん、知らなかったの?」
「なにがさ?」
 ニマっと意地悪な顔をする。
「アスカのお父さん、ハワイ支部に転勤になるんだって、それでね?、アスカのお母さんもハワイに行っちゃうの」
「え?、おばさんが!?」
「そうだよ?、それでアスカたちも引っ越しってことになったの」
 愕然として、シンジはその意味を噛み砕こうとした。
「うそ…、だってアスカからは何も聞いてない…」
「だって、シンちゃん冬月さんのとこ通ってたから、話すタイミング無かったんだよね」
 隠れてペロっと舌を出す。
「そうだよ…、そんなの…、そんなの聞いてないよー!」
 ぷっくくっと笑いが漏れる。
 あまりの唐突な展開に、貧血を起こしそうなシンジ。
「おはよーございまーっす!、シンジ起きてるぅ?」
「あ、シンジ様おはようございますぅ」
 にこにこと明るい二人。
「引っ越しの準備終わったのぉ?」
「切りないから…」
「それにそろそろシンジ様が起きていらっしゃる時間でしたしぃ」
 つつっと隣に立つ。
「シンジ様、どうかなさいましたか?」
 顔色が悪い。
「熱でもあんじゃないの?」
 おでこにおでこをつける。
「あ、な、なんでもないよ…」
 一歩下がって離れる。
「くっさー、あんたまだ歯ぁ磨いてないんじゃないの?」
「そんなことよりもぉ、やっぱり変です、シンジ様ぁ…」
「んでも熱はないみたいだしねぇ…」
「違いますぅ、いつもでしたら「うわぁ!なにすんだよ」って…」
「なによあんた、あたしがシンジに嫌がられてるって言いたいわけ?」
「はいですぅ」
 ごん!
「いったいですぅ〜」
 涙目。
「痛くしたの!、で、シンジ…、あれ?」
 いない。
「歯を磨きにいっちゃったよ?」
 笑い転げてるレイ。
「あんた…、なにか言ったんじゃないの?、シンジに」
「うん、言ったよ?」
「なにを、何を言ったんですかぁ!」
 首を絞められる。
「く、苦しい…」
「ミズホ!、それじゃ喋れないでしょ!!」
「早く言うですぅ〜〜〜!」
 きゅう☆
「あ、いっちゃいましたぁ」
「じゃないでしょ!、はやく起こしなさい!」
「はいですぅ!、ではミズホ特製、気付け専用ハーブティーを…」
 これがとどめになった事は、誰の目にも明らかだった。






 第三新東京市の人口は、まだまだ増加傾向にある。
 その事を考えれば、ゼーレホームがいかな利益を上げているのか、答えるまでもないだろう。
「だからといって、人出不足と言うこともないだろう?」
「あなた?、今はお客さんなんですから…」
「ああわかっているよ、ユイ、だがだからこそ言っているんだ、このようなことではサービスが悪いだのと人の口にのぼるのも、そう遠いことではないだろう、社員教育もできていないようでは話にならん、ここは一つ重役会議を開いてだなぁ…」
 ゼーレ本社近くのビル、ゼーレホームはその一階にあった、窓口は10、それぞれにお客がいるのはよしとしよう。
「ほらほら大声で…、皆さんが驚いてらっしゃるじゃないですか」
 窓口嬢に軽く会釈する。
 引きつった笑いが帰ってきた。
「お、おいどうするよ?」
「どうするって、あれ、極東マネージャーだろ?」
「らしいぜ?、初めて見たよ」
「うんうん、部長さんとか青い顔して隠れちゃって、どうしたらいいのかなぁ?」
 一部の心配をよそに、すたすたと白衣の男がゲンドウへと近寄った。
「いやいやいやぁ、すまん、待たせたなぁ!」
 馴れ馴れしげに手を上げる。
「岸和田博士、君か…」
 ゲンドウはくいっと眼鏡を指で押し上げた。
「ゲンドウが来たってんで、上役連中がびびっちまったんじゃよ、なぁに安心したまえ、こんなこともあろうかと、今日はスペシャルコースを用意しておる」
 くいっと袖を引かれるゲンドウ。
「あなた…、どなたなんですか?」
「岸和田と言ってな、以前は赤木君の研究室にいたそうだ」
「まあ」
 手を口元にあてて驚いた。
「やーすかわくん、準備はいいかね?、ん?、こちらの方は?」
「はじめまして、私、妻のユイと申します」
「あーあー、そうかね、君もすみに置けんなぁ」
「何を言っている?」
「いや赤木博士から色々と聞いておったもんでな」
「ななななな、何を言っている!?」
「お、安川君できたかね?」
「こら博士!」
「ん?、なんじゃ欲しいのか?、せんべい」
 ポケットから取り出す、包装紙に岸和田のロゴマーク入り。
「欲しけりゃやるぞ?、異次元〜が入っておって、なかなか体に高カロリーじゃ」
「いらんわ!、なんだその異次元〜ってのは!」
「やーっすかわくん、早くせんか、お客さんがお待ちかねだぞ」
「ごまかすなー!」
「では行くぞ、最新科学が造り上げた、デジタルの桃源郷へとな!」
「人の話を聞けというに!」
 はーはっはっはっと、岸和田は先さきと歩き出す。
「まあまあ、マイペースな方ですねぇ」
 ユイのこめかみに青筋マーク。
「ゆゆゆゆゆ、ユイ、彼の言ったことを間に受けるな!」
「あら、あたしは何も言ってませんことよ?」
 おほほのほーっと不気味な笑い声を上げるユイ。
 一部始終を見ていたお客が漏らした。
「この店…、大丈夫なんじゃろか?」
 従業員も同じく思った。


「で、これが最新式のヴァーチャルモデルルーム体験版じゃ」
「貴様、後でゆっくりと話をつける必要があるな…」
 何故かお尻をさすっているゲンドウ。
「へえ、擬似体験でお部屋を見てまわるわけですか」
 お尻をつねって、満足したユイ。
「うむ、このヘッドセットにパワーグローブをつけて…、ほれ何をしとるか、ぼさっとしとらんでそこに座りたまえ」
 プラネタリウムで使うような機械があった、それとビルの2階いっぱいを埋めているコンピューターにケーブルの束。
「まぁだ小型化には時間がかかるからな」
「…うちでは、一従業員にこのような遊びを認めていないはずだが?」
「やーすかわくん、スイッチオンじゃ!」
「岸和田ぁ!」
 ぶうんっとヘッドセットから網膜に直接映像が投影された。
「耳には超豪華、サラウンドトーンで音楽を送っておるぞ?」
 だが聞こえてきたのはこんな会話だった。
「一つだけお願い…、あたしのことは「ナオコ」と呼んで」
「いやしかし赤木博士…」
「お願い!、ナオコ…と呼んで…」
 投影される映像。
「…わかりましたよ、ナオコさん」
 ゲンドウが随分と若い。
「さん付けなんてやめて!」
 しな垂れかかる。
「もっと呼び捨てる感じで…、それでいてほんの少しの尊敬と、「女」に対する愛がひとかけら欲しいのよ」
 「愛」のところで、ユイがピクっと反応した。
「おい?」
 だりだりと汗をかいているゲンドウ。
「……ナオコ」
「目線はいらないの!、それでいて作らないでもっと自然な感じで…」
「おいこら…」
「………ナオコ」
「声はそう、良い感じね?、でもポーズがちょっとわざとらしいかしら?」
「岸和田ぁ!」
「ナオコ…」
「そうそう、男は背中で語らなくっちゃね?」
「ナオコ……」
「そう、それでもう少し低音で」
「ナオコ…」
「もうええっちゅうじゃあ!」
 がっしゃーんっと岸和田が機械をひっくり返した。
「ええい、いちゃいちゃいちゃいちゃと見せつけおって」
「見せたのはお前だろう!」
「ええいっ、こんな機械ではラチがあかん、やーすかわ君!、車を出せ、出かけるぞ!!」
「どこへ行くつもりだ!」
「きまっておろう、モデルハウスを直接見に行くんじゃよ、その方が早いわい」
「だったら始めからそうしろうっ!」
 ユイが恐くて振り返れないゲンドウだった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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