Episode:14C





「ケンスケぇ!、合格発表見てきたったでぇ…って、お前なにしとんのや?」
 ケンスケの部屋、三つあるモニターがそれぞれ別のデータベースにアクセスしていた。
 さらにプリンターは止まることなく印刷を続けている。
「やあ、鈴原君」
「おっ、なんやタタキさん、こないなとこで、なにしとるんですか?」
 珍しい人間がいた、ケンスケと一緒になってデータベースを探っている。
「この間のことでケンスケ君の情報収集能力に感心させられてね、以来ここで、情報を集めてる」
 カチャカチャとマウスのクリック音が響く。
「んで今日は何しに?」
 新聞を指し出すケンスケ。
「これだよこれ、今朝の新聞、読んでないのかよ?」
 自分で配達しているせいか、トウジはテレビ欄以外の部分を読む気になったことはなかった。
「なんやねんな…、二人の天使ぃ?、これがどないしたんや?」
「ほら、キィちゃんがライブやった時のこと、覚えてないのかよ?」
「ああ、あったなぁ、そんなこと…」
 まだシンジやて気ぃついとらへんのか?
 トウジは呆れた。
「あの時の電波ジャック、歌ってたのがこの二人だったろ?」
「ふ〜ん…」
 興味無さげに、新聞を放り出す。
「けどあれは、アホなファンが勝手にやったことやいうて、それで終わりになったんちゃうんですか?」
 甘いなっと、含み笑いを漏らすケンスケ。
「この二人が来るってんで、ほら…」
 モニターを指差す。
「なんやぁ?、キィ再びか?、コンサートジャックやてぇ!?」
「そうなんだよ、どこから発生したのか、噂が先行しててね」
 見れば、印刷もその関連記事だった。
「ふ〜ん、それでやろか?」
「何がだよ?」
「いや、あんなぁ?、さっきシ…、キィを見たんや」
 キラリ!
 ケンスケの眼鏡が、まさにそうとしか形容のしようがない光り方をした。
「そう、そうか…」
 その情報を流そうとするケンスケ。
「それはちょうど良いな…、なあトウジ君、キィちゃん呼び…、探し出せないか?」
 苦笑いを浮かべる。
「はあ…、ほなら知り合いに当たってみますわ」
 ケンスケの夢を壊さないように、言葉に気をつかう。
 そやけどシンジ、なんであないなカッコでうろついとったんやろ?
 トウジは疑問符を浮かべたままで、ケンスケの部屋を後にした。






 まるで震動はなく、乗っているのが車だと忘れてしまいそうな程、高級な外車だった。
「うわあ、なんだかおかしな感じだね?」
 マイはキョロキョロと窓の外を見た。
 今年で14歳…、のわりには、まったく成長していない。
「そうね、飛行機、それに車、普通に来る事はないものね?」
 マイの隣にメイ。
「で、マネージャーさん?、これからどうするの?」
「うん、ちょっと待ってね…」
 手帳をめくるミヤ。
「ぷっ」
 吹き出すマイ。
「言わないでよ?」
 釘をさすが…
「やっぱり無理がない?」
 メイは笑いを堪えていった。
 パンっと手帳を閉じる。
「だってじゃんけんで負けたんだもん、仕方が無いじゃない」
 ぶすっくれる。
「だいたい、リキがあんなにやりたがってたのに…」
「だってリキじゃマネージャーなんて勤まんないもん」
「サヨコはツバサに「餓死するよぉ!」って捕まってたしね?」
「うう、こういうのはカスミの方がぴったりくるのに…」
「だめだめ、カスミが甲斐さん以外のために、そんなめんどくさいことするわけないもん」
 運転席を見る。
「テンマがついてきてくれただけでも、良かったと思わなきゃ」
 テンマは無言で運転するだけだ。
「大体、なんでコンサートなんかに出なきゃいけないの?」
「しんなーい!」
「甲斐さんは、思いっきり歌ってきなさいって、それだけ」
 きっと慌てふためくのを見て、楽しむつもりなんだなと思う。
「ここ、もう第三新東京市だよね?」
 信号で停まっていた。
 もう完全に街の中だった、人通りも多い。
「ええ、そうね」
「じゃああれ、シンジお兄ちゃんじゃない?」
 やっほーっと手を振るが、スモークシールド&防音のために伝わらない。
「ええっ?、でもあれ女の子じゃないの?」
 髪が長い、ただゆったりとした服を着ているので、体格からは判別できなかった。
「そんなの確かめれば判ることだよ!」
 ドアを開けるマイ。
「あ、ちょっとマイ!」
「行ってくるねぇ!」
 元気に駆けだしていく。
「ちょ、ちょっと…」
 あっという間に雑踏に紛れてしまった。
「ど、どうしよう…」
 おろおろとするメイ。
 ブッブー!っと、クラクションに急かされた。
「ちょっとテンマ、後ろ怒ってるよ?」
 だがテンマは反応しない。
「テンマ?」
 テンマはじっと、目を閉じたままでその娘を追っていた。
「…ロストナンバーズ」
「え!?」
 テンマの呟きに驚くミヤ。
「と、とにかく車をよせて…」
 メイの言葉に従って、テンマは車を停めた。
「間違いない、この間まで追っていた奴だ」
 断定する。
「でも、あれは海に沈んだって…」
 言いながら、ミヤは自分の言葉に自信が持てなかった。
 テンマが「見間違う」ことは絶対に無いからだ。
「形は違うが、間違いない」
 テンマはそれ以上何も言わずに車を降りた。
 そのままマイの後を追って消えていく。
「どうしよう、もし交通事故なんかにあったりしたら…、ううん、それどころか人さらいにでも目をつけられたら…、だってあんなに愛らしいんだもん、ああっだからってそんな香港に売り飛ばそうだなんて!」
「ないない、そんなこと絶対にない」
 ぱたぱたと手を振って否定するミヤ。
「とにかく、メイだけでもステージ入りしなきゃ、ほら行こう?」
「ああマイ、知らないおじさんにアメ玉貰ったからって、ついて行ったりしちゃダメだからね?」
 あっちの世界から帰ってこない。
「しょうがないなぁ…」
 ミヤは運転席に乗り込んだ。
「無免許だけど…、バレなきゃ良いよね?」
 ぎこちなく、ミヤは車を動かした。






「お、シンジやないか、どないしたんや?」
 帰り道、トウジの目の前でシンジが壁をよじ登っていた。
「あ、トウジ、助けて!」
 と言って、壁をよじ登って向こう側へ隠れた。
「きゃー!」
「うわぁ、ごめんなさい違うんですぅ!」
「なによこの痴漢変態!」
「なんだどうした!」
「あ、お父さん、こいつがあたしの着替え覗いたのぉ!」
「誤解ですってばぁ!」
「誤解も六階もあるか!、うちの娘はなぁ、うちの娘はなぁ!、貧乳に悩んでいるんだぞ!」
「ああっ、お父さんそれは言わない約束でしょ!?」
「でもやっぱり貧乳じゃ男はできんし、めんこい水着も着られんし…、貧乳に生きる価値はないってのかこらぁ!」
「お父さん!、誰もそんなこと言ってないじゃない!」
「やめてよ、貧乳の人が聞いたら泣きたくなるじゃないか!」
「貴様のぞきの分際でぇ!」
「うわああああああああ…」
 悲鳴が途切れた。
「何やっとんのや、あいつ…」
「あ、鈴原くん!」
 息を切らして、レイが駆け寄ってきた。
「シンちゃん、見なかった?」
 壁の向こうを指す。
 ちょうどシンジが勝手口からぽいっと捨てられた。
「シンちゃん!、…なにやってるの?」
「うう、誤解なのに…、違うのに…」
 ズタボロのシンジ。
「いったいどないしたんや?」
「アスカとカヲルがケンカしちゃって…、でミズホが暴走モードに入ってて…」
「なんや、いつものことやないか…、それとも」
 ちらっとレイに介抱されているシンジを見た。
「そのキスマークと関係あるんか?」
 慌てて隠そうとするシンジ。
「なんや、誰につけられたんや?、惣流か?、信濃か?、そ・れ・と・も・…」
 にたにたとレイを見る。
「ちっ、違うよ!、これはカヲル君につけられて…」
 はっとして自分の口を塞ぐ。
「おっしいなぁ、ケンスケがおったら、絶対写真撮っとったやろに…」
「やめてよ!、そんなことになったら恐ろしくって、外歩けないじゃないか…」
 あいかわらずニヤニヤとしているトウジ。
「なに?」
「今頃ケンスケのやつ、ネットで噂ばらまいとるで?」
「噂ってなんだよ?」
 両手を胸元で組んで、空を見上げるトウジ。
「ああっ、ぼくのキィちゃんがこの街に!」
 ぶぅっと吹き出すシンジ。
「な、なんだよそれ!」
「ええんや、ええんや、わしは見たんやで?、ちゃんとこの目でな」
 といって覗きこむ。
「まさかシンジぃ、あれで目覚めたぁ〜、なんてことないやろな?」
 シナを作ってからかう。
「ねえ、ほんとに見たの?」
 疑わしげにレイ。
「ほんまやて…、って、なんや綾波がまたなんかさせてたんとちゃうんか?」
 首を振るレイ。
「違うよ?、それにシンちゃん、今日ずっとあたし達と一緒にいたし…」
 う〜んっと首をひねる。
「なんやぁ、そやったらホンマ、ワシの見間違いかぁ…」
 残念そうなトウジ。
「ねぇ、その子そんなに似てたの?」
「くりソツやったで?、またカツラ被って、何しとんのや思たわ」
 うーんっと、さらに首をひねるレイ。
「それよりなぁ、悪いんやけどシンジぃ」
 その目に嫌なものを感じる。
「実はケンスケの所にタタキさんが…」
 ダッシュ!
 だがその腰にレイがタックルをかけた。
「離して、離してよぉ!」
 泣きながら嫌がっているのだが、嬉しそうにも見える。
「んで、なに?」
 わくわくして、代わりにレイが聞いた。
「シンジ…、キィを呼んで来て欲しいんやと、どうもドームに乱入するつもりらしいわ」
 にやり。
「やだよ!、もう絶対にあんなことしないからね!」
 何とか逃げ出そうと、シンジはもがいた。
「えーっ、どうしてぇ?、シンちゃんの女装、結構可愛くってはまってたじゃない」
「男がはまってどうするのさ!」
 じたばたと暴れる。
「そ、それにほら、あのカツラとかってレンタルだったじゃないか、もうそんなのないしさ」
 ニヤリとレイ。
「大丈夫、問題ないから」
「え?」
 青くなるシンジ。
「おば様が幾つか持ってるの、ウィッグ、それとあたしの服貸してあげるから」
 だらだらと汗が流れる。
「良かったねシンちゃん、これであたし達と一緒にドームに入れるかも?」
 シンジは泣きたくて堪らなかった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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