Episode:14G





ボォオオオオオオオオオオオ!
 そしてキィは歌った。
 それは歌というには、余りにもおおざっぱ過ぎた。
 音階も、音程も、リズムもなく、そして三半規管を揺さぶった。
 それはまさに殺人音波だった!
「うきゅるるるるるるる〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
 両耳を塞いで目を回すマイ。
「ちょっとちょっと、なによこれー!」
 メイも同じ。
 観客席も同じだった。
「やめてくれーーーー!」
「誰か止めてー!」
「い、碇…」
 冬月の呷き。
 ゲンドウは耳栓をしていて気がつかなかった。
 その時、たしかにセットが揺らいだ。






「いたぞー、こっちだー!」
「追いつめろー!」
 セットの裏側、二人は骨組みを器用に昇っていた。
「何笑ってるのよカヲル!」
 くっくっと、はるか下で笑いを漏らしている。
「たまにはお仕置きされることだね」
「カヲルー!」
「テンマ助けてよぉ!」
 すでに雲隠れしていた。
「あー!、ずるいぃ!」
「待てー!、逃げるなぁ!!」
 十数人、一斉に骨組みに取り付いた。
「あー!あー!、ダメだって昇ってきたら…」
 SSSに向かってレイが叫んだ、だが当然のごとく聞こうとはしない。
 ギシッ!
 一瞬きしんだ。
「ストーップ!」
 誰の叫びだっただろうか?、だが全員がその叫びに従った。
「いいか、動くなよぉ?」
 冷や汗が時の流れを告げる。
ボォオオオオオオオオオオオ!
 そこにキィの歌声が響いた。
「うわぁあああああ、何だこれぇ!」
「やめて許して!」
「耳が腐るぅ!」
 ぐらり!
 セットが大きく揺らいだ。
きゃああああああああああ!
 それは観客席へ向かって倒れていった。






「シンちゃん、寝ちゃダメだよ、シンちゃん…」
 シンジをゆするキィ。
「あいてててててててて…」
 体を起こすシンジ。
「あれ?」
 アスカが泡を吹いていた。
 ケンスケが死んでいた。
 そして周りは、死屍累々といった状況だった。
「いったい何があったんだろう?」
 なぜか洗濯物の山の中にいた、もともと乗せていたらしいカートがひっくり返っている。
「えっと…」
「ん…」
 死体の一つが動いた。
「あ、あの…、大丈夫ですか?」
 親切なシンジ、だが!
「え、あ、きゃーーーーーーー!」
 その子は叫んだ。
「ななななな、なに!?」
 叫びにつられて、起き上がるゾンビたち。
「あああ、ひでー歌…、ああっ、てめぇ!」
「は、はい!?」
「まだこんな所にいやがったのか!」
「しかも増えてるぅ!」
「あわわ、ごめんなさーい!」
 わけがわからず、シンジはキィの手をとって逃げ出した。


 ドームから出た所で、ようやくシンジは息を落ち着けた。
 そんなに暗くなかった、むしろ月明かりは眩しいぐらいだ。
「うう、これからどうしよう?」
 思わず途方にくれてしまう。
 問題は、もと着ていた服に着替えられなかったことだろうか?
 あと、テレビ中継されていたという事。
「うう、僕が何したって言うんだよぉ…」
 後ろ指をさされながら、キィと立ちつくす。
「人生の裏街道って、きっとこんな感じなんだろうな…」
 ちょっとだけ垣間見たりなんかしている。
「タクシー拾って…、だめだ、カード持ってないや…」
 昼間、無理矢理着替えさせられた時に手放したままだった。
「どうしよう…」
「どうしよう…」
 シンジのマネをして悩むキィ。
「あ、お父さま」
「え?」
 顔を上げる、少し離れた所にトレーズが立っていた。
「え?、あの…」
「知っているよ、碇シンジ君、だね?」
 トレーズは優しげに微笑んだ。
「は、はい…」
 悪い人じゃないみたいだ…
 それがシンジの持った第一印象だった。
「娘がすまなかったね、病気で、記憶にまとまりがないんだよ」
 ああ…、と納得する。
「ほら、お礼を言いなさい」
「はい」
 くるっとシンジの方を向く、先程までとは違い、はっきりと目の焦点が合っていた。
「レーちゃんによろしく…」
 そう言ってにっこりと微笑んだ。
 おもわず自分の微笑みも、こんな感じなのかな?っと考えてしまった。
 びゅーっと一陣の風が吹いた。
「え?、あれ?」
 目を閉じたのは一瞬だったのに、二人の姿は消えていた。
「いったい、どうなっちゃってんだろ?」
 答えはどこからも返ってこなかった。






「くっくく…っく…」
 笑いを堪えている甲斐。
「うじゅ〜、死ぬかと思ったぁ…」
 殺人音波の上にセットが倒れてきたのだ、当然だろう。
「まったく、何してたのミヤ!」
「ごめ〜ん…」
 メイに叱られている。
「いや、それぐらいで許してあげようじゃないか」
 甲斐は上機嫌だった。
「でもお仕事減らないかなぁ?」
「えー!、歌えなくなっちゃうのぉ?、そんなのヤだよぉ」
 すねる。
「いや、素人を使おうとした向こうのミスと言うことになった、大丈夫だろう」
「よかったぁ!」
「それより…」
 テンマを見る。
「彼女は?」
「見失った」
 憮然として答える。
「サハクイェルが見失うとはな」
「しょうがないよぉ、だってセットが倒れたの、すっごかったもん、ねぇ?」
 だがテンマは首を振った。
「見失ったのはセットが倒れこむ一瞬前だ、まさに消失といった感じだった」
 ふむ…っと考え込む甲斐。
「いや、生きていると言うことがわかっただけでも良しとしよう、で、他に報告する事は?」
 懐から取り出す写真の数々。
「なになに?」
 レイと一緒に女の子を襲っているミヤの写真。
「こらっ、ミヤ!」
「ひーん!」
「これは罰として、そこの壁に貼り付けておこう」
「ふえーん、やめてよ甲斐さぁん!」
 味方は誰もいなかった。






「うおーん、キィさぁん!」
 ケンスケは泣きながら帰り道を歩いていた。
 キィがいつの間にかいなくなってしまったからだ。
 3つの風が凄い勢いで駆けぬけていく。
「ちょっとレイ!、なんのつもりよ!」
「おとなしく型取らせなさーい!」
「嫌ですぅ!」
 レイの背中には戦利品ともいえるパイ拓の束がくくりつけられていた。
「ちょっとあんたどうかしてるわよ絶対!」
「いいもん、あたしは復讐を誓ったのぉ!」
「迷惑ですぅ!」
「こんな事してる場合じゃないのにぃ!」
 早く帰ってシンジの唇消毒するんだ!
 もちろんあたしの唇でね?
 あ、でもそうすると、あの阿呆と関節キスってことになるの!?
 いやぁ!、そんなの絶対にイヤー!
 急に方向転換するアスカ。
「このアホウ!」
 思いっきり靴を投げつけた、すかーんっとケンスケを直撃する。
「すきあり!」
 レイが組み付いた。
「しまった!、ミズホ…」
「おさきですぅ〜〜〜」
「ああ!、薄情者ーーー!」
 アスカの悲鳴が、月に向かってこだました。
 月はもう、かなり満月に近かった。



続く







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