Episode:20 Take6



「アスカ!」
「シンジ様!」
 玄関先へ飛び出してくる。
「シンちゃん襲われなかった!?」
「ご無事で何よりでしたぁ!」
 シンジに抱きつく二人に、アスカは剣呑な表情を浮かべた。
「ちょっとなによ、あんたたち人を猛獣みたいに…」
「みたいにじゃなくて…」
「そのものですぅ!」
 うがぁっと襲いかかるアスカ。
「シンジ君…」
「カヲル君!」
「僕を置いて、なにをしてきたんだい?」
「何って…」
「言えないようなことをしてきたんだね?」
 カヲルの他に、睨むようなレイ、心配げなミズホ、それにバラすな!っとアスカの視線までもが混じりあった。
「これ、買ってきたんだ…」
 下げていた袋を見せる。
「タペストリー、これで普段は窓を隠しとこうと思って…」
「あらシンちゃん、帰ってきたのね?」
「母さん!」
 助けの神とばかりにすがろうとした。
「ご飯食べてきたんでしょ?、おいしかった?」
 だが女神は無慈悲にも突き放した。
「シンちゃん!」
「シンジ様!」
「魔鈴って雑誌にもよく載るのよねぇ…、シンジが行かないならお父さんとって思ってたんだけど…」
「シンジくぅん…」
 すがってくるような三人に…
「はは…、じゃあ、今度はみんなで行こうか?」
 としかシンジには言うべきセリフが見つからなかった。






「…おい、惣流から電話だ」
「なんやてぇ〜?」
「作戦は失敗、よって肖像権として売り上げの8を上納せよ、だってさ」
「わしらの苦労って、一体なんやったんやろうなぁ?」
「知るかよ…、綾波にも7:3の7を貰うからね!って宣告されたしなぁ…」
「ま、信濃にも合意取り付けられたし…、収穫としてはまあええ方とちゃうかぁ?」
 トウジの部屋で、打ち捨てられた屍のように転がってる二人。
「全ては、夏のために!」
「もたんわ、夏まで…」
 奇妙なものを見つめるような目で、トウジの妹ハルカは覗きこんでいた。
 二人とも何してんの?
 どうしても聞きたかったが、できないでいるハルカであった。






 子供部屋で寝っころがっているシンジ。
「アスカ…、本当にどうしちゃったんだろう?」
 機嫌が良くなったり、悪くなったり…
 その上魔鈴では急に「気持ち悪い…」と口を押さえて、トイレに駆けこんでいった。
「それに最近、甘い物ばっかり欲しがるし…」
 ふと窓際でマンガを読んでいるレイが目に入った。
「レイ?」
「なに?、シンちゃん」
 ん?っと顔を上げる。
「女の子ってさ、急に機嫌が良くなったり、悪くなったりってするものなの?」
 ん〜っと考え込むレイ。
「人にもよるけど…、けっこう気分的だったりするから…」
「そう…、あとさぁ」
「ん?」
「ご飯食べてて急に気持ち悪くなってもどしかけたり、甘い物ばっかり欲しがったりって言うのは?」
 訝しげなレイ。
「シンちゃん、誰のこと言ってるの?」
「え?」
「だってそれってば、まるで赤ちゃんができた時の感じじゃない?」
 サーッと血の気が引くシンジ。
 アスカ、まさか!
 恐い考えになる、アスカの隣に知らない男が。
 しかも二人で赤ん坊をあやしている。
「はは、まさか、そんな…」
 一人でぶつぶつと口走りはじめたシンジを見て、レイは「変なの?」とそれだけで片付けた。






「ねぇ、早くぅん」
 深夜の台所。
 流れてくるのは甘える声。
「だからまだ早いよ…」
「いいの…、だってずっと待ってたんだから…」
 廊下にまで伸びてる影、その影が寄り添うように近づく。
「ねえ、またなにかあったの?」
「どうして?」
「ん…、いつものアスカに戻ってるから…」
 バカ…
 そんな呟きが聞こえた。



「…また増えてる」
 ううっと涙ぐむアスカ。
 洗面所で体重計の上に乗っている。
「あら、どうしたの?」
 そこに洗濯物を抱えたユイがやってきた。
「おば様ぁ〜」
 泣きつく。
「明日から、あたしのご飯減らしてぇ〜」
 体重計に気がつくユイ。
「あらあら、でも気にするほどじゃないでしょう?」
「でぇもぉ、この体脂肪率が、体脂肪率がぁ!」
 見せる。
「(検閲削除)?、でもこれ、機械がいい加減だから…」
「へ?」
「わりと適当なのよね?、葛城先生がくれたんだけど…」
 あの酒飲みがぁ!
 ちょっとだけメラっと炎が燃え上がる。
「それにアスカちゃん、別に太ってないじゃない」
「嘘!、だってみんな太ったって言うんだもん」
「じゃあこっちに来てみて?」
 そのまま脱衣所へ連れ込む。
「お、おば様?」
「ほら、脱いでみて?」
「う、でも…」
「いいから、ほら…」
 無理に脱がせ、下着姿にさせる。
「うう、やっぱりブラとか食い込んでるし…」
 自分で泣きたくなってくる。
「あら、ちがうわよ、サイズが合ってないだけじゃない?」
「やっぱり太ったんだぁ…」
「まっすぐ立ってみて?」
 正面から、次に横を向かせる。
「やっぱり…」
 太ったと言われそうで恐い。
「アスカちゃん、これは太ったって言わないのよ?」
「でも、ブラがちょっときついし…」
「これはね?、グラマーになったって言うの」
「ええ!?」
 バン!っと壁に手をつき、アスカは食い入るように鏡に見入った。
「安心していいわ、でもこれ以上今の下着で我慢してたら、プロポーションが崩れちゃうかもね?」
 微笑むユイに、アスカは「そんなの困る!」と泣きついた。



 食べていいんだ、あたしは食べてもいいのね?
 アスカはうきうきと冷蔵庫を眺めている。
 もちろんシンジの隣に座って。
 必要以上に近づけられている椅子。
 シンジにもたれかかっている、まだ少し濡れている髪が、シンジにはちくちくと痛かった。
 アスカ…、ほんとにどうしちゃったんだろ?
 レイの言葉がグルグル回る。
「アスカ…」
「ん、なに?」
 幸せそうな顔、ピンク色の唇が小さく開く。
 それに見とれるシンジ。
「シンジ?」
 覗きこむような視線、ごくり、思わず喉を鳴らしてしまう。
「…あんた何考えてんのよ?」
「ご、ごめん!」
 慌てて離れる、シンジはアスカに背を向けた。
「謝る事無いでしょ?」
 その背にすがりつく。
「アスカ?」
 シンジはもう一度口にした。
「なぁに?」
 少し広くなった背中に、アスカは胸を高鳴らせる。
「もし…、もし心配事があるなら相談してよね?」
「え?」
 背に押しつけていた頬を離す。
「僕…、なんの役にも立てないかもしれないけど…」
「そんなことないわよ」
 アスカはシンジの体に腕を回した。
「ありがと、シンジ…」
「アスカ…」
 誰にも言えない悩みなんだね、僕にも…
 シンジのくせに、無理しちゃって…
 やっぱり…、そうなの?
 でも、太ったかどうかなんて、相談できるわけないじゃない…
 アスカ…、僕以外の人と…
 シンジの頭の中には、しっかりとあたしが居るのね?
 ううん、苦しいのはアスカなんだ、僕のことは関係ないよ…
 だからシンジ、すぐに気がついてくれるんだ、あたしのこと…
 二人の視線が絡み合う。
「アスカ…」
「シンジ、ごめんね?」
「ぼくこそ、アスカの悩みに気がついてあげられなくて…」
 シンジ、気がついてたの?
 アスカ、全部話してよ…
 シンジは体を動かした。
 アスカへと向き直る。
「あたし、バカだったのよね、こんなことでさ…」
「違うよ、女の子には大事なことだよ…、そうでしょ?」
 うん、そうなの…、でもそれもシンジのためよ?
 自分で自分を傷つけないでよ…
 アスカはシンジの胸に、体を預けた。
「だけど、シンジを傷つけちゃったもの…」
「傷ついたのはアスカだよ、僕なんてどうでもいいさ…」
 アスカの体を抱き締める。
 改めて知るアスカの豊満な体の感触。
「言えなかったの…、でも、このままだと気づかれちゃうのも時間の問題だったし、焦ってたのね、ホントばかよ…」
 シンジは愛おしいものを守るように、抱く腕に力を込めた。
「たかが体重のことでね?」
 え?、体重!?
 この瞬間、シンジの腕から力が抜けた。
「きゃん!」
 急に離されて、床に倒れるアスカ。
「いったぁ!、ちょっとばかシンジ、なんで急に離すのよ!!」
「え?、あ、ごめん!」
 ちらりと冷蔵庫を見る。
「でもほら、もうできてるよ、プリン」
「あ、そうそう!、プリン、プリンっ、プリンー!」
 幸せそうに冷蔵庫を開ける。
 しゃがみこんで冷蔵を覗きこむ後ろ姿に、「ホント、僕もバカだよな」と、シンジはほっと胸をなで下ろした。
「はい、シンジ、あーん」
「あーんん!?」
 ぐいっと頭を後ろへ引かれた。
 グキっと鳴る首。
「いったぁ、誰?」
 ぷっちんプリンを片手に、口にスプーンを咥えているレイ。
「シンちゃんには、あたしのをあげるね?」
 レイは素早く手にしていたプリンにスプーンを入れ、シンジの口に放り込んだ。
「あああああ!」
「おいしい?、ねえおいしい?」
 あははははっと、愛想笑いでごまかすシンジ。
 アスカはムーっと、やっぱり不機嫌になっていた。



続く




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