Episode:21_2 Take3
「ほら、ボサボサっとしてないの!」
「アスカあの日ぃ?」
「バカ!、もういいわよ!!」
「あーん、待ってよぉ〜」
どたどたと階段を駆け降りていく音を、シンジはまんじりとしながら布団の中で聞いていた。
今日はアスカは起こしに来なかった。
まだ怒ってるのかなぁ?
顔を合わせづらい。
レイにもだ。
これ以上、幸せ一杯と言った感じのレイを見るのは辛かった。
だから今日は見送らない。
もう少し、寝よう…
シンジは逃げ場を、温かな布団の中と決めこんだ。
●
学校。
「なんだこれぇ!?」
教室に入ったシンジは、大慌てで自分の机へ駆け寄った。
山積みの手紙。
「い〜か〜り〜…」
「うわ!、鰯水君!?」
ぐっと涙を堪えると、鰯水は一通の手紙をシンジへ手渡した。
「読めよ?、絶対にな!」
去っていく鰯水の背中を見て、シンジは察してしまった。
手紙を取り敢えずまとめ、シンジは机に座るなりため息をついた。
「手紙、見ないのかい?」
「カヲル君…」
今日もやっぱり、カヲルは先に来ていた。
「見なくてもわかってるよ…、いちゃつくなら隠れてしろって言うんでしょ?」
「ご明察、だね?」
「別に僕はいちゃつくつもりなんて無いよ…」
適当な封筒を取り、開けて見る。
「いたっ…」
シンジの指から血が流れた。
「シンジ君!」
慌てるカヲル。
逆にシンジは、落ち着いた様子で真紅に染まっていく右の親指を見つめていた。
「シンジ君、痛くないのかい?」
はっと、突然思い出したかの様に、シンジはカヲルに顔を向けた。
「あ、うん…、ちょっと舐めるには抵抗あるなって…、そう思ってさ…」
「貸してごらん?」
「あ、カヲル君、なにをするのさ?」
カヲルはシンジの親指をくわえ込んだ。
「か、カヲル君…」
なんだか気恥ずかしさに囚われる。
女子が嫉妬と羨望の眼差しを向けた。
男子からは軽蔑と侮蔑。
今日は首筋がちりちり痛いや…
いつもより強く感じてしまう。
普段なら無視してしまえるのに…
「さ、これで大丈夫だよ?」
いつの間にやら、シンジの親指にはばんそうこうが張られていた。
パンダ柄!?
シンジの目が驚きに見開かれる。
カヲルを見る。
いつもと同じ微笑み。
肌の白さのせいだろうか?、唇を赤く塗り上げたシンジの血が、やけに鮮やかに目に入った。
カヲル君、どうして?
どうして君がこのばんそうこうを持っているの?
足がかくかくと震え出すのがわかった。
同時に血の気が引き、寒気に襲われる。
「やっぱり保健室に行くかい?、顔色が悪いよ、血を見て恐くなったのかな?」
蒼白な顔を、心配げに覗きこんでくる。
シンジはその誤解をありがたく受け取り、訂正しなかった。
「ありがとう、でも大丈夫だよ、カヲル君…」
「ほんとうかい?、でも駄目だと思ったら早く言うんだよ?」
うん…っと、シンジは軽く頷いた。
カヲルは満足げに頷き返すと、自分の席へと戻っていった。
シンジは椅子に座り直す振りをして、ちょっとだけ彼の…、浩一の席を横目で見てみた。
だがそこに彼の姿は無く、シンジは、「僕には、もう関係の無い事なんだよね?」と一人ごちたのだった。
●
「んふふふ〜ん…」
一人にたにたとしているレイ。
「きんもち悪い奴め…」
アスカは頬杖を付いて、そんなレイをジト目で見ていた。
「ふふ〜んだ、何とでも言ってよ」
「そんなにその手紙の山が嬉しいわけ?」
レイの机の上には、シンジとは正反対の内容の手紙が積みあげられていた。
「え、これ?、まあこれも嬉しいんだけどぉ、これってば、あたしが可愛いって認めてもらえてるって事だしぃ!」
ぎゅっと手紙の山を抱き締める。
「それに、これだけの人があたしとシンちゃんのラブラブなとこを見たって事よね?」
殺してやろうかしら?
殺意が過る。
「あんたねぇ、シンジ以外の奴にもてて、どうしようってのよ?」
レイは熱のこもった視線を、制服から露出している肌で感じていた。
「いいじゃなぁい、シンちゃんだってきっと惚れ直してくれるもん!、「レイ、こんなにもてても、僕みたいなのを好きでいてくれるなんて、光栄だよ」、なーんちゃって、なーんちゃって、なぁんちゃってぇ!」
おバカ…っと漏らすアスカ。
「あんたそれ、カヲルのセリフにそっくりよ?」
どがっしゃんっと机ごとひっくり返るレイ。
「うにゃー!、やめてよそういうこと言うのぉ!!」
「あんたが現実を見てないからよ」
「現実ぅ?、見てるもん、ちゃんと」
「どんな現実よ?」
ふにゃっと、目元がゆるんだ。
「レイ?」
訝しげなアスカ。
旅行、行けると良いね?
応援、してるから…
でれでれとゆるみきるレイ。
「だめね、こいつは…」
後でシンジを問い詰めよう…
アスカは固く決心をかためた。
●
「あれ?、アスカ、クラブどうするの?」
「あんたバカァ?、あんたのせいで、出られる状況じゃなくなってんでしょうが」
本日最後のSHR(ショートホームルーム)が終わり、アスカはさっさと鞄に荷物を積めこんでいた。
「あんた、今日は一人で帰りなさいよ?」
「えー!、やぁよ、寂しいしぃ」
「あのねぇ?、あんたがテレビなんて出るから、あのケダモノ連中が群がってくるんじゃないのよ」
廊下に大量の人影。
「あんた一人で逃げ切りなさいよ、いいわね?」
「ふええ〜ん、アスカのいじわるぅ!」
嘘泣きだとわかっているので、アスカは全く取り合わなかった。
「しっかし、ほんまセンセも大変やのぉ」
「シンジぃ、羨ましいぞぉ〜?」
屋上、シンジの両脇を固めている二人。
トウジは鉄柵にもたれ掛かり、空を見上げていた。
ケンスケは逆に校門へとカメラを向けていた。
「僕に言われても、しょうがないのに…」
シンジはばんそうこうの巻かれた親指をじっと見ていた。
疼く、指先だからだろうか?、すごく疼く。
それはまるで、胸の痛みを強調するかの様に。
「バカシンジぃ!」
アスカが息を切らせて走ってきた。
「おお、怒れるアスカ様のご登場や」
「じゃな、シンジ、俺達巻き添えはごめんだから」
薄い友情である。
「ちょっと待ってよ!」
「こら、逃げるな!」
「トウジ、ケンスケ、親友なんだろ?、助けてよぉ!」
「友情とは儚いもんやで…」
「またあとで関係修復に努めるよ」
「裏切り者ぉ!」
がっちりとつかまれるシンジの頭部。
「お話は終わったかしら?」
ぎぎぎぎぎっと、音がしそうなほど無理矢理顔の向きを修正された。
「ご、ごめん!」
取り敢えず謝ってみる。
「なに?、なにか謝る事でもあるわけ?」
アスカの笑みは恐い。
「べ、別に無いけど…」
「じゃあなんで謝ったりするのよ?」
「だって、怒ってるみたいだし…、あ、そうだ昨日のこと!、でもあれは本当に偶然だったんだよ…」
「あんたバカァ?、このあたしがいつまでもあんたの言うことを疑ってるわけないでしょうが」
「え?」
一瞬ほっとする、でも…
「じゃあなんで怒ってるのさ?」
シンジはつい聞いてしまった。
「でもあんたがレイと何をしたのかってのが気になって気になってしょがないのよ!」
「なんだ、やっぱり昨日のことなんじゃないか…」
「バカ!、今日のレイ見た?、なんだかニヤニヤニヤニヤしちゃってさ、どうせまたあんたと何かしたんでしょ!?」
フェイスロック!
「いたたたたた!」
「ほらっ、さっさと白状しなさいよ!」
「ぼ、僕じゃないよ、僕のせいじゃないよ、レイが嬉しそうなのは!」
「へ?」
意味をつかみかねて、アスカは力をゆるめた。
「どういう事よ?」
「グホッ、ゲホゲホ…、言うと怒られるから言えないよ…、でもさ…」
何気に、シンジは校門の方を見た。
そこにはじっと、先程から一人の少年が誰かを待ち続けていた。
「あれ?、レイ、なに慌ててんのかしら?」
レイが駆けていく、少年、浩一のもとへ。
その後を追いかけているのは、結成されたばかりの綾波新党だ。
「ほら…、ね?」
シンジの声、だがアスカの耳には入らなかった。
「なによあいつ…、まるでシンジに向かって走ってく時みたいじゃない」
他人に興味を持たず、誰かだけを見て胸を弾ませて駆けていく。
その見覚えのある背中と雰囲気は、シンジに向かう時にしか見せなかったものだ。
「だから僕じゃないって言ったでしょ?」
シンジはしゃがみこんで、柵におでこを押しつけた。
「まさかレイが乗り換えたってぇの!?」
「さあ、どうなんだろうね…、僕にはわからない、わからないよ…」
うなだれる。
「シンジ…」
シンジはアスカの顔を見れなかった。
アスカだって同じなんだ…
そんな想いが強くなる。
アスカにも、僕よりも大事なものが生まれつつある…
だから今日一日で、いま初めて顔を会わせたんだもの…
会おうと想ってくれなかったんだもの…
会わせる必要が無いって、想われたんだもの…
静かに立ち上がる。
「アスカ…、今日、クラブは?」
「出るわよ、もちろん、出るつもり無かったんだけどね、レイ帰っちゃったし、この調子なら覗きが来る事も無いと思うし」
ちょっとだけ期待のこもった視線を向けている。
一緒に帰ろうって、言ってよ…
そうしたら、サボっちゃうのに。
だがいつにも増して周りを見る余裕のないシンジには、気づけるだけのゆとりがなかった。
「じゃあ、しょうがないね…」
昇降口へ向かう。
「あ、まってよ、シンジィ!、あんたはどうするわけ!?」
階段に足を踏み下ろそうとして、シンジは少しだけ動きを止めた。
ちょっとだけミズホの顔が浮かび上がる。
だがミズホは小和田先輩の元だろう。
カヲルは?、いない…
「一人で、帰るよ…」
その背中が、アスカにはとてもとても小さく見えてしまったのだった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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