Episode:21_3 Take1



 真っ暗な部屋だった。
 奥行きも天井の高さもわからない、ただそのど真ん中には、黄色い液体で満たされた透明のシリンダーが突き立っていた。
 その上方には人の脳をかたどった巨大な機械が釣り下げられている。
「シンジ君…、少し誤解してるみたいだね?」
 シリンダーの正面に立つ浩一。
 液体の中の人影が頷いた。
 冴えない顔、レイだ。
 スクール水着、高校のものはまだ買っていないので、中学で使っていたものを着ていた。
「でも、もう少しだけ我慢してくれないかな?、後でちゃんと説明しておくから…」
 こくりと頷くレイ。
 どういう事になっているのか、その液体の中に沈んでいるにもかかわらず、全く苦しそうな様子は無かった。
「それはぜひ、僕からも頼んでおきたいね…」
 浩一の背後、闇の中からカヲルが現れた。
 黒と白、カヲルは幽鬼の様に闇から浮き上がっていた。
「ロデム…、ナノマシーンの集積体による分子レベルでの治療か…、有効なのかい?」
 浩一の隣に並ぶ。
「運が良かった…、としか言えないね、シンジ君のヒトゲノムを手に入れていたのは、まさしく偶然だったし…」
 それはあの芦の湖湖畔で、ロデムに取り込まれた時のことを言っているのだ。
「もちろん君達の力を写す事はできない、かと言って、普通の人間の遺伝子では「負けて」しまうんだよね」
 見上げる、そこにウィンドウが開かれた。
 投影スクリーンだろうか?
「治療状況…」
「彼女の遺伝子をベースに、シンジ君のDNA細胞で欠損を補ってみた、ところが…」
 逆に侵食されていく。
「シンジ君のものは「質」が違い過ぎたらしい」
 次にレイのDNAが解析され、そのヒトゲノムを頼りに遺伝子が修繕されていく。
「結果は良好、問題は…」
 ピッと戦自から盗んで来たデータが表示された。
 その写真部分にはUnknownと赤い文字が入れられている。
「僕達にはなれず、だが最も僕達に近しいもの…」
「それを監視しに来た少女、なあカヲル君…」
 意味ありげに横目を向ける。
「ダメだよ?、あの人から必要以上には干渉しないよう、釘をさされているからね」
「それもシンジ君に害が及ばないうちは、だろ?」
 カヲルは答えなかったが、レイは思いっきり頷いていた。

GenesisQ’ act.21 3rd season
僕のとなり
「遅刻遅刻遅刻ー!」
「うう、毎度毎度、わたしが至らないばっかりにぃ〜」
 えぐえぐと泣きながら走るミズホ。
「もう!、ミズホのせいじゃないって言ってるだろう?」
「でもぉ〜」
 ぐるぐるメガネが上下に揺れて、今にも落ちそうになっていた。
「ミズホ!、それ以上自分のせいだって言ったら怒るよ?」
 びくっとするミズホ。
「し、シンジ様が、シンジ様〜」
「これからは、遅刻しそうだったら僕を置いて先に出る事!、いいね?」
「そんなの嫌ですぅ〜」
 足を止めて泣きはじめる。
「み、ミズホ!?」
「し、シンジ様と…、シンジ様と一緒に下校できないだけでも辛いんですぅ〜、登校まで別々だなんて、そんなの嫌ですぅ!」
 シンジは言葉につまった。
「で、でも僕のせいでミズホは毎日遅刻しそうになってるんじゃないか…」
 取り敢えずハンカチを差し出す。
「レイさんもアスカさんも先に学校行っちゃうのに、シンジ様までぇ!」
「あ…」
 っとシンジは、なぜミズホがそこまでこだわるのか悟った。
「ごめん、ミズホ…」
 胸に顔を埋めてくるミズホ。
 シンジはその頭を軽く抱いた。
「僕が気がついてあげなくちゃいけなかったのに…」
 ミズホは一人が嫌なんだ…
 一人で登校するのが寂しいんだ…、だから。
 ズビビビビ!っと鼻を噛む音で我に返った。
「ああ!、ミズホなんてことを!?」
 シンジのシャツで鼻を噛んでる。
「シンジ様が悪いんですぅ!」
 赤い鼻と、腫れぼったい瞼。
「うう、だからってこれは無いよなぁ…」
 シャツをつまんで、トホホとしょげる。
「さあシンジ様!、急ぎませんと本当に遅刻してしまいますぅ!」
「はぁ…、わかったよ、ミズホ…」
 諦めて走り出す。
「そうだよな、ミズホはミズホだから…、レイやアスカみたいになられたくないからって、逃げちゃダメなんだよな…」
「何か言いましたかぁ?」
「あ、ううん、なんでも…」
「きゃあー、どいて、どいて、どいてぇ!」
 横合いからの叫び。
 ゴッチーン!っと、シンジはとんでもない衝撃を受けた。
「あいってぇー!、何だよまたこのパターン…」
「ごっめーん!、先急いでたんだぁ…、って、シンジ君」
「マナさん!?」
 お互いの顔を確認して驚く。
「またマナさんなの!?」
「てへへぇ〜、ごめんねぇ?って、そんなこと言ってる場合じゃないよ!」
 お先にぃっと駆け出すマナ。
「あ、ちょっと待ってよ!」
 シンジも後を追う。
「シンジ様…、その方は?」
「あ、うん…」
 思い出したように振り返るシンジ。
「転校生なんだ、昨日来たばかりで霧島マナさん…、どうしたの?」
 浮かない顔をしているミズホ。
「あ、いえ…、少し…」
「少し、なに?」
 じーっと、マナを見るミズホ。
「あ、あたしの顔に何かついてるかなぁ?」
 器用に走りながら小さな櫛を取り出す。
 その柄には鏡が付いていた。
「あ、いえ…、その、なんだかレイさんにそっくりだと思いましてぇ…」
 走り方や話し方、明るい所や雰囲気や…
「そ、そっかな?」
 なぜかどもるシンジ。
「はい…」
 だがミズホはマナのことが気になって、シンジの態度のおかしさには気が付かなかった。
「レイ?、あ、あのシンちゃんとラブラブでテレビに出てた…」
 思い出すマナの言葉に、ピクッと来るミズホ。
 シンジはギクッと身構えた。
 ミズホはあの放送を見てはいなかったのだ。
「らぶらぶ?」
「うん、あれ?、見てなかったの?、シンちゃんとレイさんが芦の湖で…」
「あああああ、マナさん!?、急がないと遅刻しちゃうよ…」
 そのシンジの焦り方に、マナは「はは〜ん」っと苛めっ子の目つきを作った。
「シンちゃん、もしかして…」
「な、なんだよ?」
「ん〜んー、なんでもなぁい☆」
「なんだよ、気になるじゃないか、はっきり言ってよ!」
 むぅっとその様子を見ているミズホ。
「え?、はっきり言ってもいいの?」
「ああ、だ、だめだよ、それは困るよ!」
「もう!、どっちかはっきりしてね!」
 シンジの手を取る。
「ほら急がなきゃ!」
「あ、ちょっと!?」
 頬を赤らめるシンジ。
「てい!」
 っとミズホは二人を突き飛ばした。
「うわわわわわ!」
「ちょと!、なにするのよ!?」
 どたっとこけるシンジに対して、マナはその運動神経の良さを見せつけた。
 危な気も無く態勢を整えて、振り返る。
「わたしのシンジ様に触れるのはやめてくださいぃ!」
 はぁ?っとマナ。
「手ぇ繋いだだけでしょ?」
「それで十分ですぅ!」
 ちょっとミズホ…、と仲裁を試みるシンジ。
「シンジ様もシンジ様ですぅ!」
「え!?」
「シンジ様の浮気者ぉ!」
 べしっと鞄を投げつけた。
 顔面を赤く腫らして倒れるシンジ。
「ああ!?、シンちゃん!」
 アスファルトの上に膝をついて、マナはシンジを抱き起こした。
「むっきー!、シンジ様に触らないでと言ってるんですぅ!」
 ブン!っと二発目。
「甘い!」
 パシッと受け止めるマナ、直後ゴチンと、シンジが後頭部から道路に落ちた。
「ああ!、何てことなさるんですかぁ!」
「悪いのはそっちじゃない!」
「顔がー!、頭がぁー!」
 痛みに転がるシンジ。
 バチバチバチっと、そのシンジを挟んで二人は火花を散らしていた。
 遠くから響く始業のベルにも気がつかずに…






 ブツブツブツブツブツ…
 可愛い女の子が鋭い目つきで黒板を凝視している姿には鬼気迫るものがある。
 マナは机の上に両肘を突くと、目の前で手を組みあわせて独り言を呟いていた。
「あの…」
 皆恐がって近づこうとしない。
「あの、マナ…さん?」
 ギン!っと眼光が向けられた、うっと後ずさるシンジ。
「ご、ごめん…」
「あ、ごめんシンちゃん…、3秒だけ待ってね?」
 すーはーすーはーと深呼吸。
「なに?」
 っと、何とか対面だけでも取り繕う。
「あ、うん…、ミズホのことなんだけど謝っとかなくちゃと思って…」
「シンちゃんが謝るような事じゃないでしょう?」
「でも…」
 遅刻もさせちゃったし…と頭を下げる。
「別にシンちゃんのせいじゃ…」
「でも、ミズホが怒ったのは僕のせいだから…」
 にまっと笑みを浮かべるマナ。
「シンちゃんってさぁ、結構うぬぼれてるね?」
「え?」
「別にシンちゃんのことを取り合いしてたわけじゃないんだから」
「そ、」
 そんなつもりは…と、シンジは目を背けた。
「それともシンちゃん、あたしが取り合いに参加してもいいって認めてくれるのかなぁ?」
「なにぃ!?」
 ガタン!
「うわっ、鰯水君!?」
 隣の机を吹き飛ばして、その下から現れた。
「ま、またどうしてそんな所に!?」
「自分の胸に聞けぇ!」
「そんなのわかるわけないだろう!?」
 だっしゃー!っと一本背負いをかける鰯水。
「貴様あれだけの美少女を囲っておきながら、まだ飽き足らんのかぁ!?」
「ご、誤解だよ!」
「なら今ここで、霧島さんに宣言しろ!」
 無理矢理ぐいっと顔を向けさせる。
「あ、あの…」
「なぁに?」
 両手を組み合わせて、うるうると瞳を潤ませているマナ。
「その…」
「ええいはっきりしろ!」
「うん…、はっきりして欲しいなぁ?」
 期待に瞳を輝かせる、マナは器用にころころと感じを変えた。
「ぼ、僕は…、まだ好きとか嫌いとか、はっきりできなくて…」
「逃げるなこら!」
 がくがくとシンジを揺する鰯水。
「お前みたいな優柔不断がどうしてもてるんだ!」
「そ、そんなの僕にはわかんないよ!?」
「貴様、変なフェロモンでもばらまいてんじゃないのか!?」
「な、なんたよ、それ!?」
「美少女だけを引き寄せる、特別な…!」
 後半部分は、シンジの耳に入らなかった。
 引き寄せる、特別な?
 鰯水がまだ何か喋っている、シンジは視線を漂わせた。
 浩一が目に入る。
 笑ってる?
 何かが脳裏を過る。
 芦の湖、少年、特別なもの、特別な力、引き合うもの。
 …夢?
 そう、いつか見た夢、不吉な夢、嫌な夢。
 シンジ自身では無く、気になったのは力に引かれたから…
 そう、僕は会っていた?
 視界がぼやけてくる。
 僕は…、浩一君を知っていた。
 シンジは緩慢に手を動かして、胸倉をつかんでいる鰯水の手を払った。
「わかったよ…」
 なにがだ!っと鰯水。
「じゃあ霧島さん…、さよなら」
 ふらりと歩き出すシンジ。
 どんっと肩がぶつかったが、鰯水は寛容な気持ちで見逃した。
「勝った!」
 勝利感に酔いしれる。
「霧島さんっ…って!?」
 むーっと怒った顔で睨んでいるマナ。
「あなた、嫌い」
 なぜだー!っと、鰯水は頭を抱えて苦悩した。
 シンジは何とか自分の席にたどり着いていた。
 浩一はまだ笑って、その様子を楽しんでいた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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